一二日目 八月八日

第二四章 集団の到来

第一〇八話 遭遇

 それから二日間は、特に問題なく過ぎた。


 強いて言えば船台に出る魔物が弱く、少なくなった事だろうか。


「今日は集団は出ませんでした」


「もう全員で見回る必要はないかもしれないね、この様子じゃ」


 街中を一通り歩き回り、回送用の車を停めている駐車場に向かう途中で、西島さんと上野台さんがそんな話をする位に。


 集団が出なかっただけではない。

 出てくる魔物もホブゴブリンやバガブ程度まで。

 オークは発生しなくなっている。


「船台については歪みが消去されたんだね、きっと。今日も念のため、展望台に行って確認してみていい?」


「了解。僕もその方がいいと思う」


 一昨日、昨日に続いて今日もあの結婚式場がある展望台へ。

 展望室から周囲を見回して、上野台さんは頷く。


「回った分だけ減っている感じだね。北側も確認してから結論を出すべきだろうけれど」


 ここからの視認でも、魔物が減っているのがわかるようだ。

 そして北側に回っても同じ状態だった。


「やっぱり減っているね。ここ二~三日で倒した場所に魔物が復活していない感じだ。そろそろ船台市街地だけだと経験値稼ぎは難しいかもしれない」


「ああ。ただ魔物の集団が動き出している筈だ。そろそろ東北各地から集団がやってきてもおかしくない。

 魔物が少ないのも確かだし、僕は予定通り山型盆地まで行ってこようと思う」


 昨日の夕食でそんな話をしていたのだ。

 そろそろ船台も経験値を稼げなくなってきたから、少し遠くへ行った方がいいのではないかと。


「山型市の人口は25万位でしたっけ」


「近隣の天胴や酒江、神ノ山等を含むと40万弱にはなる。動き出す統率種や集団が出てもおかしくない」


 40万と考えれば船台周辺では一番人口が多い地域だろう。

 距離もそう遠くなく、シンヤさんなら1時間あれば問題無い。

 スクーターか車で高速道路を使えば。


 俺もスクーターならその位で行ける。

 車でも魔物が出なければ問題無い。

 魔物が出たら、咄嗟にUターンとかは無理だけれど。


「ならこっちも予定通り出ようか。石薪でいいかい」


 山型方面以外で、近場で人口がそこそこ多いのが多崎か石薪。


 道がいいのは多崎方面で、魔物が多そうなのは途中に潮竃や松島がある石薪方面だ。

 この場合は経験値稼ぎが出来る方がいいだろう。

 そんな理由で石薪に決めたのだった。


「それでいいと思います」


「了解だ」


 その後、いつもの地下鉄駅直近の駐車場でシンヤさんと別れ、俺達は三日前の雨の日から乗っている日産のミニバンへ。


「それじゃ駅の東側の魔物を片付けつつ、東へ行くよ。まずは駐車場を左に出て、次の信号を左」


 そんな感じで始まったのだけれど……


 ◇◇◇


 12時を過ぎて、ようやく俺達は松島海岸までやってきた。


「ナビで見る限り、ファミレスもファストフードもないな。その辺の適当な店に入るか」

 

「わかりました」


 同じ閉店中でもシャッターが閉まっていると開けるのが面倒だ。

 だから幾つか並んでいる店のうち、明らかに飲食店でシャッターがない店を選び、前に車を停める。


「思ったより時間がかかりましたね」


 まだ目的地の石薪まで、道のりの半分、二〇キロちょっと残っている。


「田賀城と潮竃で時間がかかったなあ」


「思ったより魔物がいました」


 潮竃あたりまでは船台の続きという感じで、それなりに人家が続いている。

 その辺りをそれなりにくまなく走ったら、相応の時間がかかった訳だ。


 魔物はそこそこいたが、レベルは高くなかった。

 レベル六までのホブゴブリンかレベル七程度のバガブ止まりだけれど。

 

 作動魔法を使って鍵を開け、中へ。

 和食系の食堂、という感じだ。


「昼食は何にしましょうか。パンやピザ、弁当、海鮮まで揃えていますけれど」


 西島さんはレベルが上がったのをいい事に、あの冷凍食品店の在庫をごっそり持ってきている。


「こういう店なら本当は蕎麦とか和食の弁当とか海鮮なんだろうけれどさ。 昼だとどうしてもピザとかパンの方が食べたくなるんだよな。という事でピザがいい」


「なら皆でピザ三枚でいいですか」


 俺は割と何でもいいので、頷くだけにとどめておく。


「わかりました。それじゃピザはこの三枚で、あとサイドメニューでチキンナゲット、バーベキューソースとマスタードソース、そしてタバスコと。こんな感じで」


 西島さんが出したものを上野台さんが皿に並べて、そして魔法で加熱。

 一気にそれっぽい臭いが漂ってきた。

 店内の雰囲気とあっていないけれど、美味しそうだ。


「ドリンクは各自でいいかい。私はこれだけれど」


 上野台さんがだしたのは赤いブランドロゴが有名な黒色の炭酸飲料。


「最近上野台さんはそれが多いですね」


 確か今朝、街中歩きの休憩で出していたのもこれだった気がする。


「いままでほとんど飲む機会が無かったけれどさ。飲んでみると案外美味いんだ。特にピザにはあう気がするしさ。だから……あれ?」


 上野台さんは顔を上げて、店の入口から見て左側、壁の方を見る。


「何かそこそこ歪んでいる気がする。まだ一〇〇メートル以上離れているけれど」


「魔物の集団でしょうか」


「その可能性が高いな。ごめん、昼食は中断。店内にいると逃げられなくなるかもしれない」


 俺の魔法にはまだ反応がない。

 だから一〇〇メートル以上は離れている筈だ。

 それでも上野台さんのスキルで感じているなら、実際にいるのだろう。


「出て準備しますか」


「だね。これは後で食べるとしようか」


「一応収納しておきます」


 俺もかなりレベルが上がっているので、収納に余裕がある。

 一度調理して冷凍保存しなくていいなら、俺が収納しても問題無い。


「ありがとう。それじゃ魔物に見つからないよう店を出るとしよう」


 店を出て、そして店の影から道の先、東北東方向を伺う。

 俺の魔法ではまだ感知出来ない。しかし……


「間違いないね。この道の先、三〇〇メートルか四〇〇メートル位のところ。かなり歪んでいる」


「私も足音が聞こえました。最低で一〇体以上です」


 ついに他からやってきた魔物集団との遭遇だ。

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