第一七章 実はデスゲーム

第七三話 夕食の準備

「なるほど。確かに時間も場所もあうね。写真も間違いなく船台駅前だ」


「レベル一五なんて魔物がいたんですね。しかも集団で襲ってくるという」


 俺の言いたいことはおおむね伝わったようだ。あとは二人が勝手に検索して把握してくれるだろう。


「統率種なんてのがいるとこの先一人で対抗するのは難しくなるな。しかもその上、支配種なんてのまで出てくるんだろう。

 レベル一五でこれなら八月二〇日過ぎころにはあちこちで魔物同士のグループが戦うなんてのが普通になる訳だ。

 これじゃ反則的に強くならない限り、人が単独で魔物と戦うのは難しいだろう。しかも統率種や支配種は経験値を得やすい分、レベルアップが早そうだ」


 確かに俺もそう感じた。それでも一応聞いてみる。


「隠れ住む、というのは無理ですか」


「咲良や田谷君は魔法で敵の居場所がわかるんだろう。私も空間の歪みで人や魔物がいそうな場所の見当をつけることが出来る。

 こういった魔法や能力を魔物が持たないとは限らない。そうなったらこっそり隠れるなんてのは困難だ」


「船の上とかは……二〇日以降は駄目っぽいですね」


 西島さんの二〇日以降と言ったのはどういう意味だろう。

 そう思ったらスマホの表示が変わった。


『八月二〇日以降は海や川等に魔物が出現します。水中戦能力が無い限り、船を使用するのも避けた方が賢明です。

 なお水中の魔物が上陸する事はありません』


 なるほど。西島さんはこの内容を見たんだな。そう思った時だ。


「どこかに人が少ないながら住んでいて、かつ三時間以内位で全体を回れる手頃な島ってないでしょうか」


 西島さんの言葉。

 人口が少ない島に移り住んで毎日魔物を全部倒すようにすれば安全だろう。

 きっとそんな発想だ。


「あることはあるよ。金華山……はちょっと大きいけれど、この付近にある幾つかの島は条件に当てはまっていると思う。近いからその辺から手頃な船さえ探せれば行く事は可能だろう。確か泳いで渡れるところもあるはずだ。

 例えば……塩竃の野々島とか寒風沢島なんてどうだ?」


 どれどれ……

 なるほど、此処から結構近い。しかも確かにこれ、その気になれば本州と橋で繋がっている宮戸島から泳いで移動可能なくらい近い。


「確かにこれ、籠もるにはちょうどいい大きさですね。泳ぐのには自信ないですけれど、ゴムボートで渡れそうです」


「だろ。多分それが生き残る割と簡単な方法の一つだ。

 他にも方法はあると思う。おすすめではないかもしれないけれど」


「どんな方法ですか」


 俺も聞きたい。他に思いつかないから。


「ならこの先は飯を作って食べながら話さないか。これ以上ここでおやつを食べていると夕食が入らなくなりそうだから」


 確かにそれは正論だ。西島さんもそう思ったのだろう。


「そうですね。なら上がりましょうか」


「ああ。それと電子レンジとかコーヒーメーカーとか、車に置いてきたもので使いそうなものは取ってこよう」


 そう言って上野台さんは立ち上がる。

 一瞬目をそらすのが遅れた。なので思い切り見えてしまった。

 細い身体なのにでっかい……間違いなくこれ、反則だ。


「田谷さんは上がらないんですか」


 西島さんに聞かれてしまった。


「ここは脱衣場が狭いからさ。少し間を開けるよ」


「私の洗浄魔法を使えば拭く必要は無いですけれど」


「脱衣所じゃなくてもここのスノコで着替えられるしさ。咲良の魔法収納に浴衣を入れて貰ってきたし」


 うん、向こうが正しい。

 仕方ない。上がるとするか。


 ◇◇◇


 浴衣に着替えて。一度部屋に市場で収納した冷凍魚介類を置いて。そして車から電子レンジとコーヒーメーカーを持ってきて。


 ただ俺達の部屋はメインルームを大きなベッドが占拠している。それにテーブルが小さくて調理等するのには向かない。


「近くの宴会用の部屋を借りましょう。確か大きいテーブルがあるちょうどいい部屋があった筈です」


 宿については入念な下調べ済みらしい西島さんがそう言ってフロントから鍵をまた一つ失敬して来た。


「宴会用の部屋でも良かったのですけれど、コンセントとか水場とかを考えると普通の部屋の方がいいかなと思い直しました。

 さっき入っていた貸し切り露天風呂の隣の部屋です」


 入って確認。こっちは広い和室に布団という部屋だ。大きい座卓もそこそこのテーブルもある。


 電子レンジやコーヒーメーカーを置いて、俺達の部屋から冷凍魚介類を持ってきて。

 そしていよいよ夕食の支度だ。


「この部屋にも備え付けのコーヒーメーカーとカートリッジがあります。まずはこっちでコーヒーを淹れてみます」


「それじゃ私は冷凍海鮮の魔法解凍と行こうか。実は前からやりたかったんだ。ただ市場へ移動出来る機会が無くてさ」


「俺は米と野菜類を電子レンジで用意します」


 よってたかって作業をして豪華な夕食が完成。

 もちろん豪華な、という形容詞は海鮮部分にかかる。具体的には、

  〇 マグロの大トロ、中トロ

  〇 タラバガニがでっかいの三匹

  〇 北海シマエビ

  〇 タコ

  〇 シメサバ

 というあたり。


 あとは、

  〇 お湯を入れたら出来る味噌汁(あさり入り)

  〇 アボカドとブロッコリー、きざみおくら、ホウレン草

   (電子レンジで解凍してドレッシングをかけただけ)

  〇 パックごはん

という内容だ。

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