第一七九話 一斉射撃
夜一〇時ちょうど。
既にテントその他は撤収済みで、いつでも動ける状態になっている。
まだ俺の察知+に、敵の反応はない。
しかし上野台さんの能力では、しっかり確認出来ているようだ。
「それじゃ移動しようか」
「ああ。それじゃ僕が先頭を行こう」
暗くても暗視能力で、そこそこ周囲は見える。
しかし前に慣れた人がいた方が、道を探す手間がない分歩きやすい。
五分もしないうちに、車を停めたところまで到着した。
「もう少し此処で待って、一キロ以内まで近づいたら車でトンネルの反対側まで移動。向こう側に車を停めて、魔物の集団がトンネルに入り、先頭が四〇〇メートル位まで近づくまで待機。あとは銃撃しまくる。これでいいか」
シンヤさんが上野台さんに確認する。
「うん、それでOK」
「了解だ」
車に乗って、そして魔物が近づくのを待つ。
五分も待たないうちに俺の察知+に反応があった。
間違いない、敵、それも多数だ。
「思ったより早い。途中からコースタイムの7割くらいまで上がっている気がする」
「移動しよう」
車が動き始める。
すぐそこのトンネルに入って、そして奥へ。
「狭くて長いな、このトンネル」
「一キロと一五一メートルあるらしい。狭くて長くてまっすぐという、魔物をおびき寄せて銃撃で倒すにはちょうどいい場所だね」
「普通車ならすれ違えない事もない、って程度だな。此処へ来るまでの道よりは広い。国道とは思えないけれど」
「元々林道だったみたいだからね、この辺は」
反対側へと到着。右側にある林道入口に車を停める。
「それでどうだ、敵は」
トンネルで離れてしまった為、俺の察知+では敵の場所はわからない。
「ここからだと山が邪魔で、よく見えないんだけれどね。さっきまでの感じだと、あと三〇分でトンネルの反対側ってところかな。敵がトンネルの前まで来れば、私の能力で見えるから、それまで待機だね」
窓を開けていれば、風は涼しい。
標高一〇〇〇メートル以上あるせいだろうか。
もう夏が終わりで、しかも夜だからだろうか。
「そう言えば今日使ったキャンプ用具って、ホームセンターへ行けばあるんでしょうか?」
西島さん、キャンプに興味を持ったのだろうか。
「ホームセンターにもあるが、大きめのアウトドアショップの方が確実だ。もし使うなら、今回のを持っていくか?」
「いいんですか」
「ああ。どうせ使わない。僕はやっぱり、今まで通りのコンパクトな道具の方が性に合うみたいだ」
「ありがとうございます。持っていきます」
西島さん、これが終わったらキャンプをするつもりだろうか。
探しても魔物は倒せないだろうし、それ以外に特にやらなければならない事はない。
皇居東御苑の魔物の集団と、戦う可能性は高い。
しかしそれはもう少し後、西島さんの説得工作が上手く行かないとなった段階でいいだろう。
だからキャンプくらいは、やってみても問題無い。
今回のセットなら、案外寝心地がいいというのもわかったし。
寝返りはうてないけれど。
スマホをポチポチしたりして、少し時間を潰したところで。
「そろそろ来たみたいだ。準備しようか」
「了解だ」
上野台さんの言葉で車を降り、トンネル開口部へ。
「トンネル内は照明がないから真っ暗だけれど、皆、暗視能力あるよね」
「僕は大丈夫だ」
「俺も大丈夫です」
「私も見えます。でも魔物は……種類とレベルによっては、見えないみたいですね」
「なら照明をつけておくか、魔法で」
上野台さんがそう言うと同時に、トンネル内に三箇所程、そこそこ程度の明かりが灯る。
「そんな魔法まであるんですね」
「魔女だからさ。破壊系から日常生活のおともになる魔法まで、使える種類は多いよ。ほとんどは使わないままだけれどさ」
これで一気に見やすくなった。
ずっと先の方に、何か動くものがいるのが見える。
あれが魔物だろうが、まだまだ遠い。
「ここで逃げられると困るからさ。ぎりぎりまで寄せるよ。と言っても数が多いから、四〇〇メートルくらいまで来たら撃ちまくる形かな。シンヤはライフル二丁でいいのかい?」
「ああ。今は両手で一丁ずつ持って連射可能だ」
「なら私の魔法も含めて、一回で最大五発分攻撃出来る訳だ。なら相手が一〇〇体でも何とかなるだろう。向こうは左右に逃げ場が無いし、魔物には今のところ真っ直ぐ四〇〇メートル飛ぶ攻撃はないようだしさ」
火球魔法は弓なりに空を飛んでくる。
だから天井があるトンネルでは、遠くまで届かない。
魔物は近づいてくる。
小走りっぽいが、そこまで速くはない。
「射撃開始まで、あと三分半ってとこかな。あと一〇秒になったらカウントダウンをするから」
確かにそれくらいだろうと、俺も感じる。
なお俺の察知+だと、魔物の先頭までおよそ七〇〇メートル程度。
そして魔物は近づいてきて、上野台さん以外は銃を出して構える。
俺と西島さんはライフルを一丁、シンヤさんは拳銃型に改造したライフルを両手で一丁ずつ。
上野台さんは双眼鏡を構えているだけ。
「それじゃカウントダウンを開始するよ。一〇、九、八、七……」
カウント途中で、俺は必中魔法と貫通魔法を起動した。
「……四、三、二、一、はじめ」
全員、撃ちまくる。
轟音が響いている筈だが、スキルで気にならない程度に自動的に調節しているようだ。
火薬の匂いが強烈に漂う。
勿論俺も撃ちまくっている。
弾が無くなったら自動装填魔法を使い、一〇発撃ったところで銃が熱くなってきた気がしたので涼却魔法と修復魔法も起動。
撃ちまくって、更に自動装填を三回やったところで。
「終了だね」
上野台さんの言葉で、俺達は銃撃をやめる。
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