第一九九話 心は少年(by シンヤ)
二階の、一番小さめの宴会場に陣取る事に決定した。
「東御苑がよく見えるから、そういう意味でもいいな。この階の会議室では一番小さいしさ」
「小さいと言っても、テニスコートくらいの広さはありそうです。天井はそこまで高くないですけれど」
「置いてあるテーブルを寄せれば、テントを張って食事用のテーブルを出すのにちょうどいいと思います」
宴会場と言っても和室では無く、絨毯が敷き詰められ、長テーブルが置かれているという場所だ。
今は長テーブルが一列に四脚と椅子八脚、これが六列置かれていて、前方が空いているという配置になっている。
「なら今あるテーブルを移動させるか。収納の魔法でどれくらい一気に運べる?」
「試してみます」
まずはテントやテーブル等のキャンプグッズ一通りを出して、少しだけ収納をあける。
収納みるとテーブル四脚と椅子八脚、つまり一列分を収納出来た。これ以上収納することも出来るけれど、中途半端になりそうなので、このまま最後部へと持っていって出す。
「あと二列動かせば、大分場所が空くな。こっちはテントとテーブル、ついでに夜食や作業環境をセットするからさ。移動頼む」
「はいはい」
収納して出すの繰り返しだけだから、作業は簡単だ。
結果的にはテーブル全部を移動させ、かつ後ろに二段重ねでまとめて、広さを稼ぐ形にする。
「これならシンヤのテントも張れるな。上出来上出来」
テント二張りとテーブル一脚、ロッキングチェア、ハンモックと一通り並んで、配置が済んでいた。
「これはこれで、快適そうな感じですね」
「ベッドの寝心地だけは劣るかもしれないけれどさ。圧倒的に間違った感じがいい。超金持ち学校の、過保護なキャンプ体験みたいでさ」
なお現状では俺を含む三人とも、水着にバスローブ姿だ。色々間違った風景である事は事実だろう。
「あとシンヤには、状況と部屋移動について連絡しておく。だからまあ、問題はない。あとは此処や東御苑宛てに攻め込もうという奴が来ないよう、警戒する位さ。という事で、私の方は作業開始」
「それじゃ私の方も、アラヤさんにメールしておきます」
西島さんがそう言ったとほぼ同時に、スマホの通知音が鳴った。
西島さんが自分のスマホ画面を見る。
「アラヤさんからです。掲示板に書き足したそうなので、見てみてください。これから返信を書きます」
俺もスマホを出す。
掲示板に、新たな書き込みが増えていた。
『皇居東御苑にいる当人です。友人と書いていただき、ありがとうございます。実態は敵ですし、この立場は変わらないのでしょうけれど。二七日正午に戦闘開始、了解です。
あと私からも、この掲示板をお読みの方々へ、警告をさせていただきます。
どのような立場であれ、皇居東御苑に近づいて来られる方、あるいは先程友人と書いていただいた方とその仲間に近づこうとする方がいる場合、私の方からも敵として攻撃させて頂きます。
現在、私の配下には、一八一〇体の魔物がいます。ですから近づかれるなら、当然のことですが、死ぬ事覚悟でお願いします #魔物情報 #警告』
アラヤさん、居場所も魔物の数も、全部公開した。
タグを見れば、これが事実だという事はわかる筈だ。
そして、何となく思う。
実態は敵と書いてあるけれど、これは、きっと……
「アラヤさんに通じるまで、あと一歩って気がします。田谷さん、ありがとうございます」
そう、きっとアラヤさんに、こちらの思いは伝わった。
そして多分、西島さんにも。
なら俺の無謀な書き込みは、きっと間違っていなかった。
そう感じる。
「あと、シンヤに連絡しておく。こっちに急いで向かう必要はないってさ。むしろゆっくり、明後日の正午頃、こっちに着くように動いてくれって。あと到着と同時に戦闘になる可能性があるから、充分注意してくれって」
到着を遅らせた上、到着と同時に戦闘?
「到着を延期するのは、何故でしょうか?」
俺より先に、西島さんが尋ねた。
「私達は、シンヤが敵ではない事を知っている。アラヤさんも、連絡すれば攻撃せずに私達のところまで通してくれるだろう。
ただ他の連中は、それを知らない。だからシンヤが突っ込む隙に乗じて戦闘をしかけよう、なんて事を考える可能性があ……って、シンヤまで!」
上野台さんが、突如奇声を上げた。何だろう。
「何があったんですか?」
上野台さんが、溜め息をついた。
「シンヤは、予定通り今日の夜中二時に着くように来るそうだ。あとは、掲示板を見てくれ」
掲示板に、新たな書き込みが加わっていた。
『皇居東御苑付近で睨み合っている、旧知のパーティから連絡を受けたので、期日までに合流予定だ。同行は必要ないし求めない。近づいてきた者に対しては、現在の日本第一ブロック最高レベル保持者の力で、魔物だろうと人だろうと反撃するから、そのつもりで #警告』
うわあ、としか言いようがない。
こんな書き込みをして、狙われないだろうか。
「大丈夫でしょうか、シンヤさん」
「時速200kmでバイクでこけても、ほとんど怪我しないなんて魔法を持っているそうだ。敵の直接遠隔攻撃も、大抵のものなら数回は無効化できる魔法もあると書いている。
あと、男は何時になっても心は少年なんだそうだ。だから勢いで書いてしまった。反省はしていないって書いている。『大丈夫だ問題無い』なんてフラグじみたスタンプまでつけて。何というか、今までのシンヤのイメージがというか……
参考までに転送する」
俺のスマホが振動した。SNS通知だ。
見ると何というか……これは……
「シンヤさん、こういった一面もあったんですね」
西島さんが言うとおりだ。
文面もスタンプも、何というか、厨二っぽさ全開というか……
上野台さんはもう一度溜め息をついて。そして小さく『表情変更、きりっ!』なんて呟いて。
真面目な顔で、俺と、西島さんを交互に見て、そして口を開く。
「シンヤの連絡の形式はともかくとしてさ。ここまでお膳立ては出来たんだ。当日も私とシンヤで、外部からの攻撃は遮断してやる。だから咲良ちゃんと田谷君で、思い描けるハッピーエンドへ強引に持っていけ。期待して、いいよな」
「はい」
俺と西島さんは、頷いた。
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