第二二章 ルール変更

第九四話 ルール変更

「船台だと、ここが一番大きい商店街なんですか?」


 歩きながら西島さんが尋ねる。


「東西方向がこの中央通り、南北方向が昨日歩いた二番町の商店街かな。ただ告分町の通りも賑やかと言う意味では賑やかだと思うよ。今日これから通る予定だけれど」


 アーケード街を歩いて行く。

 二百メートル位歩くとバガブかオークが出る。その繰り返しで特に変わった事はない。


 俺も西島さんもレベル二六になった。

 なお俺のステータスはこんな感じだ。


『田谷誠司の現在のステータス。レベル:二六。総経験値:一五五四。次のレベルまでの必要経験値:一二四。HP一〇四/一〇四。MP五八/八一。

 使用可能魔法(使用回数):風撃(二~一三)。炎纏(二~一三)。遠当(二~一三)、完全治療(四)。簡易治療(二七)。簡易回復(八一)。灯火(八一)。作動(一三)。涼却(二七)。収納(常時)。察知(常時)。範囲防御(一~一三)。加速(一三)』


 魔力が減っているのは鍵開けで作動魔法を三回使ったからだ。

 その後の時間経過で、ある程度回復して今の状態になっている。


 さて、新しい魔法として、遠当というのが増えていた。


『遠当は攻撃が届かない遠方の敵に対して、近接攻撃のダメージを与える魔法です。刺突、殴打、斬撃の衝撃を魔力として飛ばし、敵を攻撃します。

 威力は魔力六で使用する場合、一〇メートルの地点で通常の近接攻撃の半分程度です。また複数の敵に同時攻撃を行った場合でも魔力は一回分のみで発動します』


 なかなか厨二な技を使えるかもしれない。ゴブリン五体をまとめて切断とか。


 船台駅から西側へ歩いて、昨日通ったアーケード街と交差するところまで来た。


「そこの喫茶店で休憩しようか。もうすぐ八時だからさ。座ってレポートを確認したい。咲良ちゃんや田谷君も自分の魔法を確認したいだろうし」


 上野台さんが言うとおりの時間だ。


「了解だ」


「わかりました」


 俺も頷く。


 全国チェーンの喫茶店だ。営業中らしく照明がついているし自動ドアも開く。当然冷房も効いている。


 二階の広いテーブル席に陣取った。冷房が心地いい。


「何か欲しい飲み物がありますか。今あるのは桃ジュースと、日本茶のペットボトルくらいですけれど」


「僕がスポーツドリンクのペットボトルを持っている。五百ミリでよければ六本在庫がある」


「ならシンヤさんの好意に甘えてスポーツドリンクにしようか。汗をかいたしさ」


 確かにそうだなと思う。若干糖分が多いかもしれないけれど、動いているから大丈夫だろう。


 全員の前にペットボトルが並んだところで。


「それで田谷君は新しい魔法は入ったかい?」


「増えた魔法は遠当だけです。近接攻撃を遠方に飛ばす魔法らしいです」


「私の方は自動照準という魔法です。起動すると三分間、狙った敵に自動的に照準をつけられるとありました。ただし射程外の敵や動きの変化が大きい敵には使えないとありましたけれど」


「自動照準は僕も持っている。意識しなくても銃口が敵を向くから便利だ。ただし警察拳銃の場合は三〇メートル以内でないと使えない。動きについてはまっすぐ向かってくるバガブ程度なら問題無い」


 なるほど。拳銃メインのシンヤさんなら持っていても不思議では無い。

 そう思ったところでスマホが振動した。


『七日経過時点における本世界のレポート

 多重化措置後七/三五経過。

 魔物出現数累計:七一七万七四一七体 

 うち二十四時間以内の出現数:五五万一〇二三体  

 魔物消去数累計:二八二万六五一二体

 うち二十四時間以内の消去数:二四万三二三一体


 当世界開始時人口:八〇四五人

 現在の人口:七二四六人

 直近二十四時間以内の死者数:九三人

  うち魔物によるもの:七一人

 累計死者数:八八〇人

  うち魔物によるもの:三六九人』


 現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:二二・四 

 人間の最高レベル:レベル五四 

 人間の最低レベル:四 

 魔物の平均レベル:五・六 

 魔物の最高レベル:三一 

 魔物の最低レベル:一 

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大八となります。ご注意下さい』


 本世界における魔物出現率:二〇・〇パーセント

 歪み消失率 一一・一パーセント』


 ここまではいつものレポートと同様だ。

 しかし今日は更に続きがあった。


『全期間の五分の一が経過しました。ですが本世界では歪み消失率が低調です。

 これは世界全体の消失率という、個人単位では届かない部分が目標設定となっていたからではないか。そう当方では判断しております。

 ですので本日から元の世界への復帰条件を変更します』


「えっ!」


 これは上野台さんの声だ。きっと俺と同じ辺りを読んでいるのだろう。


『これからは、世界を多数のブロックに分割します。そのブロック内の歪みの総和により、元の世界への復帰を判断することとなります。

 このレポートを御覧の方のブロックは、日本国第1ブロックとなります。このブロックは日本国の領土のうち、

 〇 北海道

 〇 沖縄県

 〇 本州から橋で繋がっていない離島

を除く地域となります。

 またこれらの地域を接続する橋、及び道路上から交通上の障害になる物を取り除きました。』


 つまりバイク等で移動出来る範囲になった訳か。世界全体という想像しにくい範囲ではなくて。


『なお明日以降のレポートで表示される数値等については調整中となります。またこういった規則の次回見直しについては、期間の40%経過時に行われる予定です。

 本日のレポートは以上となります』 


 はーっ。息をついたのはシンヤさんだ。


「ルールの変更か」


「向こうに絶対的なルール変更権があるからさ、この世界は。こちらには抗弁権なんてないし。途中でルールを変更するなんて、ゲームマスターとしては三流だと思うけれどね。

 ただ私達の作戦そのものは変わらないと思う。状況についてもさ」


 確かに上野台さんの言う通りだ。判断がブロック単位に変わったが、根本的なルールは変わらない。


「問題は向こうがこちらをよりコントロールしやすくなった事だ。今までは消去率が足りないなんて言われても世界規模だから個人ではどうしようも無いと判断する可能性が高かった。しかしこの状態なら、東京辺りで大集団の支配種を倒せば何とかなる、なんて可能性を考えてしまう」


「それこそが向こうさん、ゲームマスターの意図だからね。実際そう書いてあるような物だしさ、これは」


 確かにそんな事が書いてあった。俺はスマホの表示を上にスクロールさせて確認する。


『……本世界では歪み消失率が低調です。

 これは世界全体の消失率という、個人単位では届かない部分が目標設定となっていたからではないか。そう当方では判断しております……』


 そう、これだ。


「馬鹿が英雄気取りで首都圏に突入したりとかするんだろう。首都圏だけで日本全体の人口の三分の一以上を占めている。その分魔物も多く、進化も早い筈だ」


「案外成功するかもしれないよ。試行回数分だけ成功率は上がるだろうからさ。実際には首都圏に突撃する馬鹿の人数だけでは足りないだろうと思うけれどね。

 それにこの世界では人間も魔物の一種みたいなものさ。消えればその分歪みも減る」


 なるほどと俺は思う。シンヤさんと上野台さんのスタンスの違いが何となくわかった。


 シンヤさんは上野台さんや俺よりも良識的なようだ。馬鹿だろうと人間には死なないで欲しいと思っているようだから。


 一方で上野台さん、ある意味自分を含めてどうでもいい位に感じているような気配がした。俺や西島さんと同じで。

 今まで上野台さんからはそんな感じを受ける事はなかったのだけれども。


「考え方がどうであれ、私達が今やる事は変わりないな。淡々と船台周辺の魔物を消していくこと、それくらいだろ」


「了解だ。正直首都圏は首都圏の魔物同士で戦い合って減ってくれと祈るしかない。あそこはもう人が立ち入れる場所じゃないだろう」


 とりあえずの判断としては合意に達したようだ。確かに生き残って元の世界に戻るにはそれが正解だろう。


 しかし俺としては個人的に気になった。

 上野台さんが何をモチベーションにして、今のこの世界を生きているのかが。


 俺と西島さんの歪んだ共生関係を考えると上野台さんの事をとやかく言えない。

 それでも西島さんは最近、それなりに今のこの世界を楽しんでいる気がするのだ。


 そこに悪い影響がないだろうか。俺としてはそこが心配だ。

 

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