第一八〇話 次の作戦?

 魔物討伐後、取り敢えずスマホを見て、どれくらい倒したかを確認する。


『バガブマスター一体、メイジバガブ二体、アークゴブリン二体、ゴブリンナイト三体、バガブ四体、ゴブリンアーチャー二体、ホブゴブリン四体、ゴブリン二体を倒しました。経験値七〇五 を獲得。田谷誠司はレベルアップしました。現在のレベルは一〇五です』


 倒した魔物が二〇体なら、この4人の中では平均より少し下というくらいだろう。

 戦う前にざっと確認した時には、敵の数は一〇〇を超えていたから。


 やっぱり二丁拳銃のシンヤさんがいちばん多く倒したのだろうか。

 とすると経験値でシンヤさんに抜かれただろうか。

 ちょっと気になるけれど、聞くのもどうかと思うので確かめられない。


「さて、これで此処の魔物は倒したけれど、この後はどうする? 街に行って宿を探そうか?」


「確かにそれが一番正しいんだとは思います。でも、せっかくキャンプの準備があるのですから、一回テントで寝てみたいです」


 上野台さんは普通の宿の方がいいけれど、西島さんはテントで寝てみたいと。

 なら結論は見えたようなものだ。


「なら此処でテントを張ろうか。さっきの所に戻るのは大変だしさ」


 案の定、上野台さんは妥協した。

 そして西島さんはその事に、多分気づいていない。


「そうですね。此処もそこそこ雰囲気がいい感じですし」


「了解だ。ならそこの林道にテントを出そう」


 シンヤさんが収納していたテントを出す。

 先程はテントもシュラフも畳まずそのまま収納したので、出せばそのまま使える状態だ。


「私はテントじゃなくて、キャンピングカーのリアベッドを試してみたいな。シンヤが使わないならだけどさ」


「わかった。僕は自分のテントで大丈夫だ」


「あと私は田谷さんと一緒のテントがいいです」


「了解だ。なら大きいテントとコットは収納しておこう」


 という事で、テント一張りはシンヤさんが収納。

 出ているのはテント大小一張りずつになる。


「明日は、七時起きでいいかい? 六時だとちょっと短い気がしてさ」


「了解だ。僕も七時でいいと思う」


「わかりました」


「俺も了解です」


「じゃあ寝るか」


 それぞれ、テントや車の中へ。

 コットの向きを寝やすい方向にして、そして横になる。


 横になって動きを止めると、外の風の音が一段と強く聞こえた。

 木々を揺らす音、テントの壁面を揺らす音。


 察知+が無ければ、怖いかもしれないと感じる。

 大自然の中に置き去りにされたように感じて。

 外との境は、薄い布地だけだから。

 

 なんて思ったところで、スマホが振動する音が聞こえた。

 俺のではない。西島さんのスマホだ。

 

 俺のスマホが振動しないところをみると、アラヤさんからのメールだろうか。

 もう遅い時間なのにと思いつつ、とりあえず無言で目を瞑って寝たふりをする。


 メールを読んでいるのだろうか。また打ち返すのだろうか。

 そう思った次の瞬間だった。


 ふっと、空気が変わったような気がした。

 周囲の気配が消えたような、そんな感じ。

 察知+が反応していないから、危険性はない筈だ。


「田谷さん、起きていますよね」


 西島さんの言葉が聞こえて、そして俺は理解した。

 さっきまでの風音が一切聞こえない事に。


 この異常事態は西島さんが起こしたのだろうか。

 そして俺はは寝たふりをするべきか、それとも返答をするべきか。

 ほんの少しだけ考え、そして俺は返答する事を選択。


「起きているけれど、何?」


「実は相談したい事があって、音声遮断の魔法をかけました。これでテントの外からでは、中で何を話しても聞こえない状態になっています」


 そこまですると言う事は、何を言う気だろう。


「明日か明後日にでも、アラヤさんを誘ってみようと思うんです。キャンプにするか温泉にするか、都内の高級ホテルにするか、巨大スーパーでの買い出しにするかはまだ決めていませんけれど」


 アラヤさんを、誘うのか。


「理由を聞いていいか?」


「アラヤさんと話してみて、思ったんです。アラヤさんがこの世界を壊そうと思えて、私が壊せない理由。私にあって、アラヤさんにないもの。それってきっと、楽しいと思える体験とか、好きだと思える人の有無なんじゃないかと思うんです」


 なるほど、確かにそれはあるかもしれない。


「あとメールをしてみるとアラヤさん、かなり酷い生活をしているみたいなんです。特に食事、基本的にコンビニ調達で、カップ麺か缶詰とパック御飯だとか。あと今いる場所も宿とか普通の家とかはないので、中にある病院で調達したベッドを会議室みたいな部屋に入れて、そこで暮らしているそうです」


 確かに皇居東御苑内なら、そうなるのかもしれない。

 でも待てよ。


「ちょっと外へ出れば、すぐ近くにホテルが何軒かあるんじゃないか?」


「今いる魔物で防衛戦をするなら、建物内より広い場所の方が有利なんだそうです。食べ物もコンビニで収納目一杯にカップラーメンと缶詰、パック御飯等を詰め込んだので、最終日まで出なくても大丈夫って書いていました」


 なるほど。

 でもその生活で、そして魔物が話し相手どころか、ペットのような意思伝達さえ出来ないとなると……


「かなり辛そうだな、その環境」


「ええ。ですから意見を変えるかどうかは別としても、息抜きに外へ連れ出してあげたいです」


 なるほど、趣旨はわかった。

 ただ懸念材料は幾つかある。


「アラヤさんが誘いに乗ってくれるか。そしてアラヤさんが会っても大丈夫な人かどうか」


「どちらも、多分ですけれど大丈夫だと思います。もちろん行く前にもう少し色々聞くつもりですけれど」


 なら大丈夫だろうか。

 いや、それでも不安が残る。


「アラヤさんの持っている同族統率や異族支配の魔法は、こっちに効くだろうか。俺はスキルに耐支配の最大というのがあるから、効かないと思うけれど」


「私も同族統率と異族支配の魔法を持っているので大丈夫です。ならこれも、上野台さんに聞いてみます」


 あとは……

 危険を考えれば、きりがない気がする。

 ただそれは、アラヤさんも同じだろう。

 まともな人間でこちらに害意がなければ、だけれども。


 西島さんも、当然それなりの対策なり何なり考えている筈だ。

 なら危険だと思いつつも、ある程度西島さんに任せてしまうのが正しいのだろう。 


「わかった。なら西島さんが大丈夫と判断するなら、会ってみてもいいと思う」


「ありがとうございます。それじゃ上野台さんにも聞いてみます。あと音声遮断の魔法を解除します」


 空気が変わったような感触がした。

 テントの外の、風の音が戻ってくる。

 俺はなんとはなしに、スマホを出して画面を確認してみた。


『音声遮断:一定範囲内の音を外部に聞こえないようにする。範囲は最大で直径二〇メートル程度。必要な魔力は五分につき、効果範囲の直径(単位メートル)と同じ。直径三メートルの場合、五分につき魔力三必要』


 西島さんはこの魔法、いつの間に手に入れたのだろう。

 今の銃撃戦でレベルアップして、だろうか。


 あと今の銃撃戦でシンヤさんは、どれくらいの経験値を稼いだのだろう。

 ひょっとしたら抜かされただろうか。

 やっぱり気になる。


 目を瞑ると、更に色々と考えてしまう。

 今回の戦闘でも、世界は終わらなかった。

 ならあとどれだけ魔物を倒せば、この世界は終わるのだろうかとか。


 眠れないまま、夜が更けていく。

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