第二七章 危険な集団

第一二一話 次の集団

 多崎市の市街地に入ったところで国道を右折し、旧国道らしい街中を通る道へ。


 その辺りから魔物が出始めた。

 と言ってもかつての船台みたいに走るとすぐという状態ではない。

 レベル五程度の魔物が、だいたい一キロ走ると出てくる程度だ。

 それでも魔物が出てくる事は意外だった。


「昨日集団の魔物を倒したから、今日は出ないと思ったんですけれどね」


「此処はまだそれほど魔物が倒されていないからかもしれないね。船台は何回も倒した結果、もう出せる余裕というか歪みが無くなりつつあるという感じで」


 なら魔物は一定期間に出すという形では無く、ある程度は倒したら補充的に出る、という感じなのだろうか。

 スマホが答合わせしてくれない以上、何が正解かはわからないけれど。


 五体ほど倒したところで道は橋を渡り、街が途切れる。

 その先で道は国道に合流し、周囲は畑、まばらな家、林という感じになった。


「人口が少ないと魔物も出ないようだね。確か最初の説明ではの山だとコボルトが出るってあった筈だけれど」 


 それについては俺も考えた事がある。


「魔物の数が人口比例だからでしょうね。野山に出るはずの魔物は、元となる人口が少ないから歪みが少なくて発生できない」


「なるほど、それはむこうさんの設定ミスだね」


「東京の皇居や明治神宮辺りなら出るかもしれないです。人口密集地に囲まれていて、木々に囲まれていますから」


 そんな事を話しながら車を走らせる。

 魔物はなかなか出てこない。

 街を出て三キロ走ってようやく一体、しかもレベル三のゴブリンという状態だ。


「スクーターで走っていた時もこんな感じでした。街と街の間は」


 西島さんの言うとおりだなと思う。魔物の強さも同じ位だ。


 そのまま粟原市に入るが、様子は変わらない。

 ちょっとした集落が飛び飛びにあって、たまにホブゴブリンが出る。

 そんな感じだ。


「こうやって走ってみると、船台って結構魔物が出たんだなと思うよ。出なくなったといっても一キロ走ればホブゴブリンの一体は見つかるんだからさ」


「このペースだとそうですよね」


 高速のインターを過ぎたところで俺がホブゴブリンを一体倒して。そして更に高速を越えて周りが開けたところだった。


「ちょっと止まって貰っていいかい?」


 上野台さんの言葉で車をゆっくり停める。


「魔物がいましたか?」


 俺の魔法には反応がない。だからいるとしても一〇〇メートル以上は離れている。


「前方の丘の上、結構先だけれどかなり強い歪みがある。これがひとつの集団なら、昨日出会った集団より大きくて強そうだ」


 なるほど。


「どこかで待ち構えますか?」


「何処で待ち構えるか、ちょっと考えさせてくれ。ここからじゃ相手の位置やこれからの移動方向がわからない。こっちが低くて向こうがあの台地の上。だから把握しにくくてさ」


 上野台さんはカーナビの地図画面で前方の街周りを人差し指で示す。


「この辺りのどこかにいる、としか今の私にはわからない。そしてこの後、すぐにこっちに向かって歩いてくるか、それとも登目市の方へいくのかも不明だ。

 とりあえず車は移動しよう。ちょっと前進したところに右へ曲がる道がある。そこでUターンして、一つ手前の信号がある交差点まで戻ってくれ。そこならどの方向にもいけるから。そこで様子を探りながら適当な場所を探そう」


「わかりました」


 確かに今の道の広さ、両側遭わせて二車線ではUターンは無理だ。バックで戻れる腕は無い。

 だから交差点等を利用して方向転換をするのは正しい。


 しかし自分が把握できない敵がいる方向に車を走らせるのは、ちょっとばかり怖い。

 もちろん上野台さんの指示だから、問題はないのだろうけれど。


 言われた通り百メートル程走ったところに、右方向に太い道が分岐している場所があった。

 ハンドルをめいっぱいきって曲がり、それでもUターンしきれなかったので、一回バックしてから、元の方向へと向きを変える。


 指定の交差点にまもなく到着で、速度を落とし始めたところでさらに指示があった。


「その交差点を左で、あとはゆっくり、時速二〇キロ位で走ってくれないか。適当な場所でこっちが指示するから」


「わかりました」


 言われたとおり左折して、ゆっくり車を走らせる。


「三角定規があるだろう。あれの二等辺三角形じゃない方の、尖った角を下向きにした形を想像してくれ。魔物がいるのは三角定規の直角のあたり。今曲がった交差点が尖った角、今走っている道が一番長い辺だ」


 上野台さんの説明で頭の中に図を思い浮かべる。


「魔物が多崎へ向かうなら下方向へ、登目に向かうなら右方向へ動く。だから長い辺の真ん中くらいにいれば、魔物がどっちへ動くかわかりやすいだろうと思った。

 全体を見下ろせる高い場所があれば良かったんだけれどさ。残念ながら無かったから、次善の策としてこの道を選んでみた」


 両側あわせて二車線の道路だが、道の状態が良くて走りやすい。

 両側の風景が平坦になったところで、上野台さんの声が聞こえた。


「この先、小さい交差点がある。その手前で停めてくれ。そこなら道幅が広いから、Uターン出来そうだから」


 右折車線を含めて三車線になったところの手前で、Uターンに備えて右端に寄せて車を停める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る