第一三四話 ごく普通の夜?
邪念はともかく、温泉そのものは確かに良かった。
混浴の大露天風呂も、本来は女性専用といっていた方も。
混浴の方は、回りが石張りで、形は池っぽい。
女性用の方は周囲が板張りで、ほぼ正方形。
どちらも底は玉砂利で、その玉砂利から湯が湧いている。
よく見ると小さい気泡が時々出てくるので、そこからお湯が出てきているとわかるのだ。
俺は最初は混浴の大露天風呂で、その後西島さん達にドナドナされて、女性用混浴露天風呂へと移動。
他にも小さい浴槽が幾つかあったけれど、俺はパス。
西島さんと上野台さんは、男性側の浴槽も含め、全部の浴槽を回ったそうだ。
「あとは新本陣の手前に貸切風呂と、1号館から行ったところに男女別の風呂、東本陣の手前に隠し露天がありますけれど、お湯は今入ったのと同じだから入らなくてもいいでしょう」
「だよな。流石にそろそろ上がろうか。のぼせてきた」
「そうですね」
目をそらすのも慣れてきた。
ささっとトランクスをズボンをはいてTシャツを着て。
二人ともノーブラで胸の辺りが気になるけれど、意識しない振りをして西島さんの後ろを部屋へ。
「廊下じゃなくて、外歩きなんだな」
「他の部屋というか建物は、廊下で部屋が繋がっているんです。でも本陣や離れ本陣は外ですね。だから冬には部屋に長靴がおいてあったりするらしいです」
西島さんは受付がある建物の、一番駐車場側の部屋まで行って、そして戸を横に引く。
「一番いい部屋、大丈夫みたいです。今日はここに泊まります」
どれどれ、中へ入って確認。
白い壁に、民芸品みたいな濃い茶色の柱、梁、そして天井。
しかし畳は新しい感じだ。
そして囲炉裏がある。
ランプがつり下がっているけれど、一応電灯もあるようだ。
テレビやエアコンは無い模様。
お湯を入れるポットも電気タイプでは無く、単なる魔法瓶。
でも洗面台とトイレは、ついている。木製の古い扉で隠れているけれど。
特にトイレはそこそこ新しめで、ウォシュレット付き。
風呂はないので、露天風呂なり他の風呂なりへ行くのだろうけれど。
「なんというか、これは本当に古い建物なんだけれどさ。慣れていないからか、逆に作り物、テーマパークみたいに感じるよな」
「確かにそうですね。でもこれはこれで楽しいです。それじゃ夕食にしましょうか。本当はこの囲炉裏で鍋を食べるのですけれど、今回はお昼に寄った道の駅から持ってきたもの中心で」
地鶏と舞茸の出汁釜飯、豚肉の串焼き、いぶりがっこという沢庵の燻製にチーズを挟んだもの。ソーセージ3種類。
あとはその前の道の駅から持ってきた鯖の菜種オイル漬け。
そしていつもの冷凍野菜、やや高めのカップ味噌汁という夕食だ。
なお、コーヒーもいつものコーヒーメーカーで、豆挽き立て淹れ立て状態だ。
「宿独自の食事が食べられないのは残念ですけれど、これはこれで楽しいですよね」
確かに俺も楽しいと思うので頷く。
「だよな。本当は囲炉裏を使いたいところだけれどさ。今ある在庫で鍋で温めて食べるものだと、カレーくらいだよな。ちょっと囲炉裏でカレーを温めるのは、絵として怪しいよな」
「確かに似合わないですね。美味しそうですけれど」
うんうん、西島さんの意見に同意だ。
そして上野台さんは、白っぽいワインのような瓶を取り出した。
「こういう宿だとやっぱり日本酒があうよな。という事で秋田の銘酒をちょっとばかり失礼」
日本酒なのか、それは。
「瓶はワインっぽいですね」
「味もワインに近い感じらしい。しっかり甘くて、軽く炭酸まで効いているって説明が書いてあった。道の駅にあって美味しそうだったからさ、ついキープしたんだ。という事で、まずは試飲」
上野台さんは、ガラス製の小さなグラス、いや、お猪口を出して、少しだけ酒を注いでくいっと煽った。
「うん、確かにワインっぽい気がする。美味い」
「一口飲んでみていいですか」
「一口なら大丈夫だろ」
西島さんは上野台さんがつぎ直したお酒をちょっとだけ口に入れる。
すぐに苦い顔をした後、コーヒーに口をつけた。
「お酒の味がしました。やっぱり苦手みたいです」
「酒だから仕方ないさ」
一息ついたら、いつもなら明日の作戦会議の時間。
しかし明日の予定は明確だし簡単だ。
「明日は飽田に行って、ぐるっと回って魔物を倒す。日の入りに間に合うよう余裕を持って宿に向かう。それでいいか」
「ええ。あと業務用スーパーがあれば寄りたいです。サラダ用の冷凍野菜や袋入りポテトサラダがそろそろ無くなるので。無ければ大きめのスーパーでもいいですけれど」
「なら明日は飽田市街地をくまなく回って、魔物を倒しつつ買い出しをする。日の入りは午後6時40分頃だけれど、余裕を見て午後3時半までには宿へ向かうことにしよう。それでいいかい?」
「わかりました」
あとで検索して良さそうなスーパーの目星をつけておこう。
業務用スーパーは……とりあえずいつもとおなじチェーンの店が二軒あるようだ。
あとは評判がいい普通のスーパーは……市街地じゃなくて、宿へ向かう途中でもいいか……
「それじゃそろそろ夕食は片付けようか。この座卓を囲炉裏の方に移動して、布団を敷こう」
夕食はほぼきれいに空になっている。
出しているときは多過ぎるように見えるが、案外食べる量を適切に把握して出している感じだ。
まあ残らないよう食べまくる、というのもあるのだけれど。
皿などは西島さんの魔法で綺麗にして、俺が収納。
そして座卓を囲炉裏より入口側へ動かし、押し入れをあけて布団を出す。
布団が三組、同一平面上に並ぶのを見て、何だかなとは感じる。
ただこういう生活もいい加減慣れた。
取り敢えず入口側の端をキープしておけば、多分問題は無い。
延長コンセントをそれぞれの頭のところまで引いて、スマホを充電できるようにする。
西島さんはスマホとタブレット、上野台さんはスマホとパソコンの二台態勢だ。
「それじゃあとは各自という事で、電気は消すぞ」
「わかりました」
部屋の照明が消えた。それでもスマホを見る分には支障はない。
それに周囲だって、いつの間にか身についた暗視能力で問題無く見る事が出来る。
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