第七五話 グループ名は未定
さて、宿がわかったのならば。
「押しかけるんですか、これから?」
出来れば夜に長距離を走りたくはない。自動車の運転にまだあまり自信がないから。
今日一日車を運転して大分慣れてはきたけれど。
「直接行く方が確実だけれどさ。信頼関係を築ける相手か、ある程度意思疎通して確かめてからの方がいいだろう。
だから今回は電話をかけてみる。あの施設は電話がある事務室は一階で、客室は三階以上だ。しかしそう大きな建物じゃないし一人しかいないなら充分聞こえるだろうと思う。
まずは五分位鳴らしてみて、出てくれるかどうか。そこから試してみようと思う」
「なるほど、電話をかけるって方法があるんですね」
全く思いつかなかった。何せ連絡を取るときは大体SNSかメールだ。スマホを電話として使った記憶はほとんど無い。
「まあな。だから私が電話するけれどいいか? まずはメールとかSNSで連絡を取れるようお願いするという感じでさ」
確かにそれなら問題は少ないだろう。西島さんがこっちを見たので頷く。
「お願いします」
「ああ。それじゃ電話をかけてみる。名鳥百合上げ温泉の電話番号はと……」
上野台さんはスマホで電話番号を検索した後、電話をかける。
プルルルルルル、プルルルルルル、プルルルルルル……
小さな音が鳴り始めた。
「これで向こうが出たら取る。五分経っても出なかったら多分出る気がないのだろう。
でもまあどうしても出られない理由なんてのもあったのかもしれない。トイレで踏ん張っている最中だったとかで。
だから出なくてももう一度だけかけてみるつもりだけれどさ。二回かけて出なかったら出る気はないと諦める。とりあえずはそんな方針で」
さて、出るだろうか。小さい呼び出し音を聞きながら俺達は待つ。
かけた本人は長期戦のつもりのようだ。市場から持ってきたらしい塩辛の瓶と、この宿の売店から持ってきた日本酒の瓶を座卓上に置く。
日本酒の蓋を開けたところで呼び出し音が止まった。上野台さんがさっとスマホの画面をタッチして、そして顔の横へと持ってくる。
「はい火葬場です。いやごめん冗談だ切らないで。電話をとるとついこういう事を言いたくなってさ。
本題。夜分申し訳無いけれど、ネットでそこに泊まっているのを見てさ。ああ、こちとら船台市民だからさ、まだ四年目だけれど」
また最初にしょうもない事を言ったようだ。
何だかなあ。そう思いつつ西島さんと同様、上野台さんの様子をうかがう。なお相手の声はぎりぎりで聞こえない。
「ああ、うん。それは大丈夫。今のところこっちも問題無くやっている。助けはなくても大丈夫。
うん、うん。そう、だからとりあえず情報交換出来る状態にしておきたくてさ……」
「うまく話をしているようですね」
小声で西島さんが俺に言う。
「ああ。そこは問題無さそうだ」
あの大学の学生なら頭は悪くない筈なのだ。言動的に変人っぽいとは感じるけれど。
「ああ、とりあえずはその方がお互い安心だろう。とりあえずは情報交換のみという事でさ。
一応こっちはあと二人、合計三人いる。今日の時点ではだけれどさ。厳密には二人プラス私という形かな。なんせ私、足がないもので。
あ、その通りにとるな。それは円山応挙の幽霊だ。今回は単に交通機関がない事の慣用句。自転車すら乗れない悲しい運動神経を誇っているんだ。あまりに悲しい事実は誇るしかないんだぞ。マジになったら悲しいだけだからな……」
話は弾んでいるようだ。
「こっちは人材豊富だぞ。可愛い女の子と食べちゃいたい位の男の子。私だって顔と性格さえ気にしなければ花の女子大生だ、一応は」
「うんうん、その可能性は否定しない。ふふふふ、私の名前はベーゼ。マジヤベーゼ。あなたたちの悪となる者、なんちて。大丈夫、顔はともかく身体、特に胸のサイズとウエストの細さは自信あるぞ。身長足りないしあれは中学生だけれどさ」
弾みすぎてよくわからない会話もしている模様。いいのかそんな事言って。まあ風呂場で見た限り胸とウエストのあたりは事実だろうけれど。
一〇分くらいその勢いで話した後。
「わかった。当座はその方針で。それではアリーヴェデルチ」
電話を切った。長かった、というのはともかくとして。
「どうでした」
「とりあえずSNSのグループ機能で話せるようにしようという事になった。
私が全員を招待する形にする。だからとりあえず田谷君、友達登録よろしく。具体的には私から登録するから追加を承認してくれ」
「わかりました」
スマホを手に取ってSNSアプリを起動する。
『みかりんさんを友達に追加しますか』
この名前は何だかなと思いつつ追加。
「それじゃちょっとまってくれ。グループ作るから」
ここは一言言っておいた方がいい気がした。
「あまり変なグループ名にしないで下さいよ」
「ぐさっ」
上野台さんがそう言って倒れる真似。
「何故わかった! 貴様エスパーか!」
やっぱり下らない事を考えていたようだ。
「参考までに聞きますけれど、どういう名前にしようと思ったんですか」
「まずは『世紀末救世酒伝説』。このばあいの救世しゅのしゅは主ではなく酒で。あとは『人類は衰退しました』、『やはり暴力‥‥!! 暴力は全てを解決する』なんてのも現状にぴったりかなと。『特務機関NERV船台支部』はいまいちか。あとはいっそ魔物側について『さよなら人類』なんてどうだ?」
よくもまあ、そんなに考えつくなと思う。しょうもない案ばかりを。
勿論俺が言うべき台詞は決まっている。
「全部却下です」
「大丈夫だ問題ない。後で変更できるからさ。という事で、とりあえずは『咲良ちゃんファンクラブ』で登録と」
「なんでそうなるんですか!」
◇◇◇
この後、五分程話し合った結果。
『グループ名未定』というグループ名に落ち着いた。というかとりあえず今は決めない事にしたというか……
なおこのグループには俺達の他にもう一人、シンヤという人が参加している。
『男、24歳。栃城出身でこの事態になる前は東京で会社員をしていた。愛車はNC750X。武器は警察拳銃。現在レベル二三。今後とも宜しく』
まともな自己紹介が出てきた。さっきまでここでやっていた会話とはえらい違いだ。
とりあえず俺も自己紹介を書いておこう。
『男、15歳、高校生です。元は茨樹にいました。船台まではトリシティ300で来ましたが現在は三人で行動しているのでホンダのN-BOX。基本的には槍を使った近接戦闘メインです。どうぞよろしくお願いします』
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