第七六話 明日の予定
「あとは明日以降、どうするかだな」
そう、その話があった。
元々俺と西島さんは松島に寄った後、象潟に向かうつもりだった。
しかし統率種、支配種が出てグループ抗争だの軍団だのといった可能性が出てくると、二人で逃げ切れる可能性は低くなる。
三人でも戦力はそこまで変わらないだろう。
ただ此処に上野台さん一人を残していくという気にはなれない。
それに今後を考える時間が欲しい。
「上野台さんや西島さんがいいなら、明日も今日と同じように三人で船台近郊を回りませんか。状況が変わった今、もう少し考える時間が欲しいです。それに今日結構倒したとはいえ、船台近郊がこの辺で一番経験値を稼げそうですし」
「私としては大歓迎だけれどさ。一人だと動き回れないから経験値も稼げないし。
咲良はどう思う?」
西島さんの答は何となく予想出来た。
「私も三人の方がいいです。それに船台、観光するつもりだったのにまだ出来ていませんから」
方向性は予想通りだ。観光については忘れていたけれど。
「そういえば観光案内するって言ったけれど忘れていたな。駅方向に行けなくて、そのままになってさ」
「この状態で船台で観光って何が残っているんですか? 前も聞いたような気がしますけれど」
「今となっては青葉城とその周辺くらいかな。城跡と資料館と銅像と。他にも神社とかあるけれど、とりあえず船台ならではとなるとやっぱり城だろう。
あとはでっかい観音像がある。見るべきものかどうかは微妙だけれどさ」
確かに青葉城は定番っぽいなと思う。
「城の資料館ですか。そうすると……ひょっとして田谷さんが武器として使えるような刀や槍みたいなものはあるでしょうか」
あ、確かに。特に出来がいい槍があるとまた戦闘が楽になる気がする。
「確かにあそこにも何振りか刀はあった筈だけれどさ。刀目的ならちょい遠いけれど中鉢美術館が一番じゃないかな、この辺では。あそこなら槍はともかく日本刀が揃っている筈だ」
日本刀か。確かに包丁やナイフよりは強そうだけれど間合いが短い気がする。
遠くに行くより近くで現物を見てから考えたほうがいいだろう。
「そこまで行かなくてもいいです。まず日本刀の現物を一振り見て触って、今の俺の戦闘に使えるか考えてからで」
「なら青葉城じゃなくて潮竈神社の資料館の方が近いな。あそこにも刀があったと思う」
確かに潮竃なら此処から見て船台の手前だ。
「なら行って確認したいですね。美術品泥棒になってしまいますけれど」
「どうせこの世界は
なら明日は潮竈神社に行って、あとは船台で経験値稼ぎという事でいいか。昨日のように三人で」
それが無難だろう。
「ええ。宿はどうしますか。此処でもいいですし、また気分を変えてもいいですし」
「それは咲良に任せていいんだろ。ここも悪くないけれどさ」
「ええ。此処もいいですけれど、他にも幾つか考えているところがあるんです。うち一箇所はこのシンヤさんが泊まっている場所ですけれど、他に秋兎温泉にも行ってみたい場所がありますから」
つまり移動するという事だな。
「わかった」
「それじゃ話し合っておく事は以上かな」
「ええ」
俺は頷く。西島さんも。
「わかった。それじゃこの部屋を片付けて向こうに行こう。向こうの部屋の方がいいんだろ」
「ええ」
西島さんが頷く。
「松島の景色はこの部屋の方がよく見えますけれど、向こうは朝日が昇るところが見える筈なんです。
だから朝、露天風呂でゆっくり朝日を見ながら朝ご飯を食べて、それから出ようと思っています」
西島さん、ここでもその習慣をそのまま続けるつもりのようだ。
しかし今は上野台さんがいる。だから俺はパス出来るだろう。
「そういえば風呂で言っていたな。熱いお湯につかりながらフルーツグラノーラにヨーグルトをかけて食べると美味しいって」
「ええ。特に朝日が見えると最高です。昨日は天気が悪くて見えませんでしたけれど」
「いいな。私も試してみるとしよう」
こうなったか。なら俺は謹んで遠慮させて貰おう。
「俺は明日はいいよ。普通に隣の大浴場に浸かるからさ」
朝風呂に目覚ましがあるのはわかっている。それにここ数日で朝湯が習慣化してしまった。
だから風呂には一応入る。でも一緒には入らない。以上だ。
「わかった。それじゃこの部屋を片付けて移動するとしよう」
「ええ」
食べ物はもう仕舞ってあるし、余分な皿も魔法で収納済み。
座卓の上を拭いて、湯飲みを洗って元の場所へ置けば片付け完了。
最初に入ったベッドの部屋へと戻る。
「ひとりだけそっちの部屋というのも寂しいですから、こっちで寝ましょう。このベッドは広いから私と二人でも全然大丈夫です」
確かにこの部屋のベッドはダブルベッド一台とシングルベッド一台。ダブルベッドで西島さんと寝ても広さの問題はない。
しかしスペース的には大丈夫でも、倫理的とか気分的とかn問題はあるのだ。
「いいよ。一人部屋の方が気楽だからさ」
「こっちだと三人で話しながらなんてのも出来るぞ」
こら上野台さん、そこで西島さんの尻馬に乗らないでくれ。
上野台さん、基本的にはまともなのだけれど所々ヤバい面がありそうだ。だから気をつけないと。
だいたい浴衣って朝起きた時点で結構ヘロヘロ状態になっているのだ。西島さんはともかく上野台さんがその状態だと……
完全にヤバい絵図面になる。間違いない。
「今日は眠いのでこっちがいいです」
そう言い切ってソファーベッドの方へ。
扉はないけれど、ベッドの向きと頭の方向の関係で視線は届かない。
クッションを床に置いて、近くの戸棚にあった寝具を上に載せる。
シングルベッドより少しだけ幅が狭い。それでも充分な広さだ。
横になると同時に眠気が襲ってきた。これで寝る事が出来る、そう思ったけれどなかなか寝られない。
頭の先、隣の部屋で思い切り二人の気配を感じるからだ。
西島さんにはもう慣れたけれど、上野台さんには完全に慣れていない。
この場合の慣れた慣れないというのはエロっぽい意味。
何せ風呂である程度見てしまっている。
おかげで悶々とした状態で眠つけない……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます