第一九三話 最後の方法

 それでもアラヤさんを、死なせずに済む方法か。

 なら……


「アラヤさんは不本意だろうし、上野台さんも賛成してくれるかはわからない。それに無茶苦茶強引だし、不確定要素も多いし、結構厳しい。それでもいいなら、アラヤさんを死なせずに済む方法はあると思う」


 無茶な作戦だ。

 それでも、一応は不可能ではない気がするのだ。


「どんな方法ですか」


「東御苑に突入して、魔物と戦わないようにしながらアラヤさんを探す。見つけたら睡眠魔法をかけて、そのまま東御苑の外へ連れ出す。

 体力と睡眠魔法に物を言わせた略取誘拐そのものだけれどさ。アラヤさんの魔物は先制攻撃をしないと思うし、出来ない事はないと思うんだ」


 こちらが魔物を攻撃しない限り、アラヤさんなら魔物に攻撃命令を出さない。

 ならアラヤさんがいる場所さえ探せば、そう難しくない気がするのだ。

 

 ただ問題は、アラヤさんが何処にいるか。

 どこまで短い時間で探す事が出来るか。


 俺の察知+では、アラヤさんを探せないだろう。

 そして睡眠魔法を掛けるには、どれくらい近寄ればいいのか。

 スマホを見て確認する。


『直接視認出来れば大丈夫です』


「睡眠魔法は……自分よりレベルが下なら、相手を視認出来る範囲で、魔力一八以下で使用出来るんですね。ならきっと、田谷さんなら出来ると思います。

 ただアラヤさんの意思を完全に無視した手段なので、やるならやっぱり最後、他の方法が出来ない時にしたいです」


 そこは西島さんの言うとおりだろう。

 しかしだ。


「問題は、何時まで大丈夫かだ。勿論、東御苑に敵がいるとわかっても、いきなり戦闘に入ってアラヤさんを倒せる奴はいないと思う。

 ただ『こちらが攻撃しない限り、向こうも襲ってこない』というのは気づくかもしれない。上野台さんのような歪みを見る事が出来る人と、俺や西島さんみたいに敵の位置がわかる人が組んでいれば。

 そうなると、攻略するのは難しくないかもしれない。魔物に攻撃しないでアラヤさんに近づき、倒す事を狙えば。

 その場合、アラヤさんの位置は魔法でわかる可能性がある。その作戦を採る場合、アラヤさんは間違いなく敵だから」


 そう、そんな誰かが出る前に対処しなければならない。


「でも田谷さんがそう認識してくれるなら、アラヤさんを攻撃しようとする相手は敵として反応するんですよね。私がそう認識しても、同じように。

 それに最悪の場合でも、それでもアラヤさんを助ける事は出来る。そう思うと、ちょっと安心しました。

 それじゃもう少し、お風呂にゆっくり入ってきます」


 俺はスマホを出して、東御苑の案内図を検索する。

 幾つか建物はあるけれど、何処にアラヤさんがいるのかはわからない。

 

『今いる場所も宿とか普通の家とかはないので、中にある病院で調達したベッドを会議室みたいな部屋に入れて、そこで暮らしているそうです』


 西島さんは、そう言っていた。

 ただ会議室みたいな部屋がありそうな建物は、幾つもある。

 皇宮警察本部あたりだと、中を探すのも面倒そうだ。

 

 ここは上野台さんに聞いた方がいいだろう。

 あの人は敵味方関係なく、歪みで位置を見ることが出来る。

 そして今、上野台さんがいる部屋からは、皇居東御苑が見える筈だ。

 ならば、アラヤさんがいる位置もわかっているかもしれない。


 取り敢えずわかるかどうか、確認をしておこう。

 今ならどうせ、まだパソコン作業をしているだろうし。


「ちょっと上野台さんの部屋まで行ってくる」


「わかりました」


 部屋を出て、鍵が閉まった事を確認して、上野台さんがいる筈の部屋へ。

 扉が閉まっているので、ノックする。


「いいよ。今手が離せないから、自分で鍵を開けて入ってきて」


 作動魔法で鍵を開けて、中へ。

 巨大なベッドひとつと長い机、テーブルに椅子二つという造りの、シンプルだが居心地が良さそうな部屋だ。

 上野台さんは机にいつものノートパソコンを置いて、何か作業をしている。


「話をして大丈夫ですか」


「画面から目を動かせないけれど、話だけなら大丈夫だよ」


 上野台さんのパソコン画面を見てみる。

 なにやら航空写真のようなものを、操作しているようだ。


 何をやっているのか聞こうかと思ったけれど、さっさと用件を済ました方が邪魔にならないだろう。

 そう思ったので、こう尋ねてみる。


「アラヤさんが東御苑の何処にいるか、上野台さんはわかりますか?」


「今は皇宮警察本部、旧枢密院の建物にいるようだ。何階かははっきりしないけれど、ある程度近くに行けばわかると思う」


 把握しているし、探す事も出来る様だ。

 そう思ったら、更に続きが来る。


「でも襲撃して攫うつもりなら、もう少し待ってくれ。あと三日、二七日の夕方まででいい。うまく行けば、戦わなくても何とかなる筈だ」


 えっ!?


「どういう事ですか?」


「私の策略にとっての、最後の希望ってところさ」


 意味がわからない。

 上野台さんも、俺が理解していない事に気づいているのだろう。

 パソコンを操作して画面を止め、俺の方を向く。


「田谷君の今の質問は、アラヤちゃんを死なせないために、最後の手段を取るために聞いたんだろう。その最後の手段とはいわゆる略取、強引にアラヤちゃんを攫って、東御苑の外に連れ出すというもの。違うかい?」

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