第四二話 安静時間開始

 布団を敷いた後、電子レンジと食材を出してさっさと食事。もう十二時まで二〇分しかないからそこそこ早く簡単に。


「この酢豚、普通に買うと結構するだけあって美味しいです。何かこのレトルトのシリーズだけでも充分楽しめそうです」


 西島さんが食べているのは黒豚が売りの酢豚。四〇〇円位する、レトルトとしては御高めの一品だ。


「確かに」


 なお俺が今食べているのはカレーライス。レンジで温めた御飯の上にお値段四〇〇円以上するお高いレトルトのルーをかけている。


 確かにお高いだけあるなとは感じる。肉がしっかり塊で入っているし、ルーそのものも何か高級な味がするように感じる。


「あと田谷さんが食べているカレーも美味しそうです。この酢豚と交換しませんか」


「いいよ。はい」


 もう間接キスは気にならなくなった。厳密には気にならない対応が完璧に出来る様になっただけだけれど。

 あと確かにこの酢豚、美味しい。酸っぱさがまろやかで、なにより肉が無茶苦茶美味しい。


「このカレーも美味しいです。あとはポテトサラダを」


 サラダやスープ類でしっかり野菜も意識して取って、そして。


「結構お腹いっぱいになりました。やっぱり電子レンジがあると便利です」


 確かに食べたいものをレンジで温めればすぐに食べられる。

 そんな感じでしっかり食べて。食べ終えてざっと座卓の上を片づけたら一一時五八分。

 時間潰し用のタブレットも枕の横に置いて、体制は整った。


「それじゃ完全治療を起動するから横になってくれ」


「わかりました」


 西島さんが布団に入って寝る姿勢になったところで完全治療を起動。


「あ、完全治療開始と出ました」


 西島さんがタブレットの画面を見せる。


『完全治療が開始されました。完了まで出来るだけ安静に過ごしてください。

 この場合の安静とは、

  ○ 基本的には横になって寝る姿勢で過ごす

  ○ トイレ等の日常必要な動作の最低限は行っていい

  ○ 入浴等は控える

という状態です。なお治療にあたって相応なエネルギーそのほかを消費します。空腹を感じた場合、積極的に食事をとってください』


「一回だからいいですけれど、何度もやると太りそうです」


「西島さんは太るなんて気にしなくていいだろ」


 むしろ現状は細すぎる。


「わからないですよ。これで健康になった結果、残り三〇日ちょっとで見る影もなく……なんて可能性だってありますから。

 そうでなくても最近食べまくっているんです。この調子だと一ヶ月もあれば余裕でデブを目指せます」


「日中動き回っているから心配ないだろ。それに絶対的な量は食べていない気がする」


 西島さんは多分、絶対的な胃袋が小さい。なので色々食べようとしていても実際に食べている量はそこまで多くなかったりする。

 むしろ片付けを兼ねてその分食べている俺の方が先に太りそうだ。いや、実際に太っているかも……


『七月二十八日時点から現在まで、田谷誠司の体重はおよそ一キログラム程増加しています。ただし体脂肪率は一二・九と〇・一減少しています。ですので肥満の心配はありません』


 うーむ。まさかスマホでこんな事までわかるとは思わなかった。ただデータ的には一安心だ。

 おそらく筋肉なり何なりになってくれたのだろう。何せ前に比べてずっと動き回る生活だ。筋肉が増えている可能性は高い。


「うわっ。まさかこんなに……」


 西島さんのそんな声が聞こえた。


「どうかしたか?」


「あ、見ないで下さい!」


 なるほど。今の俺と同じようなデータが西島さんのタブレットにも表示されたのだろう。


 ただ今の西島さんはまだ痩せすぎだ。少し位肉がついても全然問題ないというか、むしろ健康という気がする。

 なんて事は勿論口には出さないけれど。


「それじゃ俺はここで適当に作業なり調べ物なりやっているから」


「わかりました」


 時間があったらやろうと思っている事は幾つかある。

 まずは新しい槍の作成だ。銃砲店で今までの包丁以上に頼りになりそうな刃物が手に入った。特にフクロナガサは持ち手部分に木の棒を入れて槍に出来るような作りになっている。


 そんな訳で今日手に入れたフクロナガサ、以前巨大ホームセンターで手に入れたステンレスパイプ、木の棒、更には針金、ハンダごて、ハンダ、ホットボンドを出して作業準備。


 ステンレスパイプと木の棒をナガサの柄の部分に刺して具合を見る。これは木の棒の方が良さそうだ。それも現状から少し削ってやるのが良さそうに感じる。


 そこまで考えてふと思う。槍、もう少し長い方がいいのではないかと。


 この棒を持ってきた時はまだ収納魔法を使えなかった。それに槍の取り回しにも慣れていなかった。


 しかし今は収納魔法があるから長くなっても問題ない。腕力もあの頃と比べたらある。ならあと一メートルくらいは長い方が便利な気がする。

 このホテルへ来る途中で倒したホブゴブリン、あれも槍がもう少し長ければもっと楽に対応出来たかもしれない。

 

 よし、明日の移動でホームセンターを見かけたら、少し長い棒、全長三メートル位のものを探してみよう。

 でも今はまずこの棒で全長二メートル弱の槍を作る。明日以降に作る長い槍の試作を兼ねて。


 まずは現物合わせで槍の柄の空洞部分に突っ込む部分を削っていく。ヤスリなんて無いので店から持ってきた剣鉈で。腕力が増えたからか刃物がいいのか割とさくさく削れる。


 目分量で削って、現物にあわせて、また削って。何度かやっているうちにわりとしっかり入るようになった。


 そうやってからナガサの柄の部分を改めて確認。ネジを通せるような穴が空いている事に気づいた。

 どうやらここで木の柄に穴を開け、ボルトか何かで止めればしっかり固定される仕組みのようだ。しかし今日は穴を開けるような工具を持っていない。


 よし、今日はここまでで固定はしないでおこう。明日、木の棒を探すときに一緒に適当なボルトを探せば良い。


 そう思って道具や出来上がった槍一式を収納。更に削った時に出来た削り屑も魔法で収納し、ゴミ箱へ出す。予想通り綺麗に片付いた。めでたしめでたし。


 さて、次は銃の手入れをしておこう。銃砲店で手入れ道具を手に入れた。今まで撃ちっぱなしだった拳銃の方もこれで少しメンテナンスしておいた方がいいだろう。


「西島さん、拳銃を手入れするから出してくれないか?」


「わかりました。お願いしていいですか」

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