三日目 七月三〇日

第三七話 新スクーター入手

 三匹目のゴブリンを倒して五分程走って目的のバイク店に到着。

 入口の横手にある作業場っぽい場所のシャッターが半ば開いた状態になっていた。何か作業をしていたのだろうか。


「開いていてよかったですね」


「ああ。あとは目的のスクーターがまだあって乗れる状態かどうか。ネットで試乗可能と書いてあったから多分大丈夫だと思うけれど」


 入ってみると整備庫ではなく店内だった。店内スペースの一部を整備用に使っているだけのようだ。

 他の部分にはずらりとバイクが並んでいる。


 展示風にずらりと並んだバイクの他、出しやすいようにか入口付近に並べてあるバイクが数台。


 その中に今乗っているスクーターとよく似たものがあった。前が二輪で後ろが一輪。今乗っているのは警察仕様だからか白色だけれどこれは濃緑。


 ただ似てはいるけれど明らかに一回り大きい。そして白色に緑枠のナンバーがついている。

 つまり登録されていて、排気量が二五一CC以上。間違いない、これだ。


 スマホで調べた時には後ろに荷物ボックスがついているとあった。しかし今は外してあるようでステーだけついている。つまり俺の欲しかった状態そのままだ。


「このバイクですか。大きいですね」


「今のと比べるとエンジンが倍以上の大きさだからさ」


 車体横下のエンジンオイル点検窓を見る。とりあえず規定量は入っているようだ。

 ただ鍵がない。店の何処かにまとめておいてあると思うけれど、何処だろう。


 店内を見回してみる。並んだバイクと整備スペースの工具入れ等の他は会計などを行う場所だろう机とテーブルくらいだ。


 机の大引き出しを開く。それっぽい手提げ金庫が入っていた。鍵がかかっているけれど、これも机の他の引き出しから出てきた鍵で開く。


 金庫の中には予想通り大量の鍵が入っていた。荷札っぽいものでメーカーや車体番号等を書いて区別しているようだ。物によっては紙封筒に入っていたりする。

 メーカー名とナンバーから該当の鍵を確認。スペアを含めて2つあったので両方ともいただく。


 金庫と鍵を元に戻してバイクの所へ。キーを押してメインスイッチをONにする。メーターに表示が現れた。ガソリンはほぼ満タンのようだ。

 つまりこのまま走って問題ない。


「このまま乗っても大丈夫そうだ。ただ念の為、一度外へ出して軽く乗り回してみる」


「わかりました」


 正面扉を開け、スクーターを出す。正面扉を元のように閉めて、シャッターから外へ。

 そしてふと思って、今まで乗ってきたスクーターをシャッターから整備庫内へ入れる。


「こっちのバイクは仕舞っておくんですか」


「ここまで世話になったからさ。このまま雨ざらしは悪いかななんて思って。特に意味はないんだけれど」

 

 最初に選んだときはあの中で一番大きくて新しいスクーターだった。しかし今出したスクーターと比べると明らかに小さい。

 

「それじゃちょっと試してみる」


 そう言って新しいスクーターにまたがる。あとは基本的に今までのスクーターと同じだ。こちらの方が大きいし機能も多いけれど。


 走らせて確認。明らかにこちらの方が力がある。あと、やはり大きさを感じる。

 ただ実際は二人乗りだしそれほど無茶な走り方はしないつもりだ。だから問題は無いだろう。


 あ、二人乗りという事でふと気づいた。当たり前のように二人乗りで移動しているけれど、西島さんはそれでいいのだろうか。もし自分でも乗りたいというのなら、此処で適当なバイクを選んでもいいかもしれない。

 

 でもその前にまずはこのスクーターのテスト。目的の自動的に立つ機能の確認だ。


 魔物警告が聞こえた事を想定してブレーキをかけ、速度が時速一〇キロを下回ったところで左手のスイッチをON。アラーム音の後ハンドルが動かなくなった。そのまま停止。よし、問題ない。


 もう一度走ってバイク屋の前、西島さんのところへと戻る。


「このバイクは大丈夫そうだ。これからはこっちに乗っていこうと思う。

 そこでひとつ質問。今は二人乗りで移動しているけれど、これからも二人乗りでいいか、それとも自分でバイクかスクーターを運転する方が良いか。西島さんはどっちがいい?」


「実は私、自転車にも乗れないんです。正確には乗ったことが無い、ですけれど。

 自分で漕がなくてもいいしジャイロ効果があるから何度か試せば乗れるかもしれません。ただ自信は全く無いので、もし田谷さんが良ければですが、今のままが良いです」


「わかった。俺としても今の方が助かるからありがたい」


 二人で別のバイクに乗っているとどうしても初動が遅くなる気がする。だから今のままがいい。

 今の二人乗り状態が気に入っているからだけではない。多分。


 スマホホルダーを付け替えて、ヘルメットを持ってきたところで。

 ピンポンパンポン。スマホが鳴った。


「今日のレポートか」


「ですね」


 スマホを確認。


『二日経過時点における本世界のレポート』

『多重化措置後二/三五経過。

 魔物出現数累計:三八三万九五一体

 うち二十四時間以内の出現数:一五三万二三八〇体

 魔物消去数累計:九五万七七三八体

 うち二十四時間以内の消去数:五四万三九九三体』


「昨日より消去数が増えています」


 確かに昨日よりも一〇万以上倒されているようだ。


「魔物が増えた結果だろう。それによって魔物対魔物のつぶし合いが増えたようだから。数が多ければ経験値稼ぎをしている人にも倒しやすいだろうし」


「そうですね。レベル三の魔物が結構いました」

 

『当世界開始時人口:八〇四五人

 現在の人口:七四八九人

 直近二十四時間以内の死者数:一五三人

  うち魔物によるもの:四五人

 累計死者数:五五六人

  うち魔物によるもの:一二九人』


 昨日よりは死者は減っている。これは初日でほとんどの人がこの世界の状況を理解、あるいは適応したからだろうと思う。

 実際の所はどうなのかはわからない。此処にあるのは数値だけだから。


『現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:六・九

 人間の最高レベル:レベル二〇

 人間の最低レベル:二

 魔物の平均レベル:二・〇一

 魔物の最高レベル:九

 魔物の最低レベル:一

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大三となります。ご注意下さい』


「レベル二〇って、どれだけ魔物を倒したら……レベル一換算で三〇〇体近くという計算みたいです」


 きっとスマホにそう表示されたのだろう。スマホの情報提供、割とお節介かつ便利だから。

 俺が思った事もすぐ計算結果が表示される。なるほど。


「五分に一匹以上出てくる計算か。気が休まらないな、それじゃ。寝る時間もあるし」


「きっと東京の中心みたいな人口密集地でしょう。やっぱり行かなくて良かった気がします」


 西島さんの言うとおりだ。そんな場所、気が休まらない。


『本世界における魔物出現率:五・七一パーセント

 歪み消失率 二パーセント』

 最終目標歪み消失率(規定値)達成までペース不足』


「昨日よりは大分いい数値です。勿論まだまだだとは思いますけれど。ただ規定値がわからないから、判断は出来ません」


「ああ。この辺は様子見だな。俺達二人じゃ変えられないだろうしさ」


 ただ何とかなりそうな気はする。というか何とかなるように設定されている気がする。スマホの情報提供や西島さんに対しての最初の対応とかを考えると。


 勿論俺の楽観的な予想に過ぎない。だから気を抜いてはいけないとは思うけれども。


※ 今回入手したスクーターはヤマハのトリシティ300をイメージしています。もちろんこの物語世界は読者さんや書き手のいる現実と違う世界です(地名が違う事でおわかりかと思います)。ですので、全く同じ物とは限りません。

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