第七〇話 本日の宿

 途中スーパーに寄った他はほぼ走って倒しての繰り返し。


「やっぱり中心部に近づくと魔物が強くなるなあ」


「オークが出たら引き返すという感じですね」


 という感じで船台の東側と北側の間をジグザグに走った後。


「そろそろ4時だし宿に向かわないか。予定以上に経験値を稼げたしさ」


 それだけ魔物を倒しまくったわけだ。市場に行った後に二〇体以上の魔物を倒している。それもレベル五以上ばかりを。


 おかげで俺も西島さんももうすぐレベル二一になりそうだ。魔力の制限があって倒せる数が少ない上野台さんもレベル一二になっている。


「それで相談なんですけれど、今日だけでなく明日も船台で経験値稼ぎをしませんか。これだけ経験値を稼ぎやすい場所は今後はそうそうないと思うんです」


 確かに今日は順調だった。そして経験値を稼いでレベルを上げておくことは今後生き残るために重要だ。


「そうだな。確かにここは魔物が多いし出る範囲も広くて倒しやすい」


「それで出来れば上野台さんにも協力して欲しいんです。船台の街は広いですし、案内があった方が絶対楽ですから」


「いいけれど、それは田谷君ともう少し相談した方がいいんじゃないかい。私がいると車移動の分動きが制限されるし、経験値だって魔物一〇体分くらい少なくなる」


 確かに魔物一〇体分程度、経験値にして一八〇くらいは上野台さん分になる。車移動だとバイクに比べて神経を使うのは事実だ。実際五回ほど通り抜け出来ずにバックして引き返したし。


 それでも船台くらい大きい街なら代わりの道はいくらでもある。それに車の運転もだいぶ慣れた。

 魔物も普通の街よりずっと多い。だから……


「俺はいてくれた方が助かると思います。車移動もまあ、船台付近なら大丈夫そうですし」


「ならいいけれどさ。それで宿はどこにするつもりだい? 幾つか候補は聞いたけれど」


「今いる場所が船台の北側ですから、そのまま北を目指して松島へ行こうと思います。カーナビにこの電話番号を入れてくれませんか。〇二二の……」


 言われた通り目的地入力モードにして、電話番号を打ち込む。目的地のホテルが表示された。ルートが計算されて表示される。


「三陸自動車道を通るルートでいいのか?」


「ええ。もう四時なので早くつく方がいいと思います」


「わかった」


 高速に乗るまで三体、高速を出てからの一般道でも三体。結果として俺もレベルアップしたし新しい魔法も覚えたようだけれど、確認よりも運転優先で無事宿に到着。


 今回はそこそこ程度の大きさのホテルだ。昨日の宿より少しだけ大きく、その前のホテルよりはずっと小さい程度。


「電子レンジとかはどうする?」


「レベルが上がったから、ぎりぎり……コーヒーメーカーまでは入りました」


 俺も収納中の中身を確認して……


「水ペットボトルと缶詰を出せばぎりぎり入りそうだ」


 電子レンジを収納して、そして宿の中へ。 

 入ってすぐにホテルっぽいフロントがあった。例によって西島さんがカギを物色。


「今回は一階の部屋をキープしました。ここが二階なので下です。でも崖の上なので、下から魔物が入ってくる心配はないと思います。

 でも部屋に行く前に、売店を確認しましょう」


 ここの売店は何というか和風かつ上品な感じだ。高そうな、いや実際お高い陶器とか上品そうなお菓子とかが並んでいる。空港なんかで海外の客向けに和風な感じの土産店があったりするけれど、あんな感じ。


「このお高いアイス、お風呂で食べるのにちょうど良さそうですよね。この緑のカップのって、この辺のオリジナルなんですか?」


 確かに他の地域でもお馴染みの高級アイスの他に、見慣れないパッケージのアイスが並んでいる。


「店は確か名鳥で評判は結構良かったと思う。ただ個人的にはアイスよりこっちかな、私は」


 上野台さんは日本酒派のようだ。大学四年と言っていたから年齢的には問題ないだろう。

 

「田谷さんは何かアイスかドリンク、持って行かないんですか?」


「ならアイスを持っていこうかな」


 ご当地アイスらしい緑のカップの、コーヒー牛乳というのを選ぶ。


「なら私はティラミスとイチゴシャーベット、いやこのハニーウォールナッツも……」


 どうやら迷っているようだ。


「何なら後でまた取りにくればいいだろ」


「そうですね。それじゃ今回はティラミスにしておきます」


 階段を下りて、廊下を歩いて、貸切露天風呂や大浴場への入口前を通過して、そして部屋へ。


 ベッドが大きいの一つ、普通の一つ。そしてガラス越しに露天風呂。勿論カーテンで見えなくすることも出来るようになっている。


 露天風呂越しの向こう側は海、そして島が点々。つまり松島という感じの景色だ。


 そして左側に細長い部屋がもう一室。こちらはソファーベッドと大画面テレビ、机が。寝る時はこっちが俺用だな、おそらく。


「いいですね、この露天風呂。こっち方向が東ですから、ちょうど朝日が見えそうです。部屋からすぐ出られますし、そこそこ広いですし……」


 そう、この露天風呂は危険だ。東向きで海が良く見えるなんて。気を抜くと西島さんがフルオープンにして入っていそうだ。


 ここに入られる前に先手をうつ必要がある。しかし時間はまだ午後五時前。夕食にはまだ早い。ならば……


「それじゃ俺は外の大浴場へ行ってくる」


「あ、それじゃ一緒に行きましょう。折角アイスを買ったので、中でゆっくり食べたいですし」


「そうだな」


 皆一緒かよ。まさか一緒に入るんじゃないよな、上野台さんまで。西島さんの体形ならぎりぎりセーフでも上野台さんは間違いなくアウトだ。


 上野台さんは言葉遣いは男っぽい。大雑把な髪型とかいい加減な恰好とかも。しかし顔はよく見ると可愛い系だし胸がかなり……


 まあそういう事はないだろう。そう思いつつ自分の分の浴衣とタオルを収納して、部屋を出る。

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