第一章 救援要請と行動目標

第五話 救援要請

 拳銃をホルダーにしまい、ザックを背負って考える。さて、次は何処へ行こうかと。

 自衛隊の兵器や武器等は使えない。なら普通に手に入る装備は警察のものが最高だろう。なら武器や防具に関してはこれで完了だ。


 そして他に今すぐ揃えたいもの、揃える必要があるものは特にない。その辺の店へ入ればいくらでも手に入る。


 食品はまず問題ない。生鮮や弁当等は持たないだろうけれど、缶詰やレトルトなら大丈夫。

 衣服は特に着替える必要を感じない。住は魔物が来ても問題無さそうなホテルを探して泊まるつもりだ。


 そこまで考えてふと思った。魔物はどんな場所に出やすいのだろうかと。

 人口密度と関係があるのだろうか。それとも自然が多い処の方が多いのだろうか。


『魔物は歪みが大きい場所に発生します。また一般に人口密度が高い方が歪みは大きくなります。この世界では複製前の世界の人口百名につきレベル一の魔物一匹が出現すると思って下さい。あくまで目安ですが。


 これは三十五日間、合計の値となります。またレベルが高い魔物が出現するにはレベルが低い魔物より多くの歪みが必要となります』


 要は人が多い場所ほど魔物も多いという事だ。魔物が多ければそれだけ経験値を稼げる。つまりより強くなる事が出来る訳だ。


 その代わり魔物が多い分危険だし、更に他の人間という難しい要素もある。


 人口が多い方と少ない方、どっちを選ぶか。なんて思った時だった。

 ピー、ピー、ピー。スマホが鳴った。魔物が出た時とは違う音だ。何だろう。


『救援要請が出ています。場所は現在地から東北東十二・五キロメートルです』


 端末画面にはそんな文字列。

 救援要請? どういう状況だろう。今の状況、魔物を襲い襲われるのが当然の状態だと思っていたのだけれど。

 

『魔物に襲われる程度では救援要請は出ません。今回は転送ミスによって生存困難な状態が発生した為、システムによって救援要請が出されました』


 転送ミスにより生存困難な状態か。具体的にはどうなっているのだろうか。


『場所は県立こども病院内です。病室至近の廊下に魔物が出現しています。現在は病室の扉に鍵をかけて防いでいる状態です。ただし扉はそれほど頑丈ではありません。レベル三程度の魔物なら壊すことが可能です。


 病室内にトイレ、水場はありません。また当人は気管支喘息の患者です。ある程度以上激しい運動を行うと中等度以上の発作を起こします』


 病室に籠城! 何だそれ! 詰んでいるだろうそれ!

 何故そんな状態にしたんだ! 思い切り文句をつけたくなる。


『システムのミスです。通常は年齢や健康状態等を考慮して配置する世界を決めています。ですので自力での生存が困難な状況にはならない筈です。


 ですがこのケースは自力解決が困難な配置となってしまいました。原因は不明ですが事実は事実です。ですが再配置は出来ません。ですので例外的に救援要請を出す事となりました』


 言い訳を聞いても状況は変わらない。そして救援を出しても誰かが駆けつけなければやはり状況は変わらない。

 なら俺以外で当人以外にもっとも近い人間はどの辺にいるのだろうか。いるとして、それは頼りになる状態なのだろうか。救援要請で急行してくれるのだろうか。


『当端末には情報はありません』


 くそっ、思い切り悪態をつきたくなる。俺自身の事では無い。それはわかっているのだがこういう不条理は個人的に嫌いなのだ。


『本人は状況を把握しています。部屋で耐える準備をしていますが、自分の生存はほぼ諦めている状態です。耐える準備をしたのは生き残る為では無く、自分が殺されて魔物がレベルアップする事を防ぐ為です』


 現場はこども病院。なら相手はきっと子供なのだろう。その子供が死を覚悟していて、それでも他に迷惑をかけないよう部屋で立てこもっているか。

 

 俺にとって救援に行くのはリスクでしかない。俺一人ででもこれから生き抜く方法に悩むのに、下手すれば子供一人という重しがついてしまう。面倒という以上にリスクだ。

 充分わかっている。わかっているのだが……


 いい人ぶる訳じゃない。むしろ俺自身は割と冷たいし面倒な事はしない人間だ。少なくとも自分ではそう認識している。


 それに俺は他人に必要以上に近づかないし近づく気も無いタイプだ。他人にあわせて面倒な事をしたくない。ぼっち上等。少なくとも今はそう生きている。


 だから……


 これから救援に行くのはその相手の為では無い。俺自身が後で面倒な思いを抱えるのが嫌だからだ。

 あの時助けた方が良かっただろうか。そう思いたくないから。誰かを助けたいとかじゃない。あくまで自分がそう思いたくないという、自分の問題。


 だからこれは利己的な行動だ。そう俺は自分を納得させる。それに俺自身が保護しなければならない可能性が百パーセントという訳でもない。俺以外の誰かが救援に行くかもしれないし。


 それに向こうには魔物がいるのだ。ならレベルアップの経験値稼ぎにちょうどいいだろう。

 とりあえず廊下にいる魔物を倒して、トイレに行けて、水を飲める状態にすればいい。まずはその程度に考えよう。


 俺は拳銃をホルダーに仕舞ってスクーターのところへ。ボックスを開けてザックを収納し、前が二輪のやや大きめで新しいスクーターにまたがる。


 急ぐとしよう。トイレが間に合わないなんて事になればかわいそうだ。


 エンジンは一発でかかった。なかなか整備状態がいい。流石警察車両。

 俺はスロットルを捻る。スクーターは前へと走り出した。

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