第二〇一話 突入
スマホの時刻表示は、一一時五六分。
俺と西島さんは、ホテルのあるビルの一階、北西側の軒下で待機中だ。
ここから大手門まで、およそ一三〇メートル。頑丈そうな門扉が閉まっている。
作動魔法と腕力を使えば開けられるだろう。しかし余分な時間をかけて魔物を集めたくない。
だから今回は、上を飛び越える予定だ。
まだ雨は降ってきていないが、いつ降ってもおかしくない空模様だ。
雨具を着ようかどうかは迷ったけれど、結局は動きやすさを考え、着ないことにした。
西島さんも同様だ。
「鹿児島の方は、どうでしょうか?」
「わからない。まもなく暴風域に入るとは思うけれど」
台風はまだ上陸していない。
ただ進路そのものは大隅半島直撃コースだし、魔物のいる辺りは、暴風域を標す円の直近だ。
だからおそらく、そう遠くないうちにこの世界は終了する。歪み消去率九五パーセント以上を達成して。
その前に、アラヤさんのところへたどり着きたい。
しかしあまり早くたどり着くと、敵が多すぎて危険だ。
そう考えて、時間を正午に設定した。
それが正しかったのかは、まだわからない。
おそらくアラヤさんは、積極的な攻撃はしてこないだろうとは思っている。察知+に敵の反応がないことが、それを裏付けている気がする。
でもそれは、出来るだけ期待しない方がいい。
通知を伝える振動音がした。俺のスマホと西島さんのスマホ、両方だ。
『まもなく正午ですね。やはり世界は、このままでは終わらないようです。それでは東御苑の本丸休憩所でお待ちしています。どの門にも、本丸に続く通路にも、魔物を大量配置しています。門も皇居の坂下門を含め、全ての門を閉じて鍵をかけました。入ってくる方には攻撃するよう、魔物には指示してありますので、覚悟の上、攻めてきて下さい』
すぐに上野台さんからも、通知が入った。
『アラヤちゃんから通知が届いた。あと新宿の二人はおそらく自動車で、二〇号線から近づいてきている。魔物を乗せたトラックらしき反応も、南東側五キロぎりぎりにいるようだ。他には敵も見物客も反応はない。
外側の方はなんとかする。だから安心して、アラヤちゃんと戦って、説得してこい。作戦は時間通りに開始する』
まだ察知+には、敵の反応はない。
スマホの時間表示は、一一時五九分。表示を変えて時計表示にすると、一一時五九分二〇秒。
「西島さん、準備はいい?」
「勿論です」
力強い答が返ってきた。
「それじゃ、残り一〇秒になったら、加速魔法を使って一気に本丸を目指す。不自然な格好になるけれど、我慢してくれ」
「ええ、お願いします」
西島さんを背負うというか、おんぶする。色々気になる感触はあるけれど、今はそういった場ではない。
俺は加速魔法を起動して、そして全力で走り出す。内堀通りを横断し、壕にかかる細い通路を一気に突っ切って、最初の小さい門の前で右斜めへジャンプ。
門に続く塀の棟瓦に足をつける。しっかりした感触なのを確かめて、更にジャンプ。大手門の棟瓦に足をつけ、下を確認しつつ今度は低く、先へと飛ぶ。
魔物は大手門の正面と、その左側の休憩所方向に群れでいた。しかし俺の前方、宮内庁病院方向にはいない。
アラヤさんは、本来の順路通りに魔物を配置したのだろうか。それとも俺が来そうなルートをわざと空けたのだろうか。
わからないまま、道路に着地。そのまま正面の細い道へと入る。魔物の反応が鈍く感じるのは、加速魔法のおかげだろうか。
いくつかの魔物が、察知+に敵として反応しはじめた。
ただし全ての魔物ではない。俺達を侵入者として認識した魔物だけが、敵として反応するようだ。今のところは。
宮内庁病院先を左、奥の駐車場までダッシュして、屋根付き車庫をその先の低い石垣ごと飛び越え、狙った木の枝に足を掛け、向こう側へ着地。
ここはもう二の丸だ。見える範囲には敵魔物はいない。その代わり池や雑木林があって、速度がやや落ちる。
察知+に魔物の居場所以外の反応がないところを見ると、遠距離魔法は飛んでいないようだ。なので雑木林の間の小道を安全第一な速度で走って、汐見坂へ。
汐見坂のクランク状になっているところに、魔物が大量配置されていた。
見た感じでは、アークゴブリンがメイン。そう思ったところで一団の反応が敵に変化。発見されたようだ
そう思ったと同時に察知+から警報。咄嗟に左に避ける。
これ以上スマホを確認する余裕はない。どうやらメイジバガブもいるようだが、じっくり観察する余裕もない。
壕と高い石垣がある。ある程度近づかないと、飛び越す事が出来ない。
ある程度は範囲防御のお世話になる事を覚悟して、全速力で魔物に向かう。
四歩目、魔物のすぐ近くと感じる辺りで斜め左へジャンプ。石垣の上でもう一度ジャンプ。それなりに樹木が生えている中を、隙間を見つけて突っ切る。
左右に走る小道に出た。この先の林を透かして広い芝生が見える。
大奥跡だ。なら本丸跡は左、もう五〇メートル程度。
しかし左斜め前側には、大量の敵反応。本丸跡に配置された一〇〇体だろう。
ここの魔物は、近づいた時点で敵という設定なのだろうか。門から入った時点では、まだ敵と反応していなかった筈なのだけれど。
魔物の種類は、ここから見えないので不明。
危険察知の警報が頭の中でガンガン鳴り響く。立ち止まって観察する余裕なんてない。
左、本丸跡方向へ。背後で火球魔法が炸裂した音と熱気。俺は振り返らず、更に先、本丸跡のトイレ裏側へ。
遠距離攻撃が飛んで来ているが、確認する余裕はない。
トイレの影に入ったところで、攻撃が止んだ。魔物は現在位置から動かないようだ。
ならここは安全地帯なのだろう。少なくともいまのところは。
俺は西島さんを下ろす。
「悪い。結構攻撃が激しい」
最後の手段は、まだ残っている。突っ込んで睡眠魔法を全力で使えば、ほとんどの敵は倒せる筈だ。
スマホを見て、魔力の残りを確認。
『魔力は三四八残っています』
そう読み取ったところで、スマホの画面が変わった。
あと西島さんのスマホも、通知を知らせる振動が作動しているようだ。
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