第一六三話 ジャンクなパーティの理由

 駅ビルに入って、そしてエレベータで四階へ。


「今日のホテルの部屋は広いので、ジャンクに宴会をするのにちょうどいいです。宴会の口実はないけれど、今日はジャンクに騒ぎたいです」


「口実ならあるぞ」


 上野台さんがそんな事を言う。


「何ですか?」


「田谷君、おそらく今日でレベルがブロックのトップになっただろう。違うか?」


「確かにレベルは一〇四まで上がりました。でも、特に日本一になったと言う表示は出ませんでしたし、まだわからないです」


 一位になったのなら、何らかの表示が出るような気がする。

 それに他の人がそれ以上になっている可能性は、否定できない。


「いや、私の予測ではそれで充分な筈だ。そして今後も、よほど特殊な事をされない限り、抜かされる事はないと思う」


 抜かされないという理由は理解できる。


「もう魔物が残っていないからですか」


「そういう事。残っている大集団に攻撃を仕掛けるか、複数の人間を倒すかしない限り、レベルが上がるような経験値を獲得するのは不可能だからさ」


 四階のエレベーターホールから歩いてすぐのところに、ホテルのエントランスがあった。

 上野台さんはいつものようにフロントの奥へ行って、鍵を幾つか持ってくる。


「宴会用にエンペラースイート、寝る為用に普通のツインの部屋を一つ、ダブルベッドの部屋を一つ確保しました。お風呂の鍵は6階の受付にあるようなので、そっちで確保します」


 やはり風呂タイムは、あるようだ。

 今回は場所が駅前だし、時間もいつもより遅めだから、無いものかと期待していた。

 この辺は西島さん、ぶれない。

 いつもと違う気がしたのは、気のせいだったのだろうか。


 エレベータで6階まで行って、そして受付っぽい場所へ。


「フィットネスジムとかヨガスタジオなんてのも、あるみたいだな」


「ええ。ここはウェルネスホテル、というコンセプトみたいです。ヨガとか瞑想とか運動とか食事とかで健康になろうとかいう類いの。私はそういった、根拠が怪しい医療代替行為は好きじゃないのですけれど、眺めがよくていいお風呂があるから、今日はこのホテルにしたんです」


 西島さんは受付の奥から鍵らしいものを取ってきて、そして建物の奥へ。

 案内板等を見ながら歩いて行って、そしてひとつの扉の前で立ち止まる。


「ここです」


 ◇◇◇


 ここは相当に高級なホテルのようだ。

 たとえば先程入った風呂。

 五~六人はゆったりと入れる大理石とか御影石で出来た浴槽。

 大窓のブラインドを動かすと見える、青盛市街地を見下ろす風景。

 

 風呂だけではなく、脱衣場も豪華だ。

 籐製のソファーなど、茶色いアジアンテイストで纏めた広いスペース。

 当然洗面台もしっかり豪華で、広い。

 これが大浴場ではなく、貸切浴場なのだから凄い。


 そして今いる、スイートもまた強烈だ。

 三人掛けの長椅子と一人用の椅子がある応接セット、五人分の椅子があるテーブル。このリビングダイニング風の部屋にカウンターで繋がっているキッチン。


 更に縦より横が長いベッドと、二人用のテーブル&椅子がある寝室が別にある。


 そしてしっかり広い洗面所と、大理石風の白い石で出来たそこそこ豪華で二人くらいは入れる風呂。 

 

 この部屋って一泊、幾らくらいなのだろう。値段を調べたが出てこなかった。 

 この半分位の大きさのジュニアスイートが、一泊一三万円位と出たので、倍の二六万円くらいだろうか。


 そして現在、応接セットのテーブル上に、部屋にそぐわない食品を並べて食べまくるという、よくわからない宴会が終わりを迎えつつあった。


 部屋にそぐわない食品とは、

  ○ ピザ

  ○ カップのヤキソバ

  ○ 唐揚げ

  ○ ポテチ(袋を広げてそのまま食べられるようにした状態)

  ○ コーラのペットボトル

  ○ モツ煮込み

といった代物だ。


 なぜ今日は、こういったジャンクな食べ物にしたか。

 これについては、西島さんが話してくれた。


 ◇◇◇


「このホテルそのものには罪はないんです。ただ、私は嫌いなんです。医療とは関係ない、こうすれば健康になるとか病気が治るとか、そういった医療代替的な全てが」


 ある程度パーティ? が進んだ後。

 若干据った目になった西島さんが、そう前置きして話しはじめたのだ。

 そういえば風呂に行く前にも、似たような事を言っていたなと思い出す。


「入院歴が多い私が断言しますけれど、本当の病気がそんなんで治る確率は、ごく低いです。医者のいう事を無視して退院させてそういった治療を受けさせて、取り返しがつかない状態になって病院に戻ってくる。そんな例も往々にしてあったりします。そんな効果が薄い、実際に病院にいれば五割くらいは治るところを、一厘治るかどうか。厳密に調査した訳じゃないですけれど、私の感覚的にはそんな感じです」


「まあ、それが妥当な評価だよな」

 

 上野台さんが頷く。

 

「そう皆が判断してくれればそれでいいんです。ただそういった代替医療、医療もどきは、その僅かな成功例を大々的に宣伝しまくるんです。

 本来の医療なら、何割かは治療効果がないというところまで明らかにします。でも医療もどきはそういう事は一切言いません。治せなかった数多くを無視して、何かの偶然で治ってしまったごくごく少数の実績を大々的に喧伝するんです。

 結果、考えの足りない人は欺されてしまって、面倒というか、迷惑な事を起こすんです」


 実際にそういう事があったのだろう。

 そう思いつつ、俺は西島さんの話を聞き続ける。


「そういった欺された馬鹿な人達は、病院の正規の治療でなかなか治らないと、『あの治療法を使えばいいんじゃないか』とか口出ししてくるんです。勿論本人は善意のつもりで言っています。その言葉がどれだけ愚かなことか、気づいていないだけです。

 そしてこちらが、そういった愚かな助言に従わないと、『あそこは治療をまともにうけさせていない。虐待だ』とか主張しはじめるんです。結果、ただでさえ私の病気で疲れているうちの母や父を追い詰める。

 そんな馬鹿のせいで、地域で白い目で見られたり、親族との関係がぐちゃぐちゃになったりしたんです」


 なんというか、ありそうな話だと思う。

 いや、実際にあったのだろう、きっと。

 病気そのものだけではなく、そういった事まで抱えていたのか。

 何というか、重い。


「でもまあ、今日のは逆恨みです。そもそもこの施設は代替医療をうたっていませんから。単に健康に対して意識が高い系の施設というだけです。

 ただそういった、医療と似て非な理論を見ると、つい嫌な事を思い出して反発してしまうんです。

 以上、ジャンクなパーティをやりたかった理由でした」


 ◇◇◇


 その西島さんは、ベッドの上に横になっている。


「こういったジャンクなの、食べてみると美味しいですよね。特にこのマヨネーズたっぷりのカップヤキソバ、後をひくおいしさです」


 そんな勢いで、あれこれ食べまくった結果。


「ごめんなさい。何か急に眠くなってきました。でも何か幸せな感じです。これが“至る”という感覚でしょうか」


 そう言って、近くのソファーで寝てしまったのだ。


「取り敢えず片付けるか。残った唐揚げとピザは朝食で食べればいい。ポテチはまあ、明日の行程中にでも食べれば」


「そうですね」


 収納魔法を使えるので、それほど手間はかからない。

 五分もしないうちに、片付けは一段落した。

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