第一〇九話 敵の遠距離攻撃

「ある程度把握出来る様になってから攻撃するか、見えてすぐ攻撃するか、どっちにする?」


「今回は明らかに数が多いです。一〇〇メートルの距離では倒しきれません」


「となると先手必勝か」


「ええ。幸い道は二〇〇メートル以上まっすぐです。だから見えたら撃つという方針で行きます」


 何体くらいの集団なのだろう。

 西島さんがそう言うからには、それなりに多いのだろうけれど。


 俺には一〇〇メートル以上で魔物を確認する方法も、その距離にいる魔物を攻撃する方法もない。

 いや、でも一応ライフルは持っているし撃てるか。

 ならばという事で出して構えてみる。


 西島さんもライフルを出した。


「大分近づいてきた。もう少しか」


「ええ。あと一〇秒くらい。九、八、……」


 俺もライフルを構える。

 特殊能力がなくとも、この銃なら三〇〇メートル位は狙い撃てる筈なのだ。

 照準器サイトをこの先道路が左へカーブするところにあわせる。

 引き金に指を入れ、ゆっくり力を入れて……


 見えた、そう思った瞬間西島さんの銃声。

 俺もサイトに敵をあわせて引き金を絞る。

 

 音と衝撃。

 当たったかどうかはわからない。

 しかしまだ敵がいるので狙って、撃つ。

 なお西島さんの方は銃声が途切れない。


 何体いるんだ、そう思った時だった

 不意に何かを感じた。まずい!

 銃を収納して前方を見る。火球が飛んでくるのが見えた。


「ごめん!」


 西島さんの銃を掴んで収納。そのまま西島さんを抱え込み、更に一歩先で反対側の腕に上野台さんを抱えて前へジャンプする。


 熱気が背後を通り抜けた。そして次の瞬間、強烈な熱と光。

 まずい! 伏せようとした瞬間に魔法を使った感覚。これは!


『範囲防御が起動しました。魔力一二を消費』


 魔力一二で防げる程度だったようだ。

 西島さんも上野台さんも怪我は無さそうだが、一応確認。


「大丈夫か」


「悪い、助かった」


「すみません」


 今の攻撃は大丈夫だったが、まだ魔物は数多くいる。

 もう俺の感知範囲にも入っている。

 ホブゴブリンやバガブは結構足が速い。

 もう十秒しないでここまで来るだろう。


 俺の魔力はまだ一〇〇以上残っている。

 今の攻撃を何発か受けても余裕な筈だ。

 そして直線方向の魔物を一掃する技を、俺は持っている。

 ならば。


「見える敵を一掃します。それで片付かない敵は頼みます」


 そう言うとともに俺は道路中央へと飛び出た。

 太刀を取り出し、右後ろに構えて前を見る。

 迫ってくるバガブとホブゴブリン。反応は結構多い。見えるだけでも5体以上。


 上等だ!

 俺は遠当魔法の起動を意識して刀に力を込め、低く素早く、左へと薙ぎ払った。


 ただ振るのとは明らかに違う手応え、そして魔法が起動した感覚。


 振り切って前を目と魔法で確認。

 迫ってきていたバガブやホブゴブリンなどが倒れている。

 しかし前方にまだ残っている。正面に五体。


 ならもう一度。足を一歩出して、刀を今度は右方向へ振り抜いた。

 敵の反応が消えていく。あと一体。大きいのが残っている。

 こいつはかなり硬そうだ、そう思った時だった。


 銃声がした。西島さんが店の影から身を乗り出してライフルを撃ったのだ。

 反応が全部消える。終わったようだ。


「ごめん、助かった。ありがとう」


「私もです」


「範囲防御と危険察知が自動起動するからさ。あんな攻撃が来るとは思わなかったけれど」


 そう言って、西島さんが今使ったライフルが、いつも使っているのと違う銃床なのに気づいた。

 そういえばさっき収納したのだった。

 暴発その他を防ぐために。


「いきなりでごめん、とりあえず銃を返す」


「いえ、ああやって動いている時に暴発すると危ないですから」


 西島さんに銃を戻して、そして背後を確認する。


「あと、とりあえず車を一台調達しないと駄目ですね」


 ここまで乗ってきたミニバンはさっきの攻撃の直撃を受けた。

 右のヘッドライト、フロントのウィンドウが壊れ、中もすすけた状態だ。右前タイヤも焼けている。


「うーん、近くにはレンタカー屋は無さそうだ。タクシー会社が無難かな。一・六キロ程歩くけれど」


「行って、車を調達してから食事にしますか」


「そうですね。その方が安心出来ます」


「なら行くか。こっちだ」


 俺達は魔物が来た方へと歩きはじめる。


「それにしても今の集団、何体いたんだろう」


 そう言って、そしてスマホを見る。


『合計三二体です。内訳はゴブリンリーダー一、メイジバガブ一、アークゴブリン一、バガブ八、ホブゴブリンアーチャー三、ホブゴブリン一〇、ゴブリン八になります』


「思った以上に多いな。こんなのがこの後も来るわけか」 


 この上野台さんの言葉には、スマホは反応しない。


「これが石薪からだとすると、多崎からの集団も動いている可能性がありますね」


 この俺の言葉にもスマホは反応しない。

 そういった情報は自分で探して判断しろという事だろう。


「それにしてもさっきの敵の攻撃、強烈だったな。一回しか来なかったけれどさ」


『火球魔法です。射程三〇〇メートル程で、魔力を八消費します。ゴブリン系の魔法使いで使用可能なのはメイジバガブ、メイジゴブリンリーダー等、レベル八以上の魔物だけです。

 またゴブリン系の弓矢は射程が一〇〇メートル以下です。直接照準で狙い、上空から落とすような狙い方はしません』


 つまり今回は、火球魔法以外は射程外、もしくは射程に入る前に倒せた訳か。


「それにしても車で移動が普通になると、こうやって歩くだけで暑いよな」


「そうですね」


 確かに暑い。正午過ぎて太陽の熱が一番暑い時間だし。

 いつもは魔物といつ遭うかという緊張感がある分、暑さ以外の部分に意識がいっている。

 しかしこのルートは魔物の集団がやってきた道。

 つまり魔物が出てくる可能性はごくごく小さい。


「かといって個人の家に入って車を借りるのも何なんだよな。そもそこ個人の家だと、何処に鍵を置いているかわからないしさ。探す時間がかかるならタクシー会社とかへ向かった方が楽だろうし」


「そうなんですよね。あと個人宅を家捜しするのはどうしてもという場合だけにしたいです」


 俺も銃や弾を手に入れる時しかやった事はない。

 他人の生活が見えてしまう場所を荒らすのは、嫌な感じがするから。

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