第一八三話 今日の宿へ

 道は先程の逆順に近いし、上野台さんがカーナビでセットしたからもう迷う事はない。

 あと後ろ、西島さんとアラヤさん、あまり話が弾んでいない感じで、今日これから行く場所の説明以上の話は出ていない。


 だからその辺の話題提供も兼ねて、上野台さんに聞いてみる。


「東京駅側のホテルにいる人って、具体的にどの辺で、どんな感じですか?」


「大手町タワー辺りに、レベル六〇程度の反応が二人いた。今のところ動いていない」


「皆さんが来られる一〇分前位からです。ただその前三〇分位、皇居の周囲を回っていました」


 アラヤさんが、話にのってきてくれた。


「周囲を回っていたという事は、中に魔物がいる事に気づかれたかな」


「私の魔法では、それ以上はわかりません。皆さんのお知り合いではないんですね」

 

「そうです。私達が連絡を取っている人は一人で動いています、四国に行くと言っていました」


 レベル六〇くらいで二人組というと、思い当たる連中がいる。

 福縞で遭遇した奴らだ。

 残り八五人しかいないのだから、同じ奴という可能性は高い気がする。


 そんな事を思いつつ先程右から来た道を、今度は左やや斜め道なりに突っ切って直進。


「心配なら一度戻りましょうか。服も手近なお店に変更して」


「大丈夫です。魔物はすぐには見つからない場所に隠れていますし、敵が攻撃してこない限り反撃しないように命令しています。なので皇居東御苑に入って、外に出ていない魔物を探して、攻撃を仕掛けない限り、何も起こりません」


 西島さんとアラヤさんの会話が、後ろから聞こえる。


 もし福縞で出くわした二人なら、攻撃を仕掛ける可能性は充分にある。

 上野台さんが歪みを見るのと同じような能力か魔法をもっているようだから、魔物がいることに気づく可能性は高い。

 その上、人相手でも襲ってくるような奴らだ。

 魔物が攻撃してこないのは何故か、なんて考えもしないだろう。


 ただそんな事はあえて言わずに、俺は車を走らせる。

 鉄道のガード下を越え、高架道の下を通った先の交差点を左折。


「次の交差点のちょっと先、右側のビルに入る駐車場がある。その中に入れるようなら入ってくれ。入れなければその先の交差点を右。一方通行逆走になるけれど、右側にパーキングメーターがあるから、そこに適当に停めて」


「わかりました」


 ゆっくり走って、まずはそれらしい駐車場を確認。


「シャッターが閉まっていますね」


「ならパーキングメーターか」


 次の交差点を右折して、路上右側に白い線で描かれている駐車スペースの三つ目に停める。

 

 ◇◇◇


 女子の洋服選びは長い。そんな固定観念が俺にはあった。


 上野台さんや西島さんは、割と実用本位でさっさと必要な着替え分だけ選ぶ。

 ただそれはあくまで例外、そう思っていたのだ。

 上野台さんも西島さんも、いわゆる一般的な女子とはかなり趣が違うし。


 それでも鍵開け等には、俺が同行する必要がある。

 だからまあ、スマホ等で時間を潰す覚悟をしていたのだ。

 

 しかしアラヤさんも、やたら決めるのが早かった。

 売り場を確認し、サイズだけをさっと見て、確保するという感じ。

 選んだものも綿パンツに、半袖のTシャツに、靴下や下着類等。

 なので店そのものは一階から四階まであるのに、かかった時間は一〇分少々。


「もっとゆっくり選んでも大丈夫だけどな。特に時間に制約がある訳じゃないからさ」


 上野台さんがそう言うくらいだ。

 なお返答はこんな感じだった。


「自分で着るのには、これくらいあっさりしたのが好きなんです。それに正直お洒落な格好というのが、私にはわかりませんから」


 そう言われてしまうと、それ以上勧めにくい。

 そしてアラヤさん、食品売り場でも似たような状態だった。


「カップ麺や缶詰以外を食べられるなら充分です。コンビニのパンやお弁当が食べられなくなった後は、ずっとそんな食事でしたから」


 ただここでは、上野台さんが引き下がらなかった。


「なら何か、好きな食べ物とか、反対に苦手なものはあるかい? こっちで適当に考えるからさ」


「特にないです。強いて言えば、ニンニクがきついのと、辛いものはあまり得意ではありません」


「それじゃ肉魚類は何が好みかな? 牛豚鶏では何がいいとか、焼き魚とか、刺身とか」


「牛豚鶏ですと、鶏でしょうか。牛も豚も食べますけれど。魚はあまり家で食べないので……」


「了解っと。酸っぱい系は大丈夫?」


「酸っぱすぎなければ」


 ガンガン質問しながら、冷凍食品とレトルトを中心にガシガシと収納していく。

 

「上野台さん、何にする気ですか?」


「まあ任せてくれ。冷凍食品を使いつつ、ひと味違うメニューにしてみせるからさ」


 そう言えば食系統は、上野台さんが参入してから一気に充実したんだよなと思い出す。

 それまでは俺達も、レトルトを温めただけとか中心だったし。


 だから上野台さんに任せて大丈夫だろう。

 結果として、アイスとかのおやつまで大量に入手して、そして車へ。


「それじゃ宿は、何処にするか決まったかい?」


「ええ。この電話番号でカーナビに入ると思います。〇三ー××××ー××××」


 上野台さんが、カーナビを電話番号による目的地検索画面にして、西島さんが言った番号を入力する。

 画面にスーパー銭湯っぽい名前の施設が出てきた。


「これって、泊まれる部屋もあるのかい?」


「ええ。お風呂以外に、ホテルっぽい客室もあります。今回は大きめの客室を三部屋とるつもりです」


 距離は五キロちょっとと、そこそこ近い。

 交差点等は一応注意して走るけれど、一〇分ちょっとあれば着けるだろう。

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