第一一〇話 次の車を確保

「とりあえずシンヤに連絡は入れておこう。火の玉を飛ばして爆発させる敵がいたって」


 上野台さんが歩きながら、スマホをポチポチと打つ。

 魔物はいないし道路も車がいないから、ある意味歩き放題だ。

 ただし暑い。八月の日中の昼過ぎ、焼けたアスファルト舗装の上だから仕方ないけれど。


「魔物が出てこないから、ただ暑いって事だけを一層感じます」


「風もあまりないよな」


 あまりに暑いので、十分位歩いたところでコンビニに寄って、アイスやドリンクで涼んだ位だ。

 十分くらい涼んで、そして。


「出たくないけれど仕方ない。行くとしよう」


「そうですね。ここにいつまでもいるわけにはいきませんから」


 覚悟を決めて再び外へ出て、歩きはじめる。

 合計三十分かけてタクシー会社へ到着。


「給油を考えるとLPガスよりガソリンかディーゼルがいいよな。となると、その大きいワンボックスか、白地に青ラインの入ったミニミニバンか、どっちか」


 十数人乗りのワンボックスとしても巨大な車と、さっきまで乗っていたミニバンより一回り小さい車。

 なら勿論、俺が選ぶのは決まっている。


「小さい方ですね」


 少しでも運転しやすそうな方がいい。


「わかった」


 上野台さんが鍵を取ってきて、そして車へ。


「タクシーだと何か特殊な操作が必要とか、あるのかな」


 そう言われても、俺だってわからない。


「その辺は実際に乗ってからですね」


 エンジンをかけ、冷房を全開にして3人で乗り込む。

 タクシーの料金等を操作するらしいディスプレイに、文字が表示された。


『社員選択 コード かな』


 もちろん俺は社員じゃない。だからコードもわからないし、名前も登録されていないだろう。


「適当に入力してみますか」


「だね」


 何処でもありそうな名前ということで、さとうただし、と打ち込んでみる。


『エラー 社員選択 コード かな』


 やっぱり適当では駄目っぽい。


「このまま走って大丈夫ですかね」


「盗難防止装置が鳴り響く、なんて事になると面倒だ。取り敢えず会社事務所の方を確認してみよう。これを管理するパソコンがあるだろうから」


 上野台さん先頭で事務所へ。


「朝早くから動いているこのパソコンだろ、きっと」


 あまり広くない事務所なので、それらしいパソコンは一台しかない。


 色々と項目が出ている中、上野台さんはマウスでガシガシと操作して、『マスタメンテナンス』 なんて画面を呼び出す。

 乗務員情報が出てきた。コードも書いてある。


「これで大丈夫だろ。スマホで撮っておこう」


 俺もスマホで撮っておく。


「いつも思うんですが、知らないパソコンソフトなのによくわかりますね。まさかタクシー会社でもバイトをしていたなんて事はないですよね」


 何をどう操作すればいいのか、俺には全くわからなかった。


「こういうソフトは大体どれも用語や操作体系が似ているからさ。その辺を知っていれば大体はわかるんだ。ただこうやってみると乗務管理が結構徹底している感じだ。ずっとタクシーって訳にはいかなそうだな。

 何処かでレンタカーに乗り換えるとしよう。調べるからちょっと待ってくれ」


 上野台さんは自分のパソコンを取り出して、スマホと接続した。


「車はどんなのがいい?」


「今の車、結構良かったんですけれどね。外から見ると小さいけれど、中は結構広くて」


「私も今くらい広い方が嬉しいです。雨の日にレインコートを着るのも楽ですし」


「なら同じ車種があるレンタカー屋から……確実なのは船台に戻る事かな。遠いけれど船台空港近くなら車種が多いか……」


 上野台さんが調査モードに突入した。

 俺達は黙って後ろから画面を見ている。


「ただやっぱり遠いよな。ならディーラーの試乗車はどうだ……おっと、これが一番近いか。あ、でもちょっと車は違うけれど、中が広いという意味ではこっちもいい……いや、こっちの方がいいか、小さいし」


 何やら幾つかのメーカーのWebページを出して調べている。


「試乗車ってのもあるんですね」


「ああ。車のディーラーが用意している。車検なんかの時に貸し出してくれる事もあるみたいだ」


「上野台さんは車に詳しいんですか」


 運転しない癖に何故知っているんだろう。

 そう思いつつ聞いてみる。


「サークルの友人が車を買うって話をしていてさ。それでちょっとだけ詳しくなった」


 なるほど。

 ただそれだけではない気がする。上野台さん、大体どんな分野でもこんな感じで何とかしてしまう気がするし。

 運動能力とか運転とか、身体を使う分野でなければ。


 上野台さんは更に画面を幾つか切り替えて、車のカタログのページを出した。


「それじゃこの車でいいか? 4人までなら文句なく中が広いし、外形寸法は小さい」


 画面に出ているのは、どちらかというと軽自動車の方が有名なメーカーの車だ。軽ではなくて普通車らしいけれど。


 確かに室内は広そうだ。カタログではその辺が強調されているし。

 そして車自体の大きさも軽より少し大きい程度。松島まで乗っていた車と比べてもずっと小さい。


「いいと思います。確かに小さくて広そうです」


「それで船台方向と石薪と、両方に同じ車を置いている店があるけれどさ。どっちにする?」


 集団と遭ったあの場所から此処まで、他の魔物は一切出てこなかった。

 なら石薪に行っても同じだろう。


「石薪にはほとんど魔物は残っていないような気がします。だったら船台方向に戻って、今日まだ回っていない北側方向へ行った方がいんじゃないかと」


「私もそう思います」


 西島さんも同意のようだ。


「わかった。それでもう一つ提案なんだが、ここで飯を食べていっていいか。いまいちな雰囲気だけれどさ、冷房は効いているしテーブルがあるし座れるし。何より腹が減った」


 言われてみれば確かにそうだ。

 途中でアイスやドリンクは補給したけれど、昼食はまだ食べていない。


「そこの応接セットでいいと思います」


 アイテムボックス内に収納したチキンナゲット、バーベキューソースとマスタードソース、そしてタバスコ、上野台さん用のコーラも出す。


「ピザとナゲットは温めるからちょっと待ってくれ」


 そして昼食が始まる。


 ◇◇◇


 タクシー会社から自動車ディーラーまでは、カーナビによると高速経由で20分。

 高速を下りてすぐのところでレベル七のバガブ一体、その先、街役場の看板がある交差点でバガブ一体を倒して、そして無事ディーラーに到着。


「やっぱり魔物が少ないですね」


「この近くも二日前に一通り倒した後、あまり出現していないんだろう。さて、それじゃ試乗車の鍵の家捜しだ」


 店の鍵は俺の作動魔法で開けた。そして例によって3人で家捜しして鍵を探し、そして車へ。


「新しくて綺麗ですね」


「試乗車だからそれなりに綺麗にしているんだろ」


 ただし中は強烈に熱い。炎天下に止まっていたから当然だ。

 エンジンをかけてエアコンを全開にして、更に扉を全部開いて熱気を逃がす。


 一分程度で大分ましになった。

 中に乗り込む。エアコンの風が心地いい。


「それじゃ後は、適当に回っていないところを回りながら、船台に戻るか」


 そう上野台さんが言った時だった。

 スマホが振動したのは。

 

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