第一六〇話 連絡ちょうだい作戦

 上野台さんと西島さんの会話が止まったので、聞いてみる。


「掲示板、半日でこんなに進化したんですね」


「ああ。なかなかえぐい仕様だろう。デマとか悪意のある投稿なんて自動で振り分けるところなんか」


「でもこれで、ある程度信用できる情報を探せるかもしれません。嘘がわかるようになっていますから」


 やはり2人とも知っていた。

 俺が運転中でも2人はある程度余裕がある。

 だから既に見て、知っているだろうとは思ったのだけれど。


「ただ私の場合、結局は全部読むんだけれどさ。何を書いてあるかを一通り確認したいから。まあ投稿者は全部で九〇人いないんだから、そこまで文章量はないんだけれど」


 全部読むというところで、疑問に思ったので聞いてみる。


「今回は生成AIに仕分けさせないんですか?」


「この程度なら自分で読んだ方が早い。生成AIに適切な指示を出すのって、実は結構難しいからさ」


 なるほど、確かに人数を考えると、全部読んだ方が早い。


「ただ今のところ、あまり面白いのはないな。前にネットで出ていた『世界を戻す為に、これを見た者は私に協力すべきだ』的なものとかさ。嘘がバレる仕様だから、書きたくても書けないのかもしれないけれど」


「確かにそうですね」


 それらしい事をかいたところで、#デマとか#悪意のある投稿なんてつけられたら意味がないだろう。


「あと皇居東御苑にいるだろう集団についても、記載はない。気づいていないのか、あえて書かないのかは分からないけれど」


 上野台さんの言葉で思い出す。

 そうか、東御苑にいる魔物の大集団について、ここで共有するという方法論がある訳だ。


 上手く行けば、誰かが攻略してくれるかもしれない。

 完全攻略出来なくとも、中の魔物を減らしてくれる可能性はある。


「皇居東御苑の集団については、公開しないんですか」


「書くという方法論は確かにある。情報を知った誰かが攻め込んでくれるかもしれない。大集団のボス本人が何か情報を書き込むなんて可能性だってある。でも、まだ終わりまで二週間ある。残り一週間になって、どうしてもあの集団に手を着けなければならない、となってからでいいかなってさ。あ、でも、こういうのはありかもしれないな」

 

 そう言って、そして上野台さんはスマホをポチポチ操作しはじめる。

 

「どうするんですか?」


「連絡下さいと書くくらいはいいかなと思って。例えば『北からゆっくりとした速度で長旅をしてきて、壕に囲われた中で籠城している誰かさん。何が目的なのか、話を聞いてみたいです。このメールアドレスにメール下さい』なんて感じでさ。

 こうやって聞いてみる件について、田谷君と咲良ちゃんはどう思う?」


 敵対したくない。上野台さんからは、そんな感じがする。

 しかし大集団の魔物を率いている以上、敵対存在だとは思うのだ。 

 個人の資質や性格は別として。

 

 それとも、敵だと認識しているからこそ、こうやって情報収集をしようと判断しているのだろうか。

 俺にはよくわからない。だからすぐに返答出来ない。


「私も話を聞いてみたいと思います。田谷さんはどう思いますか?」


 西島さんに先に、そう言われてしまった。

 そう言えば昨晩、西島さんはこう言っていた。


『錯覚かもしれないですけれど、あの集団を指揮している人の気持ちが、わかるような気がするんです』


 なら話を聞く機会を作るのは、ありだろう。

 それに話を聞くだけなら、問題は特に起こらないだろうし。


「俺も聞いてみるのは、ありだと思う」


「なら書き込むぞ」


 一秒程度で、それらしい投稿が掲示板に表示された。

 上野台さんが先程言ったのと、ほぼ同じ文面だ。


「さて、これで本人がメールをくれればいいんだがな。偽物ばかりメールを寄越すようだと、悲しすぎる。でもまあ、掲示板については、今はここまででいいだろう」


「そうですね。それじゃそろそろ部屋に行って、御飯にしましょうか」


 確かにそこそこの時間、風呂に入っていた気がする。


「ああ」


 部屋はこの大浴場と同じフロアにある。

 だから風呂を出れば、割とすぐ到着だ。

 もう三回目くらいの宿だから、俺も覚えている。


「今日は久しぶりに寿司といこう。まあ冷食のにぎり寿司を、魔法で解凍するだけだけれどさ」


 上野台さんの言う通り、一〇貫ずつ入っているにぎり寿司を魔法で解凍するだけ。

 勿論カップ味噌汁もつけるけれど、準備は簡単だ。

 

 高そうなマグロのトロをつまみつつ、まずは明日の予定の確認から。


「明日は国道四五号線を北上でいいんですよね」


「ああ。あっち側は今まで走っていないからさ。大きい街はないけれど、魔物が残っている可能性が高い」


 確かに三陸海岸側は回っていなかった。


「時間はどれくらいかかるでしょうか?」


「午後三時までには八辺の手前まで行けるだろうと思う。八辺の中心部は今日と同じように避けて、あとは宿に向かうつもりだ。場所は例によって、咲良ちゃん、任せた」


「八辺市街地から離れれば、あとは何処でも大丈夫なんですよね。もう魔物は新規出現しない筈ですから」


「ああ。でも移動が楽な場所がいいかな。高速のインターからそう離れていないとかさ」


「わかりました。後で調べてみます」

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