第一五六話 魔物が減り始めた

 八月一五日は前と同様、青盛から弘先、課角経由で森岡へ行き、南下して船台まで行ってみた。


「やっぱり魔物の発生は無いみたいですね、船台」


「ここの分はもう終わりって事なんだろうな」


 なんて事を確認した後、以前も泊まった松島のホテルに宿泊。

 部屋の露天風呂を西島さんと二人で使うという、ちょっと勘弁して欲しいイベントがあった以外は、特に何もなかった。


 八月一六日は福縞、与根沢、山型と新幹線沿いに進んでいって、飽田まで行った後、男賀半島にあるけれど、前回とは違う宿に宿泊。


「今度はお湯がいい宿です。三ヶ月で管が詰まるくらい、濃いお湯が出ているみたいです」


 豪華で広いけれど部屋数が少なめという、かなりいい造りの旅館に入って、温泉に直行。


「開放感は無いですけれど、いい感じですね」


 西島さんが言うとおりの造りだ。

 屋根もあるし、壁もある。開いている方の壁も窓が高かったりして、景色を楽しめる造りでは無い。

 外気は一応流れるようになっているけれど。


 ただここの特徴はそういうところではない。お湯の出る量と、析出物の多さだ。

 お湯が出る先に、鍾乳石のような析出物が固まった岩が出来ていたりとか。

 床もお湯が流れる部分に析出物が固まって鍾乳洞の皿みたいになっているとか。


 淡褐色というか、薄い緑色かかった湯の華かが浴槽に沈んでいたりする。

 清掃はしっかりされていたようだから、人がいなくなった後に蓄積したものだろう。

 そんなのが出る位、お湯が濃い模様だ。


「確かに効能がありそうな温泉だよな」


 なんて上野台さんが言った時だった。

 スマホが振動して、通知を知らせる。


「シンヤにしては早いな」


 シンヤさんから連絡が来るのは、いつもなら夜九時から一〇時頃だ。

 今日はあちこち回ったから風呂に入る時間も遅めだけれど、それでもまだ午後七時を回った程度。


 俺はスマホの画面をSNSに切り替える。

 メッセージ発出元は、予想通りシンヤさん。

 そして文面は……


『本日夕方から、魔物の出現数が一気に減り始めた。16号線の内側はほぼ何処もそんな感じを受ける。まだ一部の市町村では発生しているようだが、長くはなさそうだ。取り急ぎ参考まで』


 理由は想像つく。


「出尽くしたのでしょうか」


 西島さんも同じように考えたようだ。


「そうだろうな。何もなければ18日朝まで魔物は出る筈なんだけれど、魔物がいなくなると次を発生させる仕組みになっているからさ。そうやって補充しまくった結果、予定より二日半早く出尽くしたんだろう。ちょっと思う事があるから、シンヤへ返信しておく」


「それだけ魔物を倒した、という事でしょうか」


 いや西島さん、それだけじゃない。


「首都圏は道があちこちへ通じているし、自治体それぞれの面積が田舎と比べて狭い。だから魔物が発生しても割と早い内に移動してしまう、なんて事があると思う」


 上野台さんもそこに気づいていたようだ。

 西島さんが頷く。


「そうですね。移動していなくなるという場合も多いんですね」


 ついでだから一言言っておこう。


「この辺だと各市町村の面積が大きいし、道も各方向に続いているとは限らないからさ。出て行くまでにそこそこ時間がかかるだろうけれど」


 言った後、ふと思う。 

 首都圏で経験値が稼げなくなったら、シンヤさんはどうするのだろうと。


 シンヤさんだけではない。同じように経験値稼ぎをしている人は他にもいるだろう。その人達はどうするのだろうか。


 そして、東京の中心部に向かって、魔物の大集団を引き連れていった誰かはどうするのだろうか。


 何処に魔物が残っているか、なんて情報は公開されるのだろうか。


『そういった情報を公開する予定はありません。また直接的に魔物を感知する能力または魔法の最大値は一キロメートルまでです。空間の歪み等を察知する能力等で間接的に魔物を探知する場合でも、最大感知距離は視界と同程度、平坦な場所において七~八キロメートル程度となります』


 上野台さんの能力以上は無い、という事か。

 少なくともスキルとか魔法では、どの地方に、どれだけ魔物が残っているかを把握する事は出来ないという訳か。


 そんな中、上野台さんはWebカメラを分析して、遠隔地にいる魔物や人の動きをある程度は把握している。

 他にそういった事が出来ている人はいるのだろうか。

 

 そして、俺の願いは叶えられるのだろうか。

 なんて事まで考えたところで、上野台さんの声が聞こえた。


「明日は少し早く出て、今日辿ったルートを逆に戻って、石薪辺りまで回ろう。東北方面もそろそろ魔物の出現が終わりになるだろうからさ。経験値を稼げるだけ稼いでおこう」


「そうですね。首都圏で経験値稼ぎをしていた人が、東北方面に来るかもしれませんから」


「シンヤは中部方面を回ると書いてきた。だから私が把握している、まだ魔物の集団がいる場所を教えておいた」


 上野台さんはそこまで言った後、ふっと溜め息をついた。


「シンヤには東北からも東京からも離れていて欲しいんだ。あいつは嫌いじゃないからさ。だから東北で残った魔物を取り合うなんて事をしたくはないし、東京に残って危ない目にも遭って欲しくない」


 気になったから聞いてみる。


「東京に残って危ない目に遭うって、具体的に何かあるんですか」


「ああ」


 上野台さんは再び溜め息をついて、そして頷いた。


「大量に魔物がいる場所が、一箇所だけあるんだ。ひょっとしたら攻略する必要があるのかもしれない。ただシンヤや知り合いには攻略して欲しくないんだ。危なすぎるからさ」

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