第三一話 レトルトや冷凍食品も悪くない

 上位種に警戒しつつ注意して走る。しかし結果的にはそれほどの事態にはならなかった。むしろホブゴブリン戦の後、魔物の出現頻度が減ってきた感じがする。


 無論それなりに魔物を倒してはいる。しかし水都市の中央のように五〇〇メートル走る前に魔物が出るなんて事はなかった。一キロくらい走って魔物が出るかどうか。水都市の郊外くらいの出現率だ。


 それでも二キロも走れば一体は出て来る。だからそれなりに忙しく、魔物が減っているとまでは感じなかった。スクーターで三分走れば警告が鳴る状態が一時間二〇分位は続いたから。

 

 しかし一時間二〇分くらいそんな感じで走った後、人家が途切れ左側が田んぼになった辺りからぐっと魔物が減った。

 周囲に人家が少なくなった事も関係しているとは思うけれど、五分くらい走ってようやく出遭うかどうかという状態。


 今もそうだ。大津魚港近くで一体を倒してから五分近く経っている。


「魔物の出現頻度が減ってきた気がする。人口密度や絶対的な人口が少ない方へ向かっているからかな」


「人口密度が低いのはあると思いますけれど、魔物同士が戦って数を減らしたという気もします。

 あのホブゴブリンの後はレベル一のゴブリンが少なくなりました。ほとんどがレベル二で、レベル三も時々いる感じです」


 確かにそうだ。ホブゴブリンの二体目は出なかったけれど、レベル三のゴブリンは四~五回に一度遭遇した。他に出るゴブリンもほとんどがレベル二でレベル一は遭遇三~四回につき一体位。

 だから出現が減っても経験値はそこそこ稼げている。


 レベル三でもゴブリンのままではそこまで足は速くない。警報を聞いてすぐ停めれば、スクーターのスタンドを立ててから対応しても割と大丈夫。


「でもこれなら今日の宿は問題ないですね」

 

「ああ。でももうすぐ四時だから、岩鬼市中心部へは行かないで直接宿に向かおう」


「そうですね。レベルは問題ないと思います。もうすぐ九ですから。それに此処からなら岩鬼市の中心より宿の方が近いです」


 短いトンネルを抜けると案内が出ていた。


『福縞県 岩鬼市』


 時間を確認。ちょうど午後四時だ。


 そして途中通る御名浜の街は岩鬼市中心部と同じ位人家が多く見える。あくまでネットの航空写真ではだけれども。


 なので経験値稼ぎを兼ねて高速道路っぽくなった国道から外れ、まずはJRの駅側にある人口密度が高そうな場所へ。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 お馴染みの警報だ。すぐにスクーターを停める。西島さんが警戒している間にスタンドをかけてスクーターから降り、槍をアイテムボックスから出して構える。


 警報後すぐ停めると魔物が前方にいる事が多い。今回も前から音がした。すぐにゴブリンらしき姿を確認。色が緑だから通常のゴブリンで、速さから見てレベル三だろう。


「今度は俺がやる」


「わかりました」


 俺は槍を何時でも突き出せるよう半身の姿勢のままゆっくり前進する……


 ◇◇◇


 駅近くと御名浜の街はそこそこ人が多かったようだ。水都市街地ほどではないけれど、一キロ走らないうちに魔物が出てくる。大体はレベル二のゴブリンだ。


 そして岩鬼市に入ってから七体目のゴブリンを倒してスクーターに戻った時、俺はある店の看板に気づいた。家からそこそこ近くにもある、安くて冷凍食品が多い店だ。


 そろそろコンビニの弁当はやめた方がいいだろう。なら食べ物は冷凍かレトルトかフリーズドライ等のお湯で戻せるタイプか。

 ならこの店を見ていくのもいいだろう。


「そこの店で買い出しをしていいか? 確かレトルトとか冷凍食品を結構扱っていたと思う」


「うちの家も同じチェーンで結構買い物をしていました。確かに種類は多そうですよね。あとは中には入れるかどうかです」


 入口は閉まっているようだ。なのでスクーターに乗ったまま建物外周をぐるっと回る。建物を四分の三ほど回った所に搬入口っぽい場所があった。シャッターが開いていて中には入れそうだ。


「それでは失礼します」


 中へ入って、倉庫っぽい場所から扉を開ければすぐに店内だ。エアコンもしっかりかかっている。


「エアコンがかかっているとほっとします。もう夕方だし走っている間はあまり暑いとは感じないのですけれど」


「でもそうだよな。折角だから冷たい飲み物をいただこうか」


「私はアイスが良いです」


 勿論椅子なんてないので立ち食い。行儀悪いが見とがめる人はいないから問題ない。

 一息入れて涼んだ後、店内の探索を開始する。


「これは結構収穫がありそうです。保存出来るパック入りのものって結構あるんですね」


 まず最初に確保したのは冷蔵コーナーにあるレトルト惣菜類。


「ポテトサラダって時々ものすごーく食べたくなる事って無いですか。ああ、でもどれにしましょうか。冷蔵だからあまり多く持っていっても食べきれません」


 ポテトサラダと似たようなものとしてタマゴポテトサラダ、マカロニポテトサラダ、ゴボウサラダ等何種類かある。一キログラム入りなので三袋以上持っていっても食べきれないだろう。


「任せた」


「うーん、それじゃ後で答を出すという事で」


 肉系惣菜も結構ある。この辺は家でも時々世話になった。

 でも確か豚系統は少し臭う時があるんだよな。だからここでのベストな選択は多分これだ。

 

「美味しそうです。スパイシーチキンカレーで、鶏肉の大きな塊が入っているんですか」


「ああ。あとはこれ」


 同じシリーズのチキントマト煮も入れる。他にも美味しそうなのはあるけれど、これが俺の好みだったりするから。


「あと朝用にパックのハム……いえ、ここはベーコンにしましょうか」


 何かここでも時間がかかりそうな気がしてきた。まあ楽しいし、暗くなるまでまだ二時間以上あるから大丈夫だけれど。 

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