第九二話 今度の作戦

「歪みはあるけれど、何体かはまだ見えないな。もう少し気づかれずに近寄った方がいいと思うよ」


「足音は最低四体です。動いていないのがいると思うので、それ以上はわかりません」


 上野台さんと西島さんの言葉に俺達は頷く。


 さて、確認出来る敵は道の左側にいる。こちらには位置がわかる能力や魔法があるので奇襲は出来ない。

 なら敵に気づかれずに近づく事を優先した方がいいだろう。敵がいる場所を考えると……


「歩道の左側ギリギリに寄って、足音をたてないよう注意しながら近づくか。出来るだけ敵の数を把握する事を優先で」


「そうだね。もう少し敵の状態を知りたい。逆に大声を出して敵を呼ぶなんて手段もあるけれどさ。そうやって敵のボスを逃がしたら面倒だし」


 シンヤさんや上野台さんの言う通りだろう。


 ところで向こうのボスは、敵の位置を把握できる魔法か能力を持っているのだろうか。

 スマホを見てみる。


『魔物が敵の位置を把握する魔法や能力を得るのは、レベル一六からです』


 微妙な線だ。昨日倒したゴブリンリーダーはレベル一五。一日経過した今日はレベル一六の魔物がいてもおかしくない。

 

「とりあえず敵の動きが変わったら、見つかったと判断して迎撃態勢を取ればいいんじゃないかな。五〇メートルくらい距離があれば迎撃は問題無いだろう」


 確かにそうかもしれない。

 西島さんはそれ位の距離なら普通に狙い撃ちも連射も出来る。上野台さんも魔力さえあれば見える範囲の敵を攻撃可能。

 シンヤさんも三〇m以内に入れば拳銃で必中攻撃を使えるし。


 俺は距離を取られると何も出来ない。やはり拳銃かライフルをもっと練習するべきだろうか。

 昼間は練習どころではないから、宿に着いたら毎日三〇発くらいずつ練習に使うとか。

 弾が勿体ないけれど。


「わかった。それじゃもう少し接近してみよう。歪みで一通りの情報が読めるから私が先に行くよ」


「わかった」


 上野台さん、シンヤさん、西島さん、俺という順で一列になってゆっくり、足音をたてないように道路の端を歩いて近づいていく。


 この先二十メートル位で道は左側にくの字状に曲がる。敵の反応があるのは曲がった先、八〇メートルくらい。

 北日町通りと地図にある道との交差点付近だ。


 歩くとすぐに敵の反応が増えてきた。

 反応は四つ。一つがこちらに近い場所にいて、他に三つがその五メートル位向こう側にいるという配置だ。


「一体はホブゴブリンで、三体はバガブだと思う。統率種はまだ見えない」


 上野台さんのささやくような声。つまりどれも統率種ではない。まだ他の敵がいるという事のようだ。


 そこそこ広い歩道を歩いて行く。少し先、駐車場の看板の先で道が曲がっているのがわかる。そこから先に行けば位置的に四体の魔物が見えそうだ。


「あの駐車場の看板手前までか、見つからずに近づけるのは」


「そんな感じだね。それでどうする? まだ統率種らしいのは見えないけれど。咲良ちゃんの耳で何か聞こえる?」


「あの魔物から更に五〇メートル位先、多分道の右側少し入ったところでそれらしい足音がする気がします。いるとすれば五体以上です。ただいるとすれば道路では無く、五階くらいの位置だと思います。でも屋内ではありません」


「ならエヌパル船台の屋上駐車場への通路かな、場所的に」


 スマホで見てみる。確かにその辺に車両が通りそうな通路が側面にぐるぐるついている建物があった。

 距離を見てみる。四体の魔物からぎりぎり一〇〇メートルくらい。

 つまりは……


「あの四体を倒さない限り、統率種を把握するのは無理か」


「いや、何とかなるかもしれないな」


 俺の言葉に上野台さんがそう返してくる。


「何か方法があるか?」


「統率種は配下の魔物に命令を与えて動かす事は出来る。でも配下の魔物が何を見聞きしたかを直接把握は出来ないらしい」


 この辺はスマホで調べたのだろう。見ると俺のスマホにもほぼ同じ内容で説明が出ている。


「ならば統率種かその側近みたいなのがあの魔物四体を監視しているんじゃないか、何処かでさ。高いところからなら遠くを把握しやすい。それが屋上駐車場への通路だと考えれば合理的だ」


 そこの論理も理解出来る。そこまで行くと結論もわかる。


「道路上にいる四体が見える位置にいるだろうって事ですね。ならそれらしい位置が見える場所に行けば、私たちも統率種を目で把握出来るんじゃないかって」


 西島さんの言葉に上野台さんは頷く。


「そういう事。という事で、近場にいる四体に気づかれないようにして、そこのビルに入ろう。四階くらいの高さから駐車場方向を見てみればいるかどうかわかるだろう。見えれば私か咲良ちゃんの攻撃が通るからさ。倒すのもそう難しくはないだろ」


「了解だ」


 シンヤさんの言葉と同時に俺も頷く。


「さて、それじゃこの横の建物の中を通って、隣のビルの裏側に出るとしよう。田谷君がいれば鍵は気にしなくていいだろうしさ」


 上野台さんはそう言うと左、病院と書かれた建物の駐車場方向へ。

 俺達も足音をたてないよう静かに歩く事を心がけつつ、あとをついていく。

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