第七四話 実はデスゲーム
刺身は無茶苦茶美味しい。
久しぶりに食べたからというのは勿論あるだろう。あと部位が日常で食べているものより高級だという事もきっとある。
ただそれだけではないような気もするのだ
「美味しいですよね、今日のお刺身」
「ああ。やっぱり魔法解凍、完璧だな」
なるほど、魔法を使って一瞬で解凍できるから味の低下が少ないなんて事がある訳か。
「マグロもいいですけれどカニもいいです。これだけ脚が太いとしっかり身が食べられます」
「だよな。私も何年ぶりだろう。値段を気にしたら出来ないよな」
甘エビも当然美味しい。ねっとりとした甘さがあって、俺はカニよりこっちの方が好きだ。
味変要員としてシメサバも悪くない。
そして魚介類ばかり食べると野菜や御飯も当然欲しくなる訳で……
シリアスな話題を思い出したのは、明らかに食べ過ぎたとお腹の物理的張り具合で気がついた頃だった。
「食べ過ぎました。でも後悔はしていません」
「必要ならまた市場に行っていただいてくるまでだけれどさ。ただ勿体ないから残りは魔法収納に入れておいてくれないか? 確か魔法収納は冷蔵庫くらいに冷たいんだろ」
「ええ、勿論しまっておきます」
テーブルが片付いて、部屋にあった湯飲みにコーヒーを入れたところで。
「さて、それじゃさっき風呂でした話の続きだ。何なら風呂へ移動して話そうか」
上野台さんが若干怪しい話題も含めて切り出した。
「いえ、今はお風呂はやめておきます。お腹を圧迫したくないので」
「実は私もそうだ。本当ならおやつも食べたいところだがそれも遠慮したくなる位に。それじゃこのままで話すとしよう」
上野台さんがそう前置きして、そして続ける。
「あと一〇日もすればかなりの魔物が徒党を組むようになる。人間が単独だと生き延びにくくなる日が来る訳だ。
なら無茶苦茶にレベル上げをしておくか、陸地から離れた島へ逃げるか。さっきの話はそこまでだった。
ただ島に籠もるのも絶対安全と言い切れない面がある。わかるよな」
西島さんが頷く。
「魔物が少なくなるからレベルアップしにくくなりますね」
「その通りだ。レベルが低いまま島に渡って、最終日に運悪く最高レベルなんてのが数匹出現したら大変だ。ついでに言うと食料面でも贅沢は出来なくなるしさ。
だからもし島に渡るとしたら海に魔物が出る寸前だろう。
という事で次は島に渡らないでレベルアップでどうにかする手段だ。さっきそれで思いついてスマホに質問してみた。魔物の統率種や支配種のように人間にも他の人間や魔物を統率、あるいは支配する魔法なり能力なりはないかと」
俺は自分のスマホを見てみる。
『魔法としても能力としても、類似の能力をレベル21以上で取得する可能性があります』
なるほど。そういう能力なり魔法なりは存在するようだ。俺達はまだ取得していないけれど。
しかしそういう事が出来る様になるとだ。
「そうなるとただ魔物を倒すというのは出来なくなりますね。自分の配下なら殺すなんで出来なくなります、感情的に」
西島さんが言うとおりだ。その結果。
「最後には人間対魔物ではなくなる可能性がある訳か。軍団を率いた存在と別の軍団を率いた存在、あとは淘汰される対象としての単独の魔物や人間という形で」
「そーゆーこと」
上野台さんはそう言って、小さくため息をついてから続ける。
「この世界のクリア条件は『歪みの総和を規定値以下まで消去』だ。これの意味するところは魔物と人間、あわせて一定数以上を倒す事だろう。
魔物の支配種による人間の支配とか、人間による魔物の支配なんてのを考えなければ話は簡単だった。とにかく魔物を倒して生き残ればいいだけだからさ。人間は魔物よりずっと数が少ないから無視できるし」
「ただこれからは人間すら魔物に使役される敵になる可能性も出てくるんですよね。あと、軍団化のせいで魔物が減らなくなる事も」
「ああ。ついでに言うと既に東京辺りでは軍団化が始まっているかもしれないな。レベル的にはまだ統率種までだろうから、数も最大十数体程度だろうけれど」
上野台さんや西島さんの言うとおりだ。
ところでどれくらいの数まで部下を作れるのだろう。スマホを確認して見る。
『レベル三五の支配種で最大千体以上』
軍と思えば多くはない。しかし数人で対峙するには絶望的な数だ。
思わず言ってしまう。
「デスゲームですね、まるで」
「元々デスゲームなのさ、設定は。ただ魔物に比べて人間が少な過ぎるから無視できていただけで」
言われてみればその通りだ。
歪みの消去とはつまり人間や魔物を倒す事。つまりは自分以外を倒すというデスゲーム。
「他の人の意見も聞いてみたいですね。あの船台駅付近で魔物を倒したと書いている人とか」
何の気なしにそう言ってみたところで。
「何なら連絡取ってみるか」
えっ?
上野台さんがあっさりそう言うけれど……
俺はスマホを確認して見る。間違いない。
「メールやSNSのアドレスが書いていないようだけど、どうやって連絡を取るんですか?」
「この人が泊まっている宿、実はわかるんだな。名鳥にあるサイクルスポーツセンターの宿泊施設だ。
行った事があるからさ、間違いない。よく見るとここの壁に棒が写っているだろ」
確かに壁から何か棒が突き出ている。
「何なんでしょう、この棒は。ぶら下がり健康器とは違うようだけれど」
西島さんには何かわからなかったようだ。俺もわからない。
「これは自転車を部屋の中にかける為のバーさ。確かにここも悪くはない宿かな。程よく人がいない辺りで、温泉があって。
ただ風情には欠けるんだよな。近代的で合理的すぎてさ」
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