第五八話 風呂用魔法? 続々

 福縞市街地でもそこそこ魔物を倒しまくった結果。

 12時少し前。駅東口近くのそこそこ大きな交差点で西島さんがレベル一六に到達。


「さて、どんな魔法が来たかなと……」


「見ていいか」


「勿論です。一緒に見ましょう」


 例によってスマホはステータス画面になっている。


『西島咲良の現在のステータス。レベル:一六。総経験値:五五八。次のレベルまでの必要経験値:七五。HP六四/六四。MP四一/四一。

 使用可能魔法(使用回数):風撃(一~六)。必中(一~一三)。貫通(三~一三)。炎纏(一~六)。冷却(一~六)。爆裂初歩(六)。 簡易回復(四一)。簡易治療(一三)。洗浄(六)。灯火(四一)。収納(常時)。探知初歩(常時)』


「初歩が取れた以外は爆裂と簡易治療、洗浄、探知ですね」


 簡易治療は俺も既に持っている。治療の簡易版で身体欠損や生まれつきの病気以外を治療する魔法。

 そして爆裂と探知は……


『爆裂は攻撃を目標に命中させた後、爆発させる魔法。攻撃の媒体が敵に命中後、敵及び目標物内部への侵入が止まった時点で発動します。初歩では三〇〇〇気圧の大気が媒体先端一平方センチメートルに発生したのと同等の爆発力が生じます。なお炎纏とは併用できません』


『探知は敵の位置を把握する魔法。初歩では一〇〇メートル以内の敵の位置を把握可能です。常時起動し、魔力を六消費します』


『洗浄は対象を綺麗にする魔法。対象は場所、物を問わず人間であっても構わないが表面積はおよそ五平方メートルまで。

 ただし厚さが一センチメートル以内のものは片面のみの面積で計算する。綺麗にとは通常の洗剤・石鹸等を使用し対象物に合わせた通常の方法で洗浄して乾燥させた時と同等』


「探知は察知の敵位置限定版ですか。ただこれで一〇〇メートル先の敵を感知してそのまま撃てますね。爆裂はまだ使わないと倒せない敵はいませんけれど。

 そしてやっと私にも戦闘以外用のオリジナルな魔法が手に入りました。これで服の洗濯も楽になります。あと、人間であっても構わないという事は、お風呂の時も……」


『洗浄を使用した場合、身体を洗った場合と同等に身体を綺麗にする事が可能』


「これで浴槽しかないタイプのお風呂でも気にせず入る事が出来ます。それに行ってすぐお風呂なんてのも。服を洗える事も便利でいいです」


 間違いなく喜んでいる。たしかに洗濯をしなくて済むというのは便利だろうけれど。


 ただそうなると俺のパンツなんかも西島さんの前に出さなければならないのだろうか。洗う前の状態で。

 うーん、今後どうするか考える必要がありそうだ。


 あと探知魔法。これで俺の察知の必要性がかなり薄れてしまった。

 もちろん事前に危険を予測して回避可能というのは大きい。実際氷山ではこのおかげであの男のライフルを避ける事が出来た。


 しかしこれでほとんどの敵相手の場合は、西島さん一人で完結するようになってしまった。発見して遠い位置にいるうちにライフルで仕留めるという形に。


 ライフル弾も・三〇八なら二千発以上の在庫がある。更には拳銃もあるのだ。もう西島さん一人でいいんじゃないかレベル。

 俺の存在意義は……


「あとは冷却が簡易でなくなったのは大きい気がする。これで冷房が効いていない場所でも涼しく出来るし」


「確かにこれは便利です。魔力も今ならそこそこありますし、お風呂で涼みたい時にいいかもしれません」


 これもまた風呂用の魔法だったか。どれだけ風呂に……。まあいいけれど。


 そしてその一〇分後、俺もレベル一六になった。


『田谷誠司の現在のステータス。レベル:一六。総経験値:五六一。次のレベルまでの必要経験値:七二。HP六六/六六。MP三七/三七。

 使用可能魔法(使用回数):風撃(一~六)。炎纏(一~六)。完全治療(一)。簡易治療(一二)。簡易回復(三七)。灯火(三七)。簡易作動(六)。涼却(一二)。収納(常時)。察知(常時)』


「やっぱり田谷さんの方が変わった魔法を先に覚えますよね。作動ってどんな魔法でしょうか。冷却と涼却はどう違うんでしょうか」


『作動は半径二メートル以内の任意の物を動かすことが可能な魔法。視認不可能な場合であっても簡易視認能力により対象の状態を把握可能。ただし掛けられる力は一kN 程度までで、それで動かないものは作動不可』


「一kNって、どれくらいでしょうか?」


『およそ一〇二キログラムのものを一メートル動かせる力』


 なるほど。その程度までの力で、そして二メートル以内の見えないものでも動かせるという事は……


『鍵開け用の魔法ですね、これは。これで開いていないお店でも入れるようになりそうです』

 

 西島さんの言う通りだろう。確かに炎纏&包丁で鍵を壊すのは罪悪感があったけれど、まさか専用魔法っぽいものまであるとは……


『涼却とは身体を涼ませる魔法。高い気温その他で火照った身体をひんやり涼ませる事が出来る。一回の使用で五分間有効。復数対象の場合、一人につき一回起動分の魔力が必要』


 普通に考えれば暑い時に涼む魔法だ。しかしきっとこの魔法はその為というより……


「確かに暑いですし良さそうな魔法です。今も暑いですし」


「なんなら起動しようか?」


「五分だけだからもったいないです。どうせ使うならお昼過ぎのどうしようもなく暑い頃がいいと思います。あとこの魔法、お風呂でのぼせそうな時にも使えるんでしょうか」


 気づいてしまったか西島さん、その可能性に。

 そして返答は……


『風呂でも当然使用可能です。入らない状態と同じ程度まですっきりします』


 ああ、やっぱり……

 おそらくこれ、長風呂でのぼせやすい俺の為の魔法だっただろうと思うのだ。しかし西島さんが使うとすれば……


「ならこれで熱めのお風呂にじっくり長い時間入っても問題ないです。今夜もいい温泉がある宿に泊まるつもりなんです。今朝出てきた宿のように何種類も浴槽があるタイプではないですけれど。

 だから田谷さん、よろしくお願いします」


 やはりこうなってしまったか。まあ魔法の効果を見た瞬間想定していたけれど。

 魔法で長湯出来るようになっても時間が長くなるなら同じ、というか目に毒な時間が増える分問題が……

 

 ひょっとして。西島さんが俺のスマホを見ていないのを確認して、そして思ってみる。そっちの方の興奮を静める作用はあるのだろうかと。


『物理的な熱的な問題のみ解決可能です』


 まあそうだろう。期待した俺が悪かった。

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