第二四話 夕食後にもう少し

 お風呂の後は夕食だ。


 宿についてから今のところ、スマホからの魔物警告はない。

 大新井町は人口がそれほど多くない。その分魔物が出にくいのだろう。なら今後も人口が少ない観光地の宿なんてのが宿泊先として正しいのかもしれない。


 そして夕食はコンビニバイキングで、今回も豪華だ。

 主食を兼ねているのはオムライスと明太子スパゲティとカツカレー。カツカレーは俺セレクトで残り二つは西島さんセレクト。

 おかずがフ●ミチキ、カニカマかきたま豆腐、枝豆、海老ブロッコリーサラダ。

 おやつがミルクレープ、プリン、生ドラ。

 そしてドリンクとして牛乳とオレンジジュース。


 この部屋のテーブルが広めで良かったと思う。普通の小さいテーブルでは全部&取り皿を載せきる事は出来なかっただろうから。


「こうやって見るとやっぱり多過ぎる気がします。朝、昼と食べきれないくらいだったので少し抑えたつもりだったんですけれど」


「放っておいても傷むだけだし、これでいいんじゃないか」


「そう思う事にします。どれも美味しそうですから」


 いただきますと言ってから夕食開始。


「あ、カツカレー、少し貰っていいですか」


「これ、美味しいです。良ければ一口食べてみて下さい」


 こんな感じなので間接キス事案は多発する。なので俺ももう気にならなくなった。厳密には気にならないふりを自然に出来るようになった、というのが正しかったりするけれど。


 デザートまでひととおり食べ終えてお腹いっぱいになったところで西島さんが口を開く。


「このコンビニ弁当バイキング、楽しいし美味しいです。

 ですけれど賞味期限的には明日朝、長めに見てもお昼までが限界だと思います。その先はどうしましょうか」


 確かにその通りだ。調理済みで特に保存延長処理なんてしていないものはまもなく食べられなくなる。

 勿論考えてはいる。けれど正直手軽さとか多彩さには欠けてしまうだろう。


「最終的には冷凍食品や長期保存出来るものに頼るしかないと思う。即席麺とか缶詰とか」


 生鮮食品は一週間持てば御の字だ。そして自分の手で採取なんてのはあまり自信がない。せいぜい畑にある野菜を頂いてくる程度までだろう。


 肉系は無理だ。確保出来ても解体する自信がない。でも魚なら……。そう思って思い出した。人間と魔物以外の動物はいないのだったと。


「あ、そう言えばそうですよね。考えてみるとそれも楽しそうです。缶詰って結構美味しそうなのがありますよね。あとフルーツ缶なんてのも改めて食べると美味しいですし。

 あとレトルトとかパックのデザートとかも。でもよく考えたらお菓子類って生菓子以外は結構持つんですよね。チョコとかも選び放題です」


 なるほど、確かにそう考えると結構よりどりみどりに感じる。


「あとすみません。食べたら眠くなってきました。我ながら単純だと思いますけれど。なので申し訳ありませんが、計画を立てるのは明日朝にして、片付けたら先に寝ていいですか?」


 もちろんだ。


「この後特に何をしなければならないなんて事はない。だから寝ても勿論問題は無い」


「ありがとうございます。それじゃ片付けましょう」


 割と綺麗に食べているのでほとんどは容器ごとコンビニ袋に入れるだけ。ウエットティッシュでテーブルの上を拭けば片付け完了だ。


「それじゃ寝ます。おやすみなさい」


「電気を消そうか?」


「つけたままでいいです。ただ田谷さんが暗い方がいいなら暗くしても大丈夫です。回りの環境はあまり気にならないので」


「わかった」


 それでも一応静かにして暗めにしておこう。

 眠くなるのはよく考えれば当たり前だ。何せ朝からスクーターに乗って走り回りつつ魔物を倒すなんて事をしていた。それまでは入院して安静にしていたというのに。


 疲れていて当然。だから今日はぐっすりと寝て貰おう。


 さて、俺はどうしようか。正しいのは空いているベッドへ行ってぐっすりと寝る事だ。しかし同じ空間、すぐ横のベッドに西島さんがいるというのが非常に気になってしまう。


 寝ておかないと明日に響きかねない。明日も魔物相手に戦わなければならないのだ。それに今日は日常とまるで違う一日だった。疲れている筈なのだ。


 そしてこれがあと三〇日ちょっと続く。いつ魔物が出てくるかわからない、そんな危険と隣り合わせの日々が。


 ふと気づいた。それでも元に戻りたい、元の世界の方がいいと、俺自身は感じないし思えない事に。

 理由はわかる。俺が今の状況を楽しいと感じているからだ。普段のつまらない日常の繰り返しより、ずっと。


 楽しくしている理由の一端は間違いなく西島さんの存在だ。


 俺自身は単独行動を好むタイプだ。自分ではそう思っていたし実際にもそうしていた。他人と話をあわせたりするのが面倒でつるむなんて事はしなかった。

 それでも西島さんの場合は結構平気だ。何故だろう。


 ひょっとして西島さんが俺の好みとかに色々あわせているのだろうか。しかしそれも違う気がする。あわせている部分があるのは確かだけれど、それだけではないと感じるし。


 西島さんに恋をしているとかそういうのではないだろう。少なくとも今のところは。確かに可愛いし話して疲れる事がないけれど、恋人にするには年下だし。


 なら西島さんに対して俺はどう思っているのだろう。わからない。わからないけれど今の状態が悪くないし楽しいのは確かだ。


 ただその西島さんがすぐそこで寝ているのは別の意味で気になる。これは西島さんが好き嫌いというのとは多分別。女子がすぐそこに無抵抗でいるという事に関するものだ。


 何かしようなんて事は勿論ない。恋人ではないし年齢も結構下。だけれども気にならないという事は勿論ない訳で……


 このまま寝ようとしても眠れないだろう。しょうもない妄想だの想像だので。

 なら仕方ない。眠くて仕方なくなるまで、明日の準備をしておこう。


 俺は片付けたテーブルの上で地図を開く。あとスマホを置いていつでも検索できるようにしておく。

 まずは明日走るルートを考えよう。人口がそこそこ多い場所、コンビニとスーパー、警察署の位置の確認。田舎は警察署もコンビニもなかなか無かったりする場所があるから。


 あと奥の細道の行程なんてのも軽く頭に入れておこうか……

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