第九三話 見敵必殺?

 途中からは俺が先頭になった。

 このビルに入る裏の入口に鍵がかかっていたからだ。


 更にオフィス区画に入る部分も鍵かかかっていた。

 幸いどちらの扉も反対側に鍵のノブがあったので、操作魔法で開く事が出来たけれど。


「便利だな、その魔法」


 シンヤさんにそう言われたけれど、そんなに特殊な魔法だろうか。


「結構取得しやすそうな魔法だと思うんですけれど。シンヤさんの方がレベルも高いし、取得していてもおかしくない気がするんですが」


「鍵開けをしようとする機会が無かったからだろう。大体食事はコンビニで入手していたから。警察の拳銃は鍵を探して開けたし」


「特に必要を感じなかった訳だね、きっと」


「そのようだ」


 俺による侵入事案、そんなに多かっただろうか。

 考えてみると確かに多かった気がする。ただ猟銃や弾は仕方なかったし、バイク用具だって必要だった。だから仕方ない。


 魔物の反応はビル内に無い。

 だから四階までエレベーターで上がり、そして廊下へ。スマホで方向を確認しつつ北東側へ向かう。


 廊下の突き当たり近くまで来た。おそらくこの先右側の扉が四階北東角の部屋のものだろう。

 つまりは敵の統率種がいるだろう建物に一番近い方向だ。


 俺は扉のノブを回してみる。回るし、引くと扉が動く。

 窓越しに向こう側から見られている可能性がある。

 だからそれ以上は試さない。


「入れそうですけれど、どうしますか」


「敵もビルの中までは見張っていないと思うけれどさ。一応注意して見ることにしよう。

 最初に様子をうかがうのは私でいいかい。見て把握出来れば敵に魔法をかけられるからさ」


 西島さんの場合は銃を構えなければならないし、窓ガラスごと打ち抜くことになる。

 俺やシンヤさんはそもそも遠くまで攻撃出来ない。

 だから妥当な選択だろう。


「頼む。ただ参考までに視力は大丈夫か?」


「今は二・〇を超えていると思うよ。この世界になってレベルがあがったおかげだろうけれどさ」


「了解だ」


 上野台さんは扉をゆっくりと開けて、顔だけ入れて覗き込んだ。


「ブラインドが降りている。窓際まで行かないと無理だ。ただこれなら向こうからも見えないだろう。遠慮無く窓際に行くとしよう」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫、隙間無くという感じできっちりブラインドが降りているからさ。今のところはここを見られる事はない」


 上野台さんがそう言って扉を開け放った。どれどれ、一番後ろから見てみる。


 確かに窓のほとんどにブラインドが降りていた。ブラインドの紐が通っている小さな穴以外は外の景色は一切見えない。


 ブラインドと壁の間の隙間等から光が漏れている。だから歩く分には困らない程度の明るさはある。

 なのであっさり窓際に近づいて、そして極小さなブラインドの紐通しの穴から外を確認。


 穴が小さすぎて目的の場所を見るのが難しい。スマホの地図で方向はわかっているのだけれど。


 何度か角度を変えて見る。どうやらそれらしい建物がわかるようになった。そして此処と同じ位の高さで、魔物がいるかどうかは……


「いるね。ホブゴブリンの弓持ち三体と、杖を持ったゴブリン二体。そしてその奥に大きいのが。

 どうする、全部倒しておこうか?」

 

「その方がいい。遠距離攻撃を持っている魔物は面倒だ。魔力は大丈夫か?」


「レベルが上がったからね。それじゃ大物から順にやってみますよ」


 この頃には俺も敵の居場所がわかるようになっていた。見にくいけれど確かに6体いる。


 そう思った次の瞬間、奥にいた大きいのがいきなり見えなくなった。何だと思ってすぐ気づく。上野台さんの魔法で爆発したから見えなくなったのだと。


 バン! 少しだけ遅れてそんな音が聞こえた。そして他の魔物もあっという間に消える。


「オッケー、統率種はゴブリンリーダーのレベル十五。あとはゴブリンメイジのレベル七が二体、ホブゴブリンアーチャーのレベル七が三体」


「交差点にいたバガブとホブゴブリンが仲間割れをしています」


 角度的に交差点の方は見えにくい。


「どうする? 急いで行こうか」


「いや、間に合わないだろう」


 シンヤさんのその言葉とほぼ同時に、四つ感じていた反応の一つが消えた。


「まだまだ先は長いからさ。また外へ出て歩こうか。他にも危険な魔物が出ているかもしれないしさ」


「だな」


 入った扉から廊下に戻る。


「帰りは素直に正面から出ようか」


「そうですね」


 魔物の反応がないのを確認してエレベーター経由で1階へ。そこから魔物四体がいた交差点に近い出口へ向かう。

 魔物の反応は残り一体だけだ。


「シンヤさんに任せるよ。適正距離だからさ」


「了解だ。ありがとう」


 扉は閉まっていたが内側にいるので、魔法をつかわなくても鍵を開けられる。

 鍵を開けて、そして外へ。


 シンヤさんが無造作に右腕を伸ばす。手に拳銃が出現した。

 次の瞬間に銃声が響く。

 バガブがあっさりと倒れた。他の魔物と戦って既にボロボロといった感じだ。


「これが集団最後か」


「多分ね。他にいたとしてもわからないけれど」


 俺達は再び船台駅方向へと歩き始める。


 ◇◇◇


「昨日もそうだけれどさ。集団が出た後しばらくは、魔物が出てこないよね」


 確かに上野台さんが言う通りだ。今回も先程の交差点から船台駅の真ん前まで、魔物の反応がない。


「統率種が出ると周囲の魔物が引き寄せられるのか、それとも統率種から一定範囲は部下の魔物しか出現しなくなるのか、どっちかなあ」


 上野台さんがそんな事を言いながらスマホをチラ見する。


『両方です。部下が少ない統率種や支配種は周辺の部下に出来る魔物を引きつける力を持っています。レベル十五のゴブリンリーダーの場合、半径三〇〇メートル程度の同種の魔物を引きつけます。

 更に統率種や支配種の周辺一〇〇メートルの範囲には部下となる魔物が出現しやすくなります。ただし周辺に蓄積された歪み以上に魔物が出現する事はありません』


 なるほど。


「確かに少なくはなる。ただし別種の魔物や引きつけられなかった魔物がいる可能性は否定できないか」


「そんな感じだね。さて、船台駅には魔物はいないようだ。今日は蒼葉通りではなく、中央通りのアーケード街を西に行くとしようか」

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