第四一話 アイテム容量の誤算?

 電気店で僕らは知った。電子レンジ、思った以上に重い機械だという事を。


「まさか電子レンジ一台で私のアイテムボックス容量が目一杯近くになるとは思いませんでした。出来ればあとコーヒーメーカーも持っていこうと思っていたのですが」


 電子レンジ、高機能で庫内が広めのものは一台で一五キログラムくらいあるのが普通らしい。


「なら軽いのを選んでいくか」


「いえ、あとで『あの機能が欲しかった』と思うのは悲しすぎます。ですからここはコーヒーメーカーを諦めて、電子レンジ一台に絞ろうと思っています。

 高級電子レンジでも一台だけなら、残りの容量で拳銃と弾、お風呂セットくらいまでは入れられますから」


 つまり他の武器や日常用品、食料は俺持ちという事だ。でもまあ大丈夫だろう。


「レベルが上がったら収納容量が増える。コーヒーメーカーはその時でいいか」


「そうですね。二日もあればその位余裕だと思います」


 他の電気製品は諦め来たルートを戻る。中央のホール部分まで来た時だった。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


『魔物出現! 一〇〇メートル以内!』


「今度は俺がやるから」 


「お願いします」


 耳を澄ませる。外と違って風が少ないから音が聞き取りやすい。

 前の右側、女性服屋側だ。包丁槍を出して構える。黄色くて速い動き。ホブゴブリンだ。


 西島さんより前、エスカレーターで右側をガード出来る位置で声を出して誘う。


「ここだ」


 ホブゴブリンはまっすぐ突っ込んでくる。一見いつもと同じだが何かいつもと違う感じがした。率直に言えば嫌な予感という奴。


 五メートルまで近づいた。もうすぐ槍を突き出すタイミングだ。しかし何かが気になる。

 ホブゴブリンが一瞬、ニヤリと笑った気がした。そしてその次の瞬間、奴は俺から見て左へと飛んだ。


 何となく予感がしていた。だから俺もすぐに同じ方向へ飛ぶ。俺の方が脚力はずっと上だ。身体をひねって槍を左へと突き出す。


 出刃包丁がホブゴブリンの胸部分にぐさりと刺さった。更に包丁を固定した部分が引っかかって、ホブゴブリンを吹き抜けの手すりに叩きつける。

 

 三秒ぐらいでホブゴブリンは動かなくなった。俺はスマホを確認。


『ホブゴブリンを倒しました。経験値九を獲得』


 レベル三の、今まで戦ったのと同じホブゴブリン。しかしだ。


「今の魔物、何か動きが違った気がします」


 西島さんも気づいていたようだ。


「ああ。こっちの攻撃を避ける動きをしてきたのは初めてだ」


「田谷さんは気づいていたんですか。向こうが動きを変えてもあっさり対応していましたけれど」


「ただ何となく嫌な予感がした。それにこの程度なら今の俺の方が速い」


 スマホにいつもと違う情報は表示されない。


「とりあえず下、食品売り場へ行こう。あまり時間をかけたくない」


「そうでした」


 止まっているエスカレーターを降りて二階へ、そしてその先の食品売り場へ。


「今日は栄養重視だからレトルトの惣菜がメインになるかな」


「冷凍も電子レンジがあるから大丈夫です」


「そうだな」


 レトルト惣菜だけでも結構種類がある。筑前煮、鶏肉大根炊き合わせ、豆とキヌアのサラダをまずキープ。


「こうやって意識してみると思った以上に種類が多いんですね、レトルト惣菜だけでも」


「確かに」


 ちょっと高級なハンバーグなんてのも入れて、あとパック御飯を入れたところで気づいた。


「明日の朝までの三食分だとしてもこれだけあれば充分だろう」


「そうですね。ついつい取り過ぎそうになります」


 そう言いつつも健康に良いという事でヨーグルトの四〇〇グラムパックを二つ。更に缶詰コーナーや冷凍食品コーナーで少し追加。おまけでフルーツグラノーラやシリアル食品なんてものも入手して、そしてスクーターのところへ。

 時間は一〇時五四分。一二時までに寝ると考えれば余裕は無い。


「急ごう」


「はい」


 ここから少し走れば今朝通ったばかりの場所だ。それなら魔物も少ないだろう。そう思いつつスクーターを走らせるが、港を回り込む辺りでまたスマホから警報。


「ごめん。急ぐから頼む」


 今回は本当に急ぐから西島さんに任せる形。


「わかりました」


 西島さんがスクーターを降りて拳銃を出す。今回はホルスターではなくアイテムボックスから。


 西島さんが銃を構えるのは前方やや右、二〇メートルくらい先の交差点。

 すぐに黄色い姿が見えた。こっちを見て立ち止まった瞬間に銃声。あっさり魔物は倒れる。


「もうこの距離でも一発なんだな」


 やはり西島さん、強い。


「当たりそうな時はだいたいわかるんです。先を急ぎましょう」


「ああ」


 此処からならスクーターで五分かからない。それにこの先で街が途切れるから人口も少ない。今朝通ったので道の状況もわかっている。


 案の定、あっさりとホテルに到着。魔物の反応は無いのでまっすぐ三階の、昨日の部屋へと移動。

 部屋へ入ってすぐ、西島さんは今朝畳んだ浴衣と帯、バスタオルを手に持つ。


「さっさとお風呂に入ってきましょう」


「ああ」


 さっさとと言っても西島さんの風呂は結構長い。おそらく三〇分はかかる。そして俺もそれにつきあわされるのは間違いない。


 妄想を退散させる為、中でスマホを見ながら今日これからどうやって時間を過ごすか、明日はどうするかについて考えることにしよう。


 今日西島さんが覚えた魔法について調べてもいい。そう思いつつ西島さんの後をついて浴場へと向かう。

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