第七八話 本格的な武器

 朝、車で出て10分もしない辺りで。


「ついでだから観光としてそこで一度停まろうか。日本三景の碑と五大堂がある」


「松尾芭蕉も寄ったようですね。奥の細道には記載はなくて、同行した弟子の曽良の日記に書かれているようですけれど」 


 そんな訳で車道に停止し観光に立ち寄る。


「この建物がまだ新しい頃に芭蕉は寄ったんですよね」


「残念だけれどその辺は詳しく知らないんだ。実はここへ来たのも始めてだしさ」


 なんて感じで橋を渡って神社と寺というかお堂を見学し、そして戻る。

 海には漁船が並んで停泊していて、更に向こう側の桟橋にはひときわ大きい観光船が停まっていた。


「あの観光船とか漁船、田谷君なら操縦出来ないか?」


「流石に方法すらわかりませんね、あの辺は」


「なら操縦方法がわかりやすそうなモーターボートなら大丈夫だな。確か潮竃にそういう場所が幾つかあった気がする」


 確かに小さめのモーターボートくらいなら出来そうな気がするし、面白そうだ。

 いざ島へ逃走という時の為に試してもいいかもしれない。


 車に乗って、そして松尾芭蕉が泊まった宿の跡に立っている碑なんてのも見ながら、船台方面へ。

 車内では上野台さんと西島さんが結構話している。


「あと市場、昨日の市場も悪くないんだが観光向けというとむしろもうすこし行ったら通る潮竃の市場だったりするんだよな。

 ただ鮮魚が無理だからなあ。冷凍物ならこういった港直結より昨日行った大きいところの方が良さそうな気がするんだよな」


「お刺身も美味しかったですけれど、昨日の昼のファミレスも美味しかったです」


 なんて話等を。


 俺はあまり会話に参加していない。

 何せ慣れない車を運転しているのだ。しかも道の思いがけないところで車が停まっていたりする。

 だからどうしても注意は先の路上と足で操作する二つのペダルに行ってしまう。


 そうやって集中して運転していると。


「警察署前って交差点なら、近くに警察署がありますよね」


「寄っていくか。拳銃の弾を補給した方がいいしさ」


 突如そう言われて思わず急ブレーキを踏みそうになったりする。

 元々交差点では速度を落としているし、何とか普通に止まって曲がれたけれど。


 なお警察署には無事寄って、弾とスペアの拳銃を確保。

 もう警察署は幾つも行ったから何処に何があるか、探し方は大体把握済みだ。


 そんなこんなでそこそこ時間を使った結果、7時過ぎに潮竃神社の駐車場に到着。

 一般車の駐車場の先、博物館のすぐ前まで車を乗り入れて停める。


「こじんまりとした感じの博物館ですね」


 西島さんが言うとおり、建物はそれほど大きくない。


「ああ。でもその方が捜し物をしやすい」


 とりあえず入口へ。予想通り閉まっている。

 ただしこのタイプの扉なら問題無い。何度も開けているから鍵の場所がだいたいわかる。

 今回も予想通りの場所に鍵があった。作動魔法であっさり解錠し、扉を開ける。


「その魔法便利だよな。その気になれば何処でも入り放題だろ」


「施錠が遠隔になっていると無理ですけれどね。動かせるのは二メートル以内のものだけですから」


 中には武具、絵画、工芸品、古文書、御神輿といったいかにもな物が並んでいる。


「刀も結構ありますね」


「ただ槍はないみたいだな」


 やはり此処は刀を見て確認するべきだろうか。そう思った時だ。


「展示してあるものが全てじゃないさ。というか展示してある物なんて収蔵品のほんの一部にしか過ぎないんだ、普通の博物館はさ。

 だから収納している現物を確認に行くぞ」


 えっ?


「そうなんですか」


「大抵の博物館はそうだな。見せるのも勿論仕事だけれど、収納品を集めて整理して保存する事そのものが意義なんてのも事実でさ。

 ここの博物館は初めてだが、一応授業で博物館実習を取ったからさ。多分何となくだけれどわかると思う。田谷君がいれば鍵を開けるのも簡単だから問題無いだろう」


 上野台さんはそんな事を言いながらどう見ても展示エリア外の扉を開けて中へ。

 後をついていって、まずは事務室っぽい場所を確認する。


「まずは目録のファイルなり電子データなりを捜索しガサって……おうおう、今時紙で印字してファイリングしているなんてありがたいね。まあ一気に訂正する場合これが楽なんだろうけれどさ……

 ふむふむ。よし把握」


 上野台さんはファイルのページの幾つかをスマホで撮影。

 そして俺達の方を見る。


「やっぱり表に出ているのは有名どころの、それもごく一部だけだ。他にも日本刀だけで50振り以上あるし、槍も各種揃っている」


 えっ。日本刀50振以上に、槍各種?

 昨日調べたけれど、Webにもそんな事はかいていなかった筈だ。


「そんなにあるんですか?」


「ああ。槍に関しては数年前にそこそこ大規模な故人コレクションの寄贈を受けたみたいでさ。

 あと日本刀も藩主が代々寄贈したりとか、この地方の刀鍛冶のものとか、予想以上に集めている感じだ。

 とにかく保管場所は確認したし鍵も確保した。行こうか」


 わかっているのは上野台さんだけだ。俺と西島さんはもうお任せ状態でついていく。

 廊下を通って部屋に入り、その部屋についた頑丈そうな鍵を開けて、そして中へ。


 棚がずらりと並んでいる。棚は木製で幅が広く奥行きはそれほどないタイプがほとんど。

 そしてその棚に並んでいるのはほとんどが剥き身の刀身だ。あとは棚に番号や説明がついたシールが貼ってある状態。


「この辺から奥は槍が多いようだ。刀も含め、存分に確認どうぞ。ただ必要ないと判断した物はもとの場所にもどしてやってくれ」


「わかりました」


「あと滑り止め付き軍手。一応扱うときは素手じゃ申し訳無い気がするからさ」


 軍手をはめ、とりあえずは最初の目的である槍の方へ。

 棚の一段一段の高さが低いので、膝を曲げたり屈んだりしながら一段一段見ていく。

 まずはいかにもという素槍を発見。今まで使っていたものと違い、真っ直ぐで両方に刃がついているタイプだ。


 俺の場合は振り回す、突くが基本。だから刀身? は真っ直ぐな方が安心出来る。折れにくそうな感じがするから。


 しかし振り回して切る事を考えるとある程度曲がっていた方がいいように感じる。その場合、折れにくそうな太めのものが見た目に安心だ。そして刃部分は長い方が扱いやすい。


 柄や鞘等があれば確保しておこう。包丁で槍を作った時、柄の部分を作るのが結構面倒だったから。

 いざとなったら幅広の角材二本で挟んで針金やホットボンドで固定すれば出来ない事はないだろうけれど。


 そんな事をしたら美術品に何という扱いをするんだと言われそうだ。しかし俺は実用として使うのだからそれでいい。


 刀身を実際に手にとってみる。ずしりと重い。包丁や鉈と比べても。

 考えてみるとずっと鉄の量が多い。だから重くて当たり前。

 そして今の俺は結構腕力がある。ある程度重い方がいい。


「とりあえず私達はこの中の他の展示を見ているからさ、終わったら声をかけてくれ」


「わかりました」


 それでは選別に集中しよう。

 この槍はいかにもという感じでいい。俺の戦い方にあってそうだ。

 あとやっぱり日本刀、それも大太刀も……

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