第四〇話 魔法、追加
魔物は結構多い。今朝通らなかった人家の多い線路沿いの道を通ったせいもあるだろう。予定変更をしてからまだスーパーについていないのに、ゴブリンと合計で六回出くわしている。一体をのぞいてレベル三だ。
これらは今のところ全部、西島さんに倒して貰っている。
「出来るだけ急ぎたいからさ。西島さんの拳銃の方が早く倒せるから頼む」
これは勿論言い訳だ。魔物が多そうな道を通ったのもわざと。理由はは西島さんを早くレベル一一にする為。スマホに出た説明を見た限りでは、HPが高い方が有利という感じだったから。
西島さんの事だ。俺が意図してそうやっている事に気づいている可能性は高い。でもその辺について、今は何も言っていない。
左折してJR沿いの道を離れ東へ。川を渡ってやっとあのスーパーがある御名浜の町に入ったところで。
『魔物出現! 一〇〇メートル以内!』
「ごめん、また頼む」
「わかりました」
すぐにスクーターを停める。道路はそこそこ広めの二車線で、周囲は人家と中華料理店、コンビニ、回転すし店とそれなりに埋まっている。
つまり左右方向の見通しがあまり良くない。多分大丈夫だろうと思うけれど、念の為俺も降りた方がいいだろうか。そう思った時。
「多分二〇メートル先左、寿司屋の駐車場の奥です。近づいてきています。結構速いです」
例によって俺には全然わからない。でも西島さんはスクーターの前に出てゆっくり拳銃を構える。
出てきた。黄色い、つまりホブゴブリンだ。建物の角から出て周囲を見回し、こっちを睨んだところで。
バン! 銃声は一発だけ。ホブゴブリンの身体が倒れる。立ち上がろうとするがすぐに動きは止まる。倒したようだ。
この距離だと俺では間違いなく狙って当てるなんて事は出来ない。少なくとも拳銃の腕は相当に差がついたようだ。それにそもそも、俺はあそこにホブゴブリンがいたなんて事に気づけていない。
西島さんがそういった事を出来る様になったというのは喜ぶべきなのだろう。ただ微妙に悔しいというか、こっちの方が年長なのにとか、色々な感情がよぎってしまうのも事実だ。
「ついにレベル一一になりました。魔法が増えています」
西島さんの声でしょうも無い思考から引き戻される。
「どんな魔法が増えているか、ステータス、見てみていいか?」
「勿論です。一緒にどうぞ」
あまり近づき過ぎないよう注意しつつ、西島さんのスマホを確認。
『西島咲良の現在のステータス。レベル:一一。総経験値:二四六。次のレベルまでの必要経験値:五二。HP四四/四四。MP二七/二七。
使用可能魔法(使用回数):風撃(一~四)。必中(一~九)。貫通(三~九)。炎纏初歩(四)。冷却初歩(三)。簡易回復(二七)。灯火(二七)。収納初歩(常時)』
「収納が使えるようになったのはやっぱり嬉しいです。あと冷却や炎纏も入っています。思い切り希望通りです。
あと初歩ではない風撃や必中、貫通は威力を調整できるんですね」
あとは自分のスマホで調べてみる。
『風撃は風を起こして敵を攻撃する技。使用魔力と効果範囲を指定する事で威力を調整する。魔力二〇、効果範囲一センチメートルの場合、レベル十のオークの胸を貫通可能」
なかなかえぐい威力があるようだ。
「この冷却って前に氷系の魔法があったら欲しいって言ったのがそのまま出てきたようです。一回で魔力を九消費するのは大きいですけれど、涼みたいときにはいいですよね」
『冷却は術者から一〇メートル以内にある一〇キログラム以内の対象物体を冷却する魔法。一〇キログラムの物体の場合。冷却可能な温度は現時点の温度からマイナス五〇度まで任意に可能』
なるほど、つまり冷房としても使用可能と。
「魔力九というのは少し大きいな」
「でも次のレベル一六で初歩が取れたら必要な魔力も調整できるようになると思います。そうしたら暑いときに気軽に使えます。
あとすみません。出来れば次はこの前のスーパーでは無く、港の方にあった総合モールの方に寄りたいんですけれどいいですか?」
今朝通った時にあったかな、今一つ思い出せない。
「いいけれど、何故」
「前の店と違う冷凍食品があるかもしれないと思うんです。あと電子レンジが欲しいです。電子レンジはホテルの部屋には置いていない事が多いみたいですから。あれば部屋で色々出来ます」
電子レンジを持ち運ぶのか。普通はあり得ない。しかし収納魔法があれば問題無く運べる。
冷凍食品を解凍したりレトルトを温めたりするのに間違いなく便利だ。
「わかった。海側の道に出ればいいか?」
「ええ。今朝、ホテルから街に出た道の先に見えたので」
「わかった」
それで大体の場所はわかる。
スクーターを走らせ二つ先の信号を右折、少し走ると右側にそれらしい大きな建物が見えた。一階が駐車場で上が店舗という構造のようだ。
一階の駐車場へ。いくつかある入口のうち、中央にある入口の自動扉が少し開いていた。なのでその前につけてスクーターを止める。
「これくらい開いていれば手で引っ張れば開くと思うんだが」
自動扉を引っ張ってみる。思ったより簡単に扉が動いた。
「八時から営業開始だから、準備のために開いていたのか」
「そうだと思います。とりあえず先に電気屋に行って電子レンジを見てから、食べ物を探そうと思います」
「出来るだけ早めに動こう。一二時には寝るとして、その前に風呂に入ったりご飯を食べたりしなきゃならない」
「そうですね」
どうやらスーパー部分は八時開店だが他はもっと遅いらしい。プラ製の鎖や衝立等でスーパー部分から客が他に出ないようにしてある。
しかし注意する店員がいなければ突破は簡単。そのまま中央ホールっぽい場所に出て止まっているエスカレーターを上って三階へ。
「止まっているエスカレーターって、何か歩くと違和感ありますよね」
「ああ。何か踏んだ時に違う感じがするよな」
そんな事を話しながら閉まっているお店の前を通って、電気屋へ向かう。
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