二三日目 八月一九日

第一六一話 そろそろ終わり?

 朝、久しぶりにとある行事が復活してしまった。


「ここの宿に泊まったからには、やっぱり朝日を見ながらお風呂で朝ご飯ですよね」


 そんな西島さんの意見が通ってしまったのだ。


 もう2人の裸は見慣れている。だから特に変わった事がないかぎり、風呂なら大丈夫だったりする。

 むしろ寝乱れた浴衣の方が危ない、というのは置いておいて。


 予定通り六時に出て、石薪、御名川、戸米と四五線の左右を行ったり来たりした結果、戸米市のファミレスで八時のレポートを確認。


『二二日経過時点における日本国第1ブロックのレポート

 多重化措置後二二/三五経過


 ブロック内魔物出現数累計:一九万六五五七体 

 うち二四時間以内の出現数:〇体  

 魔物消去数累計:一八万七〇四七体

 うち二四時間以内の消去数:七〇一体

 開始時人口:一一九人

 現在の人口:八五人

 直近二四時間以内の死者数:〇人

  うち魔物によるもの:〇人

 累計死者数:三四人

  うち魔物によるもの:二六人』


 今回は人間の死者はいないようだ。


『現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:五六・四 

 人間の最高レベル:レベル一〇一

 人間の最低レベル:六

 魔物の平均レベル:九・五 

 魔物の最高レベル:二五

 魔物の最低レベル:一 

 なお昨日八時以降、魔物の発生はありません。


 本ブロックにおける魔物出現率:一〇〇パーセント

 歪み消失率 九〇・四パーセント』


「あと四・六パーセントか」


「このペースなら何もしないでも間に合いますね。あと一三日ありますから」


「ただ魔物の全体レベルが減っているからなあ。その分倒してもレベルが上がりにくくなる」


 西島さんと上野台さんが話している。


「レベルが高い魔物の方が、低い魔物より戦う可能性が高い場所に出ているから、倒しやすい。そう考えれば悪い事ではないと思います」


「確かにそれはあるかもな。人がいない場所に発生するような魔物はレベルが低い。そんな場所で発生したから、他の魔物や人と戦うような場所に移動するには時間がかかる。故に高いレベルの魔物より倒しにくいという理屈でさ。

 ただ倒せる魔物が減っているのは確かだろう。なにせ魔物の消去数がたった七〇一体だ。うち私達だけで一〇九体倒している。残りの人間と魔物同士の戦いをあわせても五九二体しか倒せていない」


 そう言われると、確かに少ない。


「そんなに他の場所に魔物がいないんでしょうか?」


「わからない。東京とか元々魔物が大量にいた地域から一気に減ったのは確かだろうけれどさ。都市部を離れたらそれなりの田舎は結構あるとは思うんだ。Webカメラによる出現報告なんかも全国それなりにある感じだしさ。

 でもまあ、それはそれとして、私達は確実に倒せる魔物を倒しておこうか」


 そうだな。そう思って、そして確認した方がいい事を思い出した。


「そう言えば昨日、掲示板で連絡をとろうとした件、何か反応はあったでしょうか?」


 俺より先に西島さんが尋ねた。

 上野台さんは首を横に振る。


「メールは2通来た。どっちも偽物だ。文面を転送するから見てみてくれ」


 上野台さんがスマホをあれこれ操作する。

 三〇秒程でSNSに文章が送られてくる。


『お久しぶりです。もう一度直接お会いして、お話をしたいと思います。どの辺りが都合がいいか、連絡下さい。こちらから出向きます』


『外は危険そうなのでこもってみただけ。そろそろ魔物も少なくなったから、出てみてもいいかなと思う。出来れば会って話をしたい。都合のいい場所を連絡求む』


 なるほど。どちらも間違いなく偽物だ。


「何の目的でしょうか?」


「会う事にこだわっているようだからさ。支配して部下として使うのか、殺して経験値にするのか、どっちかだろう。あの掲示板風に言うと、#悪意のある投稿、という奴だ」


「あの人が連絡してくる可能性は無いでしょうか?」


「わからない。明日もこんな感じなら、また掲示板に書き込んでみようと思う。あとは……そういえばシンヤの情報もあるな」


 シンヤさんからの情報は、大体夜遅く、SNSでやってくる。

 それ以外の情報だろうか。


「確か中央線沿線沿いに西に向かった後、松本から戻って飯田線沿いに南下して、昨日は飯田に泊まったんですよね」


 西島さんの言うとおりだ。


「それ以外にも時々SNSで連絡していてさ。どの辺に魔物がいそうかとか、どの辺に他の人がいるかとか。例えば甲府で銃声らしき音を連続して聞いたとか、松本で高速を長野方向に向かっているらしい車の音を聞いたとか。

 そういう話のついでに、ちまちま近況を聞いたりする訳だ。改造ライフルの片手撃ちに慣れたとか、更にもう一丁、少し強めの片手撃ちライフルを造ってみたとかさ」


 なるほど。


「でもそのシンヤさんがニアミスした人達は、大丈夫なんですか?」


 西島さんの言葉に、上野台さんは頷く。


「ああ。特にシンヤの後を追ってくるような事はないようだ。ついでに言うと甲府の方も長野の方も、Webカメラに写っていた。

 甲府の方は、この世界になった後、東京方向から移動してきた奴だ。移動当初は南アルプス市付近にいたんだが、魔物が出なくなった後に甲府に移動してきた。四〇位の男性で単独行動。

 そして松本で出会ったのは男女二人組。カメラの画像がいまいちはっきりしないから、年齢はよくわからない。使用車両は高そうなBMWのクーペ。以降の足取りは不明だ。

 この辺の情報は一通り、シンヤに連絡済みだ」


 なるほど、と、いうことはだ。


「Webカメラを調べている事は、シンヤさんに教えているんですね」


「一六日、魔物が減ったと連絡を受けてきた後に教えた。こっちが回れない範囲の魔物を倒して貰えればありがたいからさ。経験値稼ぎのライバルであるとともに、協力関係でもある訳だ。

 ちなみに今朝の時点でのシンヤのレベルは九五だそうだ。だから田谷君の方が、今はレベルが上の筈だ」


 確かに、今は俺の方が上だ。


「今現在、レベル九八です。こっちは三人がかりですし、上野台さんが魔物のいる場所を探して計画を立ててくれていますから」


「まあそうだけれどさ。調子よく経験値稼ぎが出来るのは、多分今日までだ」


「えっ?」


 そう思わず言ってしまって、そして気づく。


「把握していた魔物を一通り、倒してしまったという事ですか」


 もう魔物は出現しないから、倒せばそれで終わりなのだ。

 上野台さんは頷いた。


「ああ。でもその辺については、車の中で話そう。移動している間にでも話せるだろうからさ。取り敢えず今日倒せる分は、倒しておいた方がいい」

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