第一七〇話 俺が気づかなかったこと
俺が取得しているスキルについて、スマホに表示させてみる。
『運動能力強化(最大)。反応強化(最大)。持久能力強化(小)。
視力強化調整(最大)。聴音強化調整(中)。思考速度加速(中)
武器使用・槍(大)。武器使用・銃(大)。武器使用・刀(小)。
耐衝撃(最大)。耐高熱(小)。耐精神攻撃(最大)。耐支配(最大)。
体力回復(最大)。魔力回復(最大)』
見慣れない表示だと思って、そして気がついた。
こうしてスキル一覧を見るのは、実は初めてだったと。
魔法一覧はレベルアップした際に表示されるが、スキル一覧は表示されない。
そして俺の場合、スキルは意識しなくても何とかなった。
だから意識してスキル一覧を表示させる機会が無かったのだ。
こうやって見ると、戦闘面ではかなり強力な気がする。
このスキルと先ほどの魔法があれば、魔物の集団の中に切り込んでいってボスを倒すなんて戦い方も出来そうだ。
最近は安全と効率を考えて、遠距離からの銃撃ばかりだけれど。
取り敢えず今見た魔法やスキルをまとめて、SNSで上野台さんと西島さんに送る。
「俺の今の魔法とスキルを送っておきました。参考にしてください」
「ありがとう。後で確認する」
「ありがとうございます。メールが終わったら見ます」
さて、やろうとした事はひととおりやった。
そして俺以外の二人は、まだまだ作業中のようだ。
ならばという事で、久しぶりに掲示板を見てみる。
『もう魔物はいない気がする。山口県と広島県の海沿いぐるっと回ったけれど、レベル四とレベル七の二体しかいなかった #魔物情報』
『静岡、大井川上流の山間部、畑薙ダムを超えて椹島ロッジより更に先、二軒小屋のちょい先までバイクで入れる。魔物もいないし虫もいない! 林道バイカーには最高! 元の世界に戻る前に味わい尽くすぜ! #趣味 #バイク #キャンプ』
『こんなに魔物がいないのに、歪み消失率が九五パーセントいかないのはまずくないですか。今こそ皆で情報を出し合って協力するべきです。情報の集約と提供はやります。連絡ください。Http://www.******.**.*** #仲間募集 #悪意のある投稿』
『こういうのがいるからリアルタイムの情報を提供できないんだよな、危なくて #雑談』
『同意。あと危ないのは他にもいる。この前群馬の高崎付近で、車からいきなり銃撃された。確かBMWの8クーペで二人乗っていた。反撃したら逃げたけど #雑談 #危険情報』
これは今日出逢った、あのスポーツカーの事ではないだろうか。
ブラウザを立ち上げ、BMWのページを見てみる。
遠目で見たからはっきりしないけれど、形は似ている気がした。
遭遇したことと、車を壊したことを掲示板に書き込もうか。
一瞬そう思ったけれど、やめておく。
書いた方がいいのなら、上野台さんがとっくにやっているだろう。
特定される事はないとは思うけれど、それでもこっちの情報は出さない方が安全だ。
だから書かずに、そのまま掲示板を読み続ける。
『それにしても、残った魔物は何処にいるんだろう。あと九パーセントくらいは何処かにいる筈なんだけれど #雑談』
『日本第一ブロックの人間全員あわせても、〇・四パーセントくらいだしなあ #雑談』
『相当な奥地にいるんだろうって気がする。実は今日、東京の中心部、山手線内をくまなく回ったけれど、敵の反応は無かった。これでも一キロ以内なら敵の反応がわかるんだけど #雑談 #魔物情報」
ん!? 何かを感じてその書き込みで目が止まった。
三秒くらいして、やっと俺が何故気になったかに気づく。
皇居東御苑内には、魔物の集団がいる筈なのだ。
それなのに敵の反応がないというのは、おかしい。
『一キロ以内なら敵の反応がわかる』というのは、俺の察知+魔法と同じ系統のスキルまたは魔法だろう。
なら敵がいれば、間違いなくわかる筈だ。
なおかつこの発言は、嘘ではない。
嘘ならそれなりのタグがつく筈だから。
なら既に皇居東御苑を出て、他の場所へ行っているのだろうか。
それとも魔物は、既に倒されてしまったのだろうか。
今すぐ上野台さんか西島さんに相談するべきだろうか。
そう思った瞬間、思いついた。
敵でなければ、魔物であろうと察知+は反応しないのではないか。
そんな可能性を。
察知や察知+は、相手が人間だろうと敵意を持っていれば、敵として反応する。
なら魔物であろうと、敵意が無ければ反応しないのではないか。
スマホを見るが、解説は出ないようだ。
そして『敵意がない魔物』は通常存在しないから、確認は出来ない。
でも理屈とすれば、あっているような気がする。
そういう事はだ。
もし魔物がまだ皇居東御苑にいるのなら、支配している人は魔物に『人間を襲わないように』という命令を出していることになる。
そうすると、奴の目的は、やっぱり……
上野台さんが何日か前に言った言葉が、頭をかすめる。
『中で魔物を支配している本人に、元の世界に戻るつもりがあるなら大丈夫だろう。しかしそうで無い場合、場合によっては攻め込まなければならない可能性がある訳だ』
『あちらに元に戻るつもりがない場合は、だけどな。ただ奴は、私達やシンヤに追撃しなかった。少しでも歪みが減らないようにしている。そう考える根拠が無い訳じゃないって事さ』
上野台さんが言うように、この世界を元に戻さない為、歪みが消されないようにしている。
そう考えれば、つじつまが合うのだ。
西島さんは、その事に気づいているのだろうか。
気づいているのだろう、きっと。
この話をした時は三人一緒にいる時だったから。
だからこそ、西島さんは言ったのだろう。
『錯覚かもしれないですけれど、何かわかるような気がするんです』
元の世界に戻る気がない西島さんだからこそ、理解出来たのかもしれない。
戻る気がない、いっそこの世界ごと戻さないようにしたいという意思に。
上野台さんも気づいているのだろう。
だからきっと、こう言ったのだ。
『もしそうなってしまうのなら。咲良ちゃんみたいな子が戻りたくないと絶望するような世界なんて、滅びても構わない。
そう思わないかい、田谷君は?』
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