第三〇話 新たな魔物

 途中コンビニとファミレスによってささっと昼食。今回は時間があまり無いので素直に弁当と飲み物、アイスでさっと片付けて、更に北へ。


「魔物がほとんど出ませんね」


 西島さんが言うとおり、アウトドアショップを出てから魔物がほとんど出ない。コンビニ手前でレベル一のゴブリンが一体出ただけだ。


「大きな建物が多いけれど原子力関係の施設とか病院とかで、人口そのものは少ないからじゃないか?」


「そう言えばそうですね。このまま順調にいけば岩鬼市にも簡単に着くんですけれど」


 しかしそう言っていられるのも九次川を渡って日太刀市に入るまでだった。

 川を渡って人家が増えだしたところから、五〇〇メートル走っては魔物が出て、の繰り返しになったのだ。


「昨日出現した分もあるんだろうな。水都の中心街ほどじゃないけれど、郊外よりはずっと多い」


「そうですね。レベル二程度なら問題無いですけれど」


 日太刀に入って五体目。思った以上に魔物に手間取って先に進めない事に、思わずイラッとしてしまう。


 わかってはいるのだ。焦っても仕方ないし焦る必要はないのだと。先を急ぐより魔物を倒して経験を稼ぐ方が大切なのだと。


 魔物のレベルは毎日上昇する。田舎は討伐者がいないから数だって増えるだろう。それに安全に対抗する為にはこちらのレベルを上げておく必要がある。


 それにレベル十一になればまた新しい魔法が手に入るだろう。だから出来るだけ早くそこまでレベルを上げておきたい。

 今のレベルは六で、経験値はスマホによると七九。


『レベル七になるにはレベル一の魔物を二人あわせて六体、レベル八なら二十八体、レベル九なら五十四体、レベル一〇なら八十体、レベル十一なら一〇八体倒す必要があります』

  

 スマホがこっちの思考を読んでそう表示。つまり出会った魔物全部がレベル二であっても五十四体は倒さなければ次の魔法を手に入れられない。

 だから魔物が出るのは悪い事では無い。確実に倒していくべきだ。それはわかっているのだけれど……


「何かいい調子で走りかけると止められるといらっとしますよ」


 西島さんも同じ事を思っているようだ。


「でも仕方ない。一体でも倒して経験値を稼ぐのが優先だ」


 もちろんこれは自分に言い聞かせている。


「そうですね。それに今回のホテルは岩鬼市市街よりずっとこちら側ですし、もしそこまでたどり着かなくても幾つか泊まれるホテルはあります。

 実は泊まる予定の宿よりもっといい宿もあったんです。岩鬼市より手前だから断念したんですけれど。

 だからゆっくり行って大丈夫なんです。そう自分にも言い聞かせているんですけれど」


 なるほど、やっぱり西島さんも俺と同じように自分に言い聞かせていた訳か。なら少し気を紛らわす為に雑談でもするか。


「参考までにどんな宿なんだ?」


 そう聞いたすぐ後だった。

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 お馴染み魔物出現の警報だ。


「適当に止めるから頼む」


「わかりました」


 左はコンビニ、前は交差点、右は港という場所。特に何も考えずに前後に車がいない交差点中央に止める。

 先に西島さんが降りたのを確認してからスタンドを立てて降りたところで。

 サササササ……

 思ったより近いところで他と違う音が聞こえた。右側方向だ。


 音の方を振り向く。いた、魔物だ。港の植え込み近くから出てきた。

 いつものゴブリンと色が違う。あっちは緑だがこれは黄色っぽい。


 危険だ。慌ててアイテムボックスから槍を出す。だが魔物が出たのはスクーターを挟んで反対側。


「速い! でも大丈夫です」


 西島さんの声。既に魔物に向けて拳銃を構えている。大丈夫だろうか。接近したら前に槍を出せるよう西島さんの横へ。

 人がジョギングするくらいの速度で魔物が近づいてくる。俺が西島さんの横斜め後ろで槍を半身に構えたところで。


 バン! バン! バン!

 

 拳銃発射音が三発。黄色い魔物は一〇メートル位先で横へと倒れた。周囲を確認、他に怪しい音はしない。

 西島さんは腕に装着したスマホを確認。


「レベル三のホブゴブリンだったようです。必中魔法を一回、使ってしまいました」


 やっぱろ俺より西島さんの方が落ち着いていると感じる。今までにない速い魔物を相手に冷静に三発撃って、なおかつ一発は魔法で確実に当てようと考えるなんて。


 とりあえず今、俺が出来る事は。そうだ、弾の補充だ。アイテムボックスから弾入りのプラスチックケースを出して西島さんに渡した。

 

「何というか冷静だな。初めての魔物であれだけ速く接近してきたのに」


「実は全然冷静じゃないです。怖いから当たったとわかるまで撃っただけで。本当は魔法無しでも弾一発だけでも大丈夫だったと思います」


 西島さんは空薬莢を捨てて空いた場所に弾を込め、残った弾の入ったケースを僕に返した。


「いや、どんな敵かわからないし、今のが正解だろう」


 西島さんから受け取った弾ケースをアイテムボックスにしまい、バイクにつけたままの自分のスマホで今の敵を確認する。


『ホブゴブリン:ゴブリンの上位種で身体がやや大きめ。他のゴブリンを四体倒してレベル三になったゴブリンが種族進化したもの』


 この辺はそこまで住宅密集地という訳ではない。確かに左側には街が続いている感じに見える。しかし右は港だし、家がある方もほぼ全部が一戸建てで、三階以上のマンションとかがある訳ではない。


 つまり水都の駅前のような場所ではない。それでも上位種が出てきた。という事は、つまり……


「これからはレベル高めの上位種も珍しくないし、日を追うごとにそういった魔物が出やすくなるという事か」


 今日これから通る筈の日太刀市中心部、そして今日の目的地の岩鬼市の中心部やその手前の御名浜。この辺は人口密度がここより高そうな気がする。

 つまりこれと同等か、より強力な魔物が出る可能性は大いにある訳だ。


「そうですね。バイクを停めたらすぐ降りて銃を構えるようにします」


「すまないが頼む。バイクのスタンドを出すまで俺は動けないから。

 あとこれからは警報が出たらすぐ停まるようにする。停まる場所を探している間に接近するとまずい」


「今までのゴブリンはゆっくりだったから楽でしたね」


「ああ」


 そう、ゴブリンは遅かったから、停めてスタンドを立てて降りてをゆっくりやっても問題なかった。


 ただどうやっても俺の対応は少し遅れてしまう。スクーターやバイクの場合、スタンドを立てないとマシンを離れられない。


 かと言って二輪ではなく自動車、というのは無理だと思う。

 軽自動車であっても通り抜けに苦労する場所が何カ所もあった。特に交差点、信号待ちで車が止まっているところなどはバイクでないと通過は無理。


 三輪バイクとかなら自立するのだろうか。今乗っているのも一応三輪なのだけれど、車体が傾くようになっているので自立しない。


 今日、宿に着いた後に調べてみよう。しかし解決するまでは西島さんに頼るしかなさそうだ。

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