第七二話 最悪の想定から二、三番目
連絡手段を確認した後。
そう言えば統率種なんて言葉が新たに出たなと思い出す。
調べた方がいいだろうか。そう思うと同時にスマホの表示が変わる。
『統率種とは自身の下位種を部下として従える習性がある魔物です。ゴブリンの場合ゴブリンリーダー、ゴブリンジェネラル、ゴブリンロード等が統率種です。
また統率種はゴブリン以外にコボルト、オーク、オーガ、トロル等に存在します』
言葉で想像する通り、部下を統率する存在のようだ。
ロードはいるけれどキングはないのだろうか。ふとファンタジー的知識でそんな事を思う。
『ゴブリンキングは統率種ではなく支配種です。自身の下位種以外の魔物も従える事が可能な、統率種の上位にあたる種別となります』
なるほど。そちらも気になる。しかし現時点で存在する脅威の方が優先だ。なので今は統率種について続きを読むことにしよう。
『統率種が従えるのは自身の下位種のみです。他の系統を従えることはありません。例えばゴブリンロードがオーク系統やコボルト系統の魔物を指揮下に入れる事はありません。
ただし統率種のオーガはオーク種を従える事があります。これはオーク種とオーガ種が近い種類である為です』
この辺は先程の支配種との違いだろう。更に先を読む。
『統率種の付近では以下のような派生種が発生することがあります。
例えばゴブリンの統率種がいる場合、近辺ではゴブリン派生種として、
〇 ソードゴブリン(レベル二~)
〇 アーチャーゴブリン(レベル三~)
〇 メイジゴブリン(レベル六~)
等が発生する事があります。
なお同様の派生種はホブゴブリン、バガブ等にも存在します。また通常種から進化して派生種となる事もあります』
つまり距離をとっても安全とは限らない敵が出てくるという事か。
これはなかなか厄介だ。今度からは止まる際、敵が遠距離攻撃をしてくるという前提で対処する必要が出てくるから。
複数の魔物がいる場合は注意した方がいいだろう。
『支配種に率いられた集団は、自分の集団以外の魔物及び人間を攻撃します。また倒した敵の経験値は統率種に半分入り、残りは率いている魔物全体に均等に配分されます』
つまり統率種が圧倒的に経験値を稼ぐ訳か。
ただレベルが高くなるとレベルアップに必要な経験値が多くなる。だからレベル差を保つにはこんなシステムにする必要があるのかもしれない。
次の表示が出ない。説明はこれで終わりのようだ。
さて、新しい情報が色々と入ってきた。あとで西島さんや上野台さんと情報交換する必要がありそうだ。
さしあたってあの男のページのアドレスを送信できるようにしておこう。そう思った時だった。
ガラッ、音がした。とっさに振り向く。
想定はしていたのだ。事案が起きない設定から最悪に近い設定まで。
そして今回は最悪から二番目か三番目くらいの想定内容だ。
「どうですか、こっちのお風呂は」
西島さんだけではない。上野台さんも後ろに控えている。なお最悪から二番目や三番目というのは、一応二人ともタオルを身体に巻いているから。
「見たとおり。結構快適」
「こっちの立ち湯、試してみようと思ったんだ。なので失礼」
とりあえず俺は立ち湯と反対側の壁際へ。見るのは前、松島の風景方向。
上野台さんがタオルをとったのが視界の端で見えた。不可抗力だからしかたない。
「あと岩鬼から氷山に行く途中寄ったサービスエリアで、美味しいプリンを持ってきましたよね。折角だからあれを皆で食べたいです」
はいはい。半ば忘れていたけれど確かにあのプリンは美味しい。
なので瓶を俺の分を含め3つ出して、西島さんに2つ渡す。
「そうそう、これです。これがさっき話したミルクっぽいプリンです」
「いいなあ。移動しているとこういうのも手に入るんだ」
わざとじゃない。人の視界って結構広いのだ。真横はギリギリ視界に入ってしまう。
ただだからと言って壁の方を向いているのも変だろう。だからぎりぎり視界に入るのは仕方ない。
更に言うと上野台さん、相当大きい。西島さんと比べてではなく、その辺のグラビア写真と比べても。
「うーん。立ち湯も悪くないけれど、やっぱり座る方がまったりできるな。移動!」
上野台さんがこっちの浴槽へ移動。幸い俺の隣では無く西島さんの隣へ。
一応この浴槽は三人くらいまでなら横並びに入っても問題無い広さはある。それでも同じ浴槽だと足先とかは気をつけないとふれあうし、手も不用意に広げたら触れてしまうけれど。
あと足を伸ばして入っていると西島さんや上野台さんの足も見えるのだ。ここの湯は無色透明だから。
もちろんまずい部分が見えるわけじゃないし、水の中だからはっきり見える訳でもない。
それでも全裸でいるという事実を認識させるのは充分だったりする。
とりあえず気を紛らわすために話を振っておこう。
「西島さんはレベル二一になってどんな魔法が手に入った? 俺は範囲防御と加速という魔法が追加されたけれど」
「自動装填と温度調整という魔法が追加されました。あと収納に冷凍指定が出来るようになりました」
スマホに説明が出たので読んでみる。
『自動装填とは遠距離攻撃において矢、弾等を補充する魔法です。銃の場合は弾倉及び薬室内に最大数の弾を補充します。
なおこの魔法を使用する際は、補充用の予備弾を手の届く場所に準備しておく必要があります』
『温度調整は指定した物を摂氏マイナス三〇度から摂氏一二〇度までの任意の温度にする魔法です。ただし液体を気体にしたり等、相を変える事は出来ません』
『収納時に冷凍指定をする事が出来ます。温度はマイナス一八度です』
なるほど。
「銃撃戦用魔法に風呂用魔法、食材確保用かな、つまりは」
上野台さん、俺よりずばりと言ってしまった。
「きっとそうですね。今回は特に何か魔法を欲しいと思うようなことが無かったからだと思います。
田谷さんは収納に冷凍機能は付いてませんか」
改めて自分のステータスを確認。
「ついていないな。西島さんだけのようだ」
そう言って思い出した。他にも二人と情報交換する必要があったなと。
スマホのブラウザにあの男のページを表示して西島さんに渡す。
「ここで検索していたらこんな情報がありました。おそらく昼間、駅の方で銃声がしたのはこれだと思います」
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