第一九八話 宣戦布告
『東京の皇居北東側付近に、魔物の大集団がいる。どう数えても一〇〇体なんて数じゃない。敵意に反応する魔法ではわからないが、魔物や人を感知出来る魔法持ちならわかる筈だ #魔物情報』
ついに具体的な場所が、掲示板に書かれてしまった。
しかも今度は、#デマとか#悪意のある投稿なんてマイナスのタグがついていない。
見ている間に、更に書き込みが追加される。
『獲得経験値が多いと、元の世界に戻った際、望みを叶える事が出来るという特典がある。この知識があれば、スマホで確認可能 #システム情報』
これもマイナスのタグがついていない。
俺達の他にこの情報を知っているのは、シンヤさんとアラヤさん。そしておそらくはあの二人組と、あの二人組から情報を聞いているとした場合に、名古屋から来た奴。
書いたのは、どちらだろう。そして目的は、何だろう。
「自分達の戦力では、東御苑の魔物相手には戦えない。そう思ったから、援軍を集めようと思ったのでしょうか」
いや西島さん、援軍なんてまともな考えじゃない気がする。
「乱戦に持ち込んで、あわよくば自分が一番有利な立場で戦おう。それくらいは思っているんじゃないかと思う」
何せ他人に攻撃しようとするくらいの奴だ。
上野台さんも頷いた。
「私もそう思う。事実だけを短く書くのは、デマとか悪意のある情報なんてタグをつけられないようにだろう。どう対処しようか。下手な事を書くと、こっちもまずいタグをつけられそうだ」
確かにそうだろう。
ところでこの件、シンヤさんは知っているのだろうか。
聞いておいた方がいい気がする。
「シンヤさんには連絡済みですか」
「向こうも確認済みだ。今からこっちへ向かうと言っている。深夜二時頃には到着出来るそうだ」
何か、シンヤさんには本当に申し訳ない気がする。
ただ、それはそれとして、俺達がとるべき作戦は何だろう。
上野台さんは、きっと最適な方法を考えようと迷っている。
しかし残り期間が少なく、なおかつアラヤさん、そして西島さんの思考や状況を考えると。
ふと思う。必要なのは熟慮とか、練られた作戦では無いかもしれないと。
むしろ単純でわかりやすい思いと、勢いではないかと。
相手以上の勢いで、圧倒してしまうべきではないかと。
ならふさわしいのは、どんな言葉だろう。
俺は上野台さんにも西島さんにも相談しないで、スマホで文章を打ち込んで、送信する。
相談すると、完成度は高くなるだろうけれど、勢いとか力強さが消えそうだ。
そして今回はむしろ、そういったものこそ必要な気がする。
『東御苑にいるのは、私達の友人です。ただし、もしこの世界が二七日の正午を過ぎても元に戻らないようなら、戦闘覚悟で話し合いに行くつもりです。
援軍は必要ありません。ですからどのような立場であれ、皇居東御苑に近づいて来られる方がいるなら、敵として攻撃させて貰います。これでも私はレベル一〇〇を超えているので、近づかれるなら死ぬ事を覚悟でお願いします』
誤字が無いかだけを確認して、送信する。すぐに掲示板に表示された。
ついたタグは#魔物情報と#警告の二つ。#悪意のある投稿とか#デマといったタグはつかない。本気で本音で書いたのだから当然だ。
「うわあ……田谷君、ここでアラヤちゃんにではなく、ギャラリー側に宣戦布告か」
言われてみればこの文面、確かに宣戦布告の相手、アラヤさんというよりそれ以外の皆さん相手という気がする。
しかしその皆さんこそ、俺が牽制するべき対象だ。
だから間違ってはいない、きっと。
でも一応、ここは頭を下げておこう。
「すみません」
「いや、こうなったらついでだ」
上野台さんがそう言って、スマホをささっと操作する。
五秒位した後、掲示板に新たな投稿が現れた。
『ついでにおまけ情報。先程皇居北東側の魔物の大集団の事を書いた奴の心当たりは二組。片方は、群馬の高崎で人に銃撃してきたと掲示板に書かれていた、BMWのクーペ乗り二人組。こっちも福縞で追いかけられた覚えがある。あの時に私達が反撃して車を壊したら、昨日ベンツのクーペに乗り換えて東御苑に乗りつけてきた。派手な魔法で攻め込んだが魔物に反撃されて、結局は車を置いて逃げたけれど。彼らと共闘するつもりなら、後ろから撃たれないよう注意するべきだろう #注意喚起』
すぐ後に、もう一本投稿が続く。
『あとはさっきの二人組にメールで連絡を取ろうとした、名古屋から来た彼かな。大型のトラックに配下の魔物を積んで東京方向へ来たようだけれど。
この掲示板が開始された直後、#仲間募集とか#悪意のある投稿なんてタグつきまくりの投稿をした後、消えた奴とか、この世界が始まった頃に『この世界を無事に終わらせます。協力者募集』とやった奴と同一人物じゃないかと思うけれど、違うかな #注意喚起』
どちらも#デマというタグはつかない。
憶測だとしても、それなりの根拠があり、本人が信じているなら、デマとは見做されないようだ。
それにしても……
「上野台さん。まさか俺がああ書き込みすると予想して、あらかじめ投稿文を作ってました?」
「いや、田谷君はもう少し慎重だと思っていた。こんな書き込みをしたら、私達も狙われかねないだろう、間違いなく」
あ、考えてみれば……
「確かにそうですね」
「でも、私は嬉しかったです。きっとアラヤさんにも、通じていると思います」
西島さんのこの言葉は、慰めだろうか、本心だろうか。
もし本心だとしたら、書いた目的の何割かは達成出来たのだけれども。
「とりあえずすぐ移動出来るよう、拠点の部屋は最上階ではなくて下の階にしておこう。ここって客室、何階から上だっけ」
「八階です。ちょっと高いですね」
確かに最上階では、一キロ以内に敵が来た際、起きて支度して下に降りるのが間に合わない可能性がある。
「二階あたりで、適当な部屋が無いか見繕っておこう。テントとベッド、寝袋があるから、部屋さえあれば大丈夫だろう。上の部屋に置いてある物って、何かあるか?」
「私は無いです。全部魔法で収納しています」
「俺もです」
「ならこのまま移動して問題無いか。私も全部持ち歩いている状態だからさ。それじゃ片付けて、二階へ移動しよう」
プールサイドに出したテーブルを、料理やパソコンごと収納。
水着にバスローブ姿のままで、ビーチサンダルをはいてエレベーターホールへと向かった。
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