第四〇章 最後の仕掛け
第一九〇話 ホテルの室内プールにて
「ちょうどいいホテルがあります。東御苑のすぐ前です。お風呂が洋風セレブ的で私好みではないですけれど、屋内プールがついています」
「いいね。なら時間的には早いけれど、早速ホテルに行っていいかい。ちょっと本気で作業したい事があってさ。ならテーブルと椅子で作業できる場所の方がいい」
「なら田谷さん、道路に出たら、左折してゆっくり進んでください。次の交差点でUターンして、すぐ左に駐車スペース入口があります」
「わかった」
きっと泊まる可能性を考えて、調査していた宿だったのだろう。
そう思いつつ、俺は車を発進させる。
次の交差点までは、五〇〇メートルもない。
そしてUターンすると、確かにそれっぽい入口がある。
確かにこのホテル、東御苑から近い。
濠と道路を挟んだだけという場所だ。
「入ったら奥まで行ってください。その入口の奥、そこがフロントがある入口です」
言われた通りの場所に駐車して、車を出て、そしてホテルの中へ。
和風っぽい絨毯、飾られている高そうな絵、本物の大理石っぽい内装。
今まで泊まった中でも段違いに高級そうなホテルだ。
例によって西島さんが、フロントから鍵を持ってくる。
「今回は二三階、最上階です。皆で食事をとれる広い部屋と、東御苑側に窓がある部屋とその隣、合計三部屋を準備しました。あとプールとお風呂は五階にあります。まっすぐ部屋に行きますか?」
「いいや、せっかくだからプールに行こう。テーブルは持っているから、プールサイドでもパソコン作業位は出来るだろう。折角だから少しは夏休みらしい環境を味わいたい」
ホテルのプールか。
映えを気にする自称港区女子が生息しているイメージしかない。
此処は港区では無く、千代田区だけれど。
「わかりました。それでは五階です」
フロントからすぐのエレベーターホールで五階へ。
エレベーターを降りると、何処かで聞いたような名前のスパの受け付けがある。
「海外のミネラルウォーターと同じ資本のスパって訳かい?」
「みたいです。スパといっても温泉じゃなくて、エステ施設っぽい感じみたいですけれど」
天井が高くて幅が狭いエントランスを通り、男女別ロッカーへ別れる場所に出た。
「それじゃこっちで着替えてプールに行くよ」
「このメンバーなら別れる必要はないだろう。風呂も一緒に入っているんだしさ」
「そうですよ」
何だかなという過程を得て、ロッカー室で二人の方を見ないように着替えてバスローブを羽織り、そしてプールへ。
プールそのものはそれほど大きくない。
長さはそこそこ程度にあるけれど、幅は三レーンくらいだろうか。
ただし窓が大きくて多く、室内ながらそこそこ開放感がある。
「田谷君、ここのあたりにテーブルと椅子を出してくれ。作業をするからさ」
「わかりました」
上野台さんは本気で作業をするつもりらしい。
なのでシンヤさんから受け取った、キャンプ用のテーブルと椅子をセットする。
「あとあの揺り椅子が一つ、この辺に欲しいです」
「はいはい」
何というか、ホテルのプールに拠点を作っている感じだ。
なら俺も、泳ぐよりのんびりする方を優先しよう。
ここのプールには、ビーチベッドっぽいのも幾つか置かれている。
その一つに寝っ転がって、サイドテーブルにペットボトルのお茶を置いて、そして二人の方を確認。
上野台さんは、パソコンとポーダブルバッテリーを出して、作業を開始している。
そう言えば何の作業をするのかは、聞いていなかった。
「上野台さんは、何の作業なんですか?」
「掲示板の監視システムの構築と、東京へ入ってくる車やバイクの監視システムの構築。システムって程のじゃないけれどさ。生成AIに監視させて何かあったら通知を寄越す程度のもの」
「さっきの掲示板の件を受けてですか」
「ああ。経験値を求めてうろうろしている人間は、一〇人程度だとは思うんだ。東京近郊にいる人間あわせても、ここまで来る可能性があるのは二〇人ってところだと思う。でも念の為、監視出来れば監視しておきたい」
なるほど。
西島さんは出した椅子に座っている訳では無く、歩き回ってあちこちを撮影している。
確かに此処のプール、狭いけれどそこそこ映え要素はある。
丸の内のビル群と公園が見える景色も、なかなかいい。
それでは俺は、まったりするとしよう。
と言っても泳がないのなら、やることは昼寝か、スマホを見ることくらい。
まずは掲示板を確認する。
東御苑の魔物関係については、あの名古屋の人の書き込みの後、新しいものは無い。
上野台さんの書き込みで皆が警戒しているのか、それとも単にまだ読まれていないだけなのかは不明だ。
さて、次に何を見よう。
そういえば台風が近づいていた事を思い出して、確認してみる。
予報では明後日、二六日に九州南部に上陸するようだ。
少し速くなったが、概ね予想通りというところだろうか。
その後は東北東に向きを変え、高知沖を通って紀伊半島の先端をかすめ、東京方向へ来る模様。
東京には三〇日ごろという予報となっている。
ついでに天気予報を確認する。
東京は二八日ころから雨の予報。
東御苑で決戦なんて事になれば、大雨の中になるのだろうか。
そもそもそんな戦いは、避けられないのだろうか。
しかし今のままでは、西島さんを健康にして元の世界に帰すという事が、出来なくなる。
あと四国へ行ったシンヤさんは、どれくらい魔物を倒しているだろう。
もう経験値で、追い抜かれてしまっただろうか。
なら元の世界に戻れるとしても、西島さんを健康にするという願いは叶わないのだろうか。
そもそも願いが、どれくらいの経験値で叶えられるのか、わかっていない。
スマホを見ても、答は表示されないままだ。
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