第一六九話 魔法の確認

 夕食の後は、一階の風呂に入りに行くだろう。もしくは隣接する巨大温泉施設の風呂かもしれない。


 しかし実際は、そうならなかった。


「今日はいつもより遅めですし、明日たっぷり入れるから、お風呂はいいです。それにメールの文面を少し考えたいんです。ですからこっちでもメールを受け取ったり読んだりできるように。設定をお願いしていいですか」


 あの温泉入浴原理主義者みたいな西島さんが、そう言うとは。

 思わず大丈夫かと確認したくなる。


「ああ、わかった。ただこのメルアド、どうしようもない奴からの下らないメールも入るようになったからさ。先方にその旨を伝えて引っ越した方がいい。当座の確認と次のメール用に、一応設定は教えるけれどさ」


 上野台さんの返答がそれという事は、多分問題はないのだろう。

 そう思うから、俺はこの件については何も言わないけれど。

 

 ただ下らないメールというのが気になる。

 なので聞いておこう。


「そのメールアドレスの設定、俺も教えてもらっていいですか?」


「ああ。ただ正直言って見るのも疲れるようなものばかりだぞ。返答もしない方がいい。面倒くさいことになる可能性が高い気がするからさ」


 教わって、受信したメールを見てみる。なるほど、酷い。

 まずはこんなメール。


『おそらく私の事だと思います。この前まで皇居にいましたが、今は出て六本木のグランドハイアットにいます。こんな状態ですし、合流しませんか。****@***.***に連絡くれれば高級車で迎えに行きます』

 

 これの地名と現居所、迎えに行く車の表現を変えただけに近いメールが、他に静岡の駿府城、長野県の松本城、大阪城、名古屋城、彦根城、広島城とある。

 少し単語や語調を変えているけれど、おそらくこれは同じ人間の仕業だろう。

 一見アドレスが違うが、よく見ると全て同じドメインのフリーメールアドレスだし。


 こんなのもある。


『こんな世界だから、貴方は私と共闘するべきだ。世界を取り戻すために、ともに戦おう。****@***.***で連絡を待つ』


『別件失礼します。こんな時だから連帯が必要だと思いませんか。既に30名程が集まっています。****@***.***へ連絡下さい』


 どちらのアドレスも同じドメインのフリーアドレス。

 なお、違うドメインのアドレス、あるいは違う連絡方法が書かれたもの、あるいは連絡方法が書かれていないものもある。


『助けて下さい。当方20代女子2名。女子だけで不安です。SNSのIDは@*****です。連絡下さい』


『なんだお前、釣りか。探すんならもっと具体的な事を書けよ。このくそボケ』


『何だよ。連絡してやったのに無視かよ。この馬鹿野郎、*ね』


『今こそ真実の神、オコトヌシ様に帰依する時である。信じぬ者は唯一神オコトヌシ様が火の中へ投げ入れるだろう。真実を知るにはhttp://www.*******.***へ』


 このうち、唯一神何とか以外のメールは、よく見ると同じ匿名メールサービスで送られている。

 何というか……


「これって、実質的に3人か4人だけじゃないんですか、メールを出しているのは」


「ああ。本当に東御苑にこもっている奴、唯一神何とかを信じている奴、それ以外の全てを書いている奴の3人だな、きっと。どうせ一人何役もやるなら、ばれないようにもう少し考えろと言いたいところだ。何というか、見るだけで疲れる。

 どうせこの後もメールを送ってくるんだろうからさ。さっさとメールアドレスを変えて、このメルアドは閉鎖した方がいい」


「そうですね。そのこともメールで書いておきます」


 片付いたテーブルにタブレットを置いて、西島さんはポチポチメールを作っている。


「それじゃ私はそこの机を借りていいか。Webカメラの情報を確認しておきたい」


「私はこのテーブルを使うから大丈夫です」


「俺はスマホだから、机は使いません」


「わかった。ありがとう」


 上野台さんは机と椅子のセットの方へ移動し、パソコンを取り出して作業を始めた。

 

 さて、俺は何をしようか。

 そう思った時、ふと思い出す。

 そういえば取得したスキルや魔法を、確認しなおす作業が必要だったなと。


 まずは魔法をステータス表示で確認してみる。


『田谷誠司の現在のステータス。レベル:一〇四。総経験値:二六七六九。次のレベルまでの必要経験値:二二〇。HP四一八/四一八。MP三八四/三八四。

 使用可能魔法(使用魔力):

  風撃(六~五〇)。炎纏(六~五〇)。遠当(六~五〇)。睡眠(一~魔力上限)。

  必中(三~三〇)。貫通(三~三〇)。爆裂(六~五〇)。自動装填(三)。自動照準(六)

  限定蘇生(二〇〇)。完全治療(六)。簡易治療(三)。完全回復(六)。簡易回復(一)。

  灯火(一)。作動(六)。涼却(三)。収納(常時・冷凍可能)(一二)。加熱(三)。修復(三~一〇〇)。整備(三)

  察知+(常時一五)。範囲防御(六~魔力上限)。防御付与(一〇~二〇〇)。

  加速(六~一二)』


 こうやって見てみると、思ったより魔法の種類は増えていない。

 目新しいのは睡眠、限定蘇生、修復、防御付与くらいだろうか。


 あとは西島さんが持っていたり、俺が使えた魔法の発展形だったりして知っている魔法だ。

 しいて言えば整備魔法は俺独自だけれど。

 一昨日手に入れた魔法で、撃った後の銃や車を整備するのに便利な魔法だ。


 ということで、目新しくて、かつまだ使用していない魔法の能力を確認してみる。


『睡眠とは、対象となる人または魔法を、三時間程度睡眠状態にする魔法です。一体につき一回あたり、一八/(自分のレベル-相手のレベル)の魔力が必要となります。ただし自分のレベルと相手のレベルが同じ、もしくは相手のレベルの方が高い場合は、使用出来ません』


『限定蘇生とは、死亡した人間を蘇生させる魔法です。ただし死亡して五分以内で、身体が生存に支障ない状態である必要があります。身体が生存可能な状態ではない場合、あらかじめ修復魔法で身体を修復しておくことが必要です』


『修復とは、物を修復する際に使用する魔法です。生きている人間もしくは生きている魔物を修復する事は出来ません。必要な魔力は修復対象の状態により変化します』


『防御付与は、自分から離れた場所にいる相手に、範囲防御と同程度の防御魔法を付与する魔法です。起動する際、対象は一〇メートル以内にいる必要があります。起動した後はどれだけ離れても、三時間の間、効果は持続します。なお対象が攻撃を受けた場合、術者は範囲防御で必要な魔力の二倍の魔力を消費します』


 蘇生は出来れば、使用機会が無い方がありがたい。

 そう思いつつ、次はスキルの確認に移る。

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