第六話 病院到着
直線距離で東北東十二・五キロメートル。わりとまっすぐに続いている道を通っておよそ十五キロメートル。
ただ車があちこちに停まっていてそれほど速度を上げられない。その上……
ビーッ! ビーッ! ビーッ! スマホがブザーのような音を鳴らしつつ振動する。画面背景が真っ赤、もうお馴染みの表示だ。
『魔物出現! 百メートル以内!』
出来れば急ぎたい。しかしここで魔物を取り逃がしてレベルアップされてはまずい。
仕方ない。急いで倒そう。それに考えてみればまだ拳銃を魔物に試していない。ならここで試せばちょうどいい。
俺はできるだけ停まっている車から離してスクーターを停める。見通しがいい方が魔物を発見しやすい。
スクーターを降りて拳銃をホルスターから出し、大声で叫ぶ。
「出てこい! 此処だ!」
少しでも早く倒して進みたい。そう思う心を抑えつつ周囲を見回す。何処だ、何処にいる。
背後で他と違う音がしたように感じた。とっさに振り返る。
いた。右側『●●ラーメンまであと百メートル』の看板脇だ。俺との間の距離はおよそ五十メートル程度。
すぐにでも拳銃をぶっ放して倒したい。そう思う心を抑える。この距離では拳銃は当たらない。もっと近く、勝負は十メートルを切ってからだ。
ゴブリンは近寄ってくる。しかし足は遅い。そういえば今まで倒したゴブリン、どれも足が遅かった気がする。よく考えたら幼稚園児程度の身長だ。ピッチもそこまで速くない。足が遅いのは当然か。
ならばという事でこっちからゴブリン側へ近寄る。早足程度で近づき、十メートルくらいのところで停止。
撃鉄を起こして拳銃を両手で構え、そして引き金を絞る。
ドン、手にそこそこ強い衝撃。当たったか! ゴブリンはどうだ!
見たところそのまま歩いてくるようだ。再度撃鉄を起こそうとしたところで俺はゴブリンの動きが変だという事に気づいた。
同時にゴブリン、前のめりに倒れる。
少し近づいて確認。腹に大穴が空いていた。拳銃は命中していたようだ。スマホの表示を確認。
『ゴブリンを倒しました。経験値三を獲得。次のレベルまで、経験値は一必要です』
このリボルバーなら腹に当てれば余裕でゴブリンを倒せる。少なくともレベル一のゴブリンならば。
次の機会があったなら小さい方の自動拳銃で試してみよう。まず大丈夫だろうけれど。そう思いつつ俺はスクーターにまたがった。
◇◇◇
道は森っぽい場所を抜け、ゴルフ場入口の横を通り、市街地に入る。
インターチェンジ状になっている大きな交差点を通り過ぎたところでまたスマホから警報。スクーターを停めて今度は自動拳銃の方で倒す。
やはりあっさり倒せた。この小さな拳銃でも十分なようだ。手に伝わるショックが少ない為かこっちのほうが当たりやすい気がするし。
あとこれでレベルアップした。
『田谷誠司はレベルアップしました。現在のレベルは三です』
これでまた少し強くなった筈だ。ステータスを詳しく確認したいところだが今は先を急ぎたい。
弾を補充しスクーターにまたがる。次の横断歩道がある信号で左折。住宅地の二車線道路を駐車車両を避け走りつつカーナビを確認。あと四百メートル。
道の先やや左側に大きい建物が見えてきた。おそらくあれだろう。そう見当をつけて近づく。
確かに病院と書いてあった。やはり目的地はここのようだ。更に近づくとこども病院の看板と駐車場入口という案内が出ていた。間違いない。
駐車場へ入り、そのまま歩道へ乗り上げ経由で病院の正面入口へ。入口真ん前でスクーターを停め、荷物入れからザックを取り出し予備の拳銃三丁をズボンの左右と後ろのポケットへ入れる。あとはスマホも忘れずに。
あとは警棒もベルトにつけたまま持って行こう。接近された時は拳銃より使いやすそうだから。他の荷物は後で取りに来ればいい。だからザックはそのまま放置。
入口の自動ドアは反応しない。何故だ。周囲を見回す。
夜間出入り口と書いてある扉が横にあった。そこから中へと入る。
さて、部屋は何処だ。スマホを見た瞬間、表示が見覚えある赤背景になった。
『魔物確認! 五十メートル以内!』
おそらく病室から出られなくなった原因の魔物だろう。此処は広くて建物内としては見通しがいい。ならばここで魔物を迎え撃つべきだろうか。
再びスマホが振動する。
『魔物確認! 五十メートル以内に二体!』
訂正、どうやらこの病院には魔物が最低二体いるようだ。他にいる可能性すら否定できない。
なら先に病室を目指そう。どっちへ進めばいい。俺はスマホを見る。
矢印表示と文字が出た。このホールを左に行って、左に曲がって、その先の階段だな。
階段で魔物に襲われると面倒だ。充分注意して行く必要がある。
周囲からは余分な物音は聞こえない。しかしここは床が固い。普通に歩けば足音はするだろう。それで確認するしか無い。
右手に拳銃、左手にスマホを持って慎重に歩き出す。今のところ俺の足音しかしない。それでも周囲を見回して確認しながら、注意して行く。
階段に到着。ただ扉は閉まっている。向こう側に魔物がいると面倒だ。そう思ってふと気づく。魔物が同じ階の十メートル以内に来たらスマホが知らせてくれるなんて機能はないだろうかと。
期待を込めてスマホを見てみる。
『本来は不可です。ただし今回はシステムのミスによる救援作業中故に例外的に許可します。二十メートル以内、同じ階または階段の半階分まで接近時に振動と表示で警告を通知します』
そしてスマホは現在、警告を発していない。これで安心して行ける。それにこの扉を開けても問題無い筈だ。
スマホをポケットに入れ覚悟を決めて、俺は扉を静かに開ける。スマホは振動していない。更に扉を開けて中を確認。大丈夫、何もいない。
拳銃を右手に持って階段をゆっくり上へ。
中間地点の踊り場に到着。途端にスマホが振動した。とっさに周囲を確認。階段にはそれらしい物音はしない。今見える範囲にも怪しい場所はない。
表示を見る。
『魔物確認! 二十メートル以内』
今度は二体ではないらしい。ただし二十メートル以内ではないけれど近くにもう一体いるという可能性は否定できない。
いずれにせよここからは最大限の注意が必要という事だ。俺はスマホをポケットに入れ、拳銃を両手で構えてゆっくり階段を上る。
階段の二階部分へと到着。そして階段室の外への扉は閉まっている。
少しずつ扉を開いて、見える範囲にいないか物音がしないかを確認して、そして一気に開いて拳銃を構えるという手順でいいだろう。
俺は深呼吸をして、覚悟を決めて、そして扉のノブを握った。
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