第一六二話 ジャンクパーティ?
「田舎に出た魔物も、二日以上あればそれなりの地域には出ているだろう。時速三キロでも四八時間歩けば一〇〇キロ以上移動出来るからさ」
国道四五号線と並行して走る、国道三九八号を東に向かう車の中で、上野台さんの説明が始まる。
「だから今日辺りは、魔物もそれなりに交通便利な場所に出ているだろう。だからメジャーな道を走れば魔物を発見出来る筈だ。魔物が残っていればの話だけれどさ。
逆に言うと、そういう道を走っても魔物を発見出来なければ、その地域にはもう魔物はいないって事になる。何かの理由で動けなくなっているか、東御苑に留まっているような、特殊な集団の魔物を除いては」
運転しながら考える。
上野台さんが言ったメジャーな道とは、まさに今俺達が走っている道に限らない。
日本全国、何処にでもある。
そして……
「私達みたいに走り回っている人が全国にいれば、今日で倒せる魔物はほとんど倒してしまいますね」
西島さんも、俺と同じ事を考えたようだ。
「ああ、その通りさ。残るのは人間、人間が率いている魔物集団、そして人間が倒せない程度に大きい魔物集団、こんなところだろう。だから今日と、念の為明日、東北のメジャーな街を回ったら、今の方法での魔物討伐は終わりだ」
魔物が出なくなった以上、そろそろ魔物討伐も終わりになるだろうとはわかっていた。
でも上野台さんに明確にそう言われた結果、はっきり終わりだと意識してしまう。
上野台さんの言葉は、更に続く。
「それで2人に質問。こうやって走り回っての魔物討伐が終わったら、次は何処で何をしたい? 今すぐ決めなくてもいい。今日の夜に私がわかっている範囲での、人や魔物の分布を資料にする。だから明日の夜、3人で話し合って決めようじゃないか。という事で、今から『何処で、何をしたい』か、考えておいてくれ」
何処で、何をしたいかか。
ただその前に、問題がひとつある。
道が緩いカーブを抜けトンネルに入ったところで、俺は上野台さんに聞いてみる。
「それでも達成率によって、やらなければならない事が出てきますよね。場合によっては、今日で達成して元の世界に戻るなんて可能性だってありますし」
「まあそうだね。だからその辺も含めて、明日の夜という訳さ。明日夜に目標の九五パーセントに行っていなければ、何か今までとは別のことをしない限り、元の世界に戻れる可能性は低いだろうからね。さて」
トンネルを抜けたところで、上野台さんが二~三秒言葉を止めて、それからいつも通りの口調で続ける。
「木々に隠れていてよく見えないけれど、この先の街に魔物の集団がいそうな感じの歪みがあるような気がする。まだ五キロより先だけれどさ。もっとはっきり見えるようになったら、また言うけれどさ。一応戦う心づもりはしておいてくれ」
◇◇◇
魔物を倒しながら三陸海岸を北上して、ついに八辺の街の手前まで到達した。
途中で魔物を九八体倒して、昼食も食べた結果、今の時午後午後三時五二分。
「八辺市街は遠慮しておこう。という事で、宿は咲良ちゃん、何処にする?」
「明日は青盛からまわるんですよね」
「森岡からでもいいけれどさ。東北の主要都市を、高速で回るだけだから」
「なら青盛の市街地に、ちょっと泊まってみたいホテルがあるんです。今までは魔物が出るから市街地には泊まれませんでしたけれど、もう大丈夫ですよね」
「ああ、もう問題無いだろう。距離は……一時間四〇分かかるけれど、まあ問題無い。明日が楽だしさ。田谷君の運転がちょっと大変だけれど、大丈夫か?」
ただ移動するだけなら問題無い。
「大丈夫です」
「それじゃ、まずは青盛駅前を目指して下さい」
いつもは温泉メインなのだけれど、今回は違うようだな。
そう思いつつ、車を走らせる。
◇◇◇
そして一時間三〇分後。
「そこのバスターミナルを過ぎた先、左にタクシープールがあります。今回はそこに停めてしまいましょう」
車を停めたのは、まさに青盛の駅前、そのものだ。
そして駅とは反対側に、少なくとも2つはホテルが建っている。
「車を出る時に、今日の夕食を選んで行きましょう。今日は個人的にジャンクなものにしたいです。だからから揚げ、ピザ、ラーメンにしたいのですけれど、他に何か候補はあるでしょうか?」
ジャンクなものにしたいか。
何かいつもの西島さんと違うイメージだけれど、気のせいだろうか。
「なら、そっちに見えるコンビニで、コーラのペットボトルを持っていこう。あとジャンクならポテチは必需品だよな。これもコンビニに行けばある」
もちろんこれは上野台さんだ。
俺にはこんな事、咄嗟に思いつけない。
「いいですね。ならいっそ食料は、コンビニ調達にしましょうか」
「その方がジャンクだよな。ラーメンもカップラーメンの方がジャンクな感じだしさ」
「いいですね」
何かわからないノリに微妙についていけないまま、俺は二人と一緒に、五〇メートル位の場所にあるコンビニへ。
「やっぱりジャンクなカップラーメンといえば、ヤキソバですよね」
「ああ、上にかけるマヨネーズも忘れるなよ」
「このチェーン独自の唐揚げはフライヤーを使わないと無理ですか」
「そうだな。そこは冷凍食品のもう揚げてある奴で妥協しよう」
「コーラは赤ラベルの方がジャンクですよね?」
「ノンカロリーを標榜する人口調味料もジャンクだろ」
「そうですね。なら両方で」
二人の会話についていけないまま、西島さんと上野台さんが指し示す商品を一緒に収納していく。
どう考えても夜と朝では食べきれないなと思う量を収納した後。
「これくらいあれば充分でしょう。それでは、今日のホテルに行きましょう」
コンビニを出て、西島さんにあわせて、歩いて行く。
向かっているのは駅そのものの方向だ。
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