二六日目 八月二二日

第三八章 キャンプに行こう

第一七五話 車は西へ

 シンヤさんに連絡して、更に夜、SNSのグループ通話機能を使って話し合ったところ。


「魔物が来るまで数時間留まる必要があるのなら、いっそテントを張ってキャンプするのはどうだろう。もしテントが嫌なら、キャンピングカーを持っていくが、どうだ?」


 シンヤさんから、こんな意見が出た。


「テントでキャンプというのも、面白そうです」


 西島さんは賛成。


「でもキャンプ場以外でテントを張って、大丈夫か?」


 上野台さんは不安という感じだ。


「敵がある程度近づけば、魔法で気づく。だから問題ない。テントが張れる程度の平らな空間があれば充分だ。必要な道具は、僕が全部準備して持っていこう。そちらは水と食事だけ持ってきてくれればいい。これなら寝ている時間も、魔物の誘引に使える」


 確かにその方が、効率的というか、時間を節約できる。

 この世界が終わるまで、あと一〇日しかない。

 皇居東御苑にいる魔物の集団の件があるから、出来れば首都圏近郊にいた方がいいだろうし。


「わかった。それじゃ明日の早朝、こっちを出る。ただ、ナビでは高速区間だけで渋滞無しで八時間かかるらしい。だから途中休憩をあわせても、午後四時に御状北インターチェンジがやっとだと思う」


「わかった。なら御状北を出てすぐのところにある、コンビニに午後四時頃集合にしよう」


 そんな感じで、予定が決まった。

 

「なら明日はいつもより早く、五時には此処を出よう。渋滞はないから大丈夫だとは思うけれど、念の為だ。朝食は最初の休憩でとって、あとは二時間に一回くらいの割合でサービスエリアによって休憩すればいい」


「すみません田谷さん。明日も大変そうで」


 西島さんが謝ることはない。


「大丈夫。昨日も結局、一〇時間以上高速を走っているし」


 しかも魔物を見つけては下道に下りたり、そしてまた戻ったり。

 おまけに最後には、とんでもない敵が出てきたりもしたのだ。

 それに比べればずっとましだろう、多分。


「悪い。本当は私も運転できればいいんだけれどさ。高速を走ると考えると、事故る想像しか出来ない」


 その辺については文句をいいたい部分もないわけではない。

 ただ上野台さんの運転センスは、最初にスクーターに乗っていたのを見てわかっている。

 事故る想像しか出来ない、というのもあながち間違いではない気がするし。


「大丈夫ですよ」


「それじゃ今日は、さっさと寝るとしよう」


 ここの部屋は、独立して4人分のベッドがあるから気が楽だった。

 明日はキャンプだからいいとして、明後日はどうなるだろう。

 そう思いつつ、寝室へと移動する。


 ◇◇◇


 翌朝は四時半に起きて、洗面を兼ねて風呂に入った後、五時ちょっと過ぎに出発。

 すぐ高速に乗って、ひたすら南西、奈良県を目指す。


 朝食は七時頃に、常磐高速で一番東京側にある森谷サービスエリアで食べた。


「田谷君はしっかり食べていてくれ。私達は車の中で食べられるから、ダッシュで回ってお土産を物色してくる」


 上野台さんに解凍してもらったハンバーガーとピザを一人寂しく食べ、色々ゲットしてきたらしい2人と合流。再び車で東京方向へ。


「お土産そのものは、今まで回った東北のサービスエリアや道の駅と、あまりかわらない気がします。ただ何処のサービスエリアにも似たようなものがあるお菓子類を、味比べ用として持ってきました」


「あとは三つ編みバラチャーシューなんてのが美味しそうだから、ちょっと多めに持ってきた。あと鶏ハムっぽいのもあったから、昨日食べた分だけ追加。酒は東北の方が揃っていたなあ」


 その後、細くて曲がりくねっていて走りにくい首都高を通る。

 途中、東北道方面との分岐の案内板の近くで、上野台さんが案内を兼ねて聞いてきた。


「ここは左側車線そのままだ。ところで、このすぐ左側が皇居東御苑なんだが、敵の反応はあるか?」


 常時起動している筈の俺の察知+には、何の反応もない。


「ないですね。上野台さんはわかりますか」


「ああ。歪みの方はとんでもない感じだ。一八〇〇体というのは本当だろうな。でもやっぱり、敵としては反応はないのか」


「私の魔法では感じました。異種族支配魔法で支配できる対象が、大量にいると」


 なるほど。でもそうだとすると……


「なら、割と簡単に見つかったりしないんだろうか。今のところ掲示板にそんな情報はないけれど」


「そこまで動き回っている奴は、それほどの数いないんだろう。強いて言えば福島で出遭ったとんでもない奴。アレなら此処を通れば気づくかもしれない。感知距離的に、私と同じ歪み検知タイプのようだから」


 よりによって、いちばんまずい奴にと思う。

 

「もう気づいているでしょうか」


「ルート的には、此処を通っていない気がする。長野から群馬を通って、北関東道を回って東北道に抜けたって感じだからさ。今後はわからないけれど」


 あと、首都高は非常に運転しにくい。

 結構急カーブがあるし、予期せぬ分岐があるし。

 上野台さんが事前に右車線、左車線と言ってくれるから何とかなるけれど。


 その後、右分岐で東名高速道路に入り、蝦名サービスエリアで、毎度お馴染みのレポートを確認。


「昨日の半分、一〇〇体ちょっとしか倒されていないな、魔物は。全国的に天気が悪かったせいもあるだろうけれど」


「歪み解消率は変化なしですね。魔物のレベルも同じ位です」


 なお人の最高レベルは一〇四で変わりなかった。

 そこまで確認した後、休憩は一〇分程度で切り上げ、再び西へと車を走らせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る