第二八章 上野台さんの提案

第一二四話 カロリーボンバーな昼食

 俺の意見が珍しく通って、まずは高速で宙尊寺を目指すこととなった。


「パーキングエリアは幾つかあるけれど、売店なしかコンビニだな」


「なら通過ですね」


 魔物も出ないので、高速を降りるまでスムーズだ。

 そして目的地の宙尊寺までも、カーナビが案内してくれる上、やっぱり魔物が出ない。


「魔物が出ないと順調に進みますね」

 

「こんな感じでドライブと観光、名物あさりが安全に出来るのなら、きっと楽しいんだろうけれどな」

 

 そんな西島さんと上野台さんの会話を聞きながら、庭が広く家も大きく3階以上のビルが見えないという景色の中、車を走らせる。


 やがて出てきた看板を確認して左折。いかにもという感じの土産屋と、宙尊寺の入口という感じの門の間に出た。


「この辺に車を停めますか?」


「それが本来の観光ルートだけれどさ。この暑さの中で上まで上るのは大変だから、上の駐車場に停めて本堂と宝物殿、金色堂を回ろう。それでも階段はあるけれどさ、下からよりはましだ」


 という事で道を直進。


「もう少し先の分岐を右、そうしたらすぐ駐車場だ」


 上野台さんの指示通りに走れば、あっさりと駐車場に到着だ。


 ◇◇◇


「何というか、思った以上に普通の地味なお寺だったです。確かに広くて建物が多いですけれど」


「よくある大寺院みたいに赤色に塗りたくったりしていないからな。金色堂も建物の中にあるし、外側でカバーしている建物は鉄筋コンクリートだしさ」


「ただ木造の風化した感じは嫌いじゃないです。真っ赤に塗りたくったり金を貼ったりするよりは好感を覚えます」


「まあそうだね。そこは同感だ」


 以上、本堂と金色堂、及びその周辺を回ってきた後の、西島さんの感想だ

 俺も朱塗りより木造そのままな感じの方が、落ち着くし好きだったりする。


 あと規模的には間違いなく此処、広くて大きい。

 その広さや大きさの意味を含めた意味こそが、歴史的価値であり観光名所である意味なのだろう。


 世界遺産なんてのは、ある意味どうでもいい。

 ああいう世界的な組織は、えてして現地理解が怪しい上、思想的に怪しい連中の情報に操られたりするものだから。

 もちろんこれは、国際機関というものに対する俺の偏見だけれど。


「平泉観光なら卦越寺もセットでつくんだが、まあいいか、行かなくても。今みたいな寺が半分、あとは池と、『ここにありました』という痕跡だけだから。

 道の駅もあるけれど少し戻る形だから、ここは先に進んで高速に乗って、サービスエリアで昼食がいいかな」


 確かにその方がいい。昼食の時間だし、サービスエリアの建物内ならエアコンが効いているだろう。


「サービスエリアは久しぶりです」


 宙尊寺の入口付近まで戻って、今度は道を来たのとは逆、北へ向けて走ると、割とあっさりと高速に入れる。

 入ってしまえばすぐに目的のサービスエリアだ。


 ただし誤算がない訳ではない。


「駐車場と建物の間に階段ってのは、バリアフリーに反するよな」


 上野台さんが何を言いたいのかはわかる。


「何ならエレベーターが向こうにあるみたいですけれど」


「いや、それなら歩いた方が早そうだ。この暑い中、なんで……」


 二十段ちょっとの階段を上って、そしてサービスエリアの建物内へ。

 中は冷房が効いていて一安心。


「今日の昼食はピザでいこう。でも少しだけ待ってくれ。必要なものがある」


 何だろう。売店エリアへ向かう上野台さんの後をついていく。


「ここもお菓子類が多いですね」


「その辺はあとでじっくり選ぼう。取り敢えず昼食用にキープしたいものがあるんだ」


 歩いて行って、そして。


「よし、ターゲット捕捉」


 なるほど、銘柄牛のサラミソーセージか。

 確かにピザに載せたら美味しそうだ。


「あと予定に無かったけれど、これとこれも」


 ロースト牛タンと笹かまぼこをとって、そしてレストラン部分へ。


「それじゃ田谷君はまな板と包丁。このトッピングを適当に刻んでくれ。咲良ちゃんは皿とピザを頼む。このトッピングにあいそうな奴を3枚」


 思ったよりソフトなサラミソーセージを斜めに長く、そこそこ薄めにカットする。

 あらびきなので、あまり薄くはカットできない。

 それにやや厚めの方が味を楽しめるだろう。


「そう言えばこんなのも残っていました」


 西島さんがブラックペッパー風味とガーリック風味のクリームチーズを出してきた。


「いいなそれ。何処にあったんだ」


「船台に着く前に寄ったパーキングエリアだったと思います。もっと持ってくればよかったです」


「よし、それじゃまずは、『フレッシュチーズとクリームチーズとバジルのピザ、サラミと牛タン追加のダブルチーズ』」


 解凍した後、表面に更に熱を加えているようだ。

 サラミから脂が出て、チーズが溶けて広がる。


「次、『クラシカルミックスピザ、サラミと牛タンと笹かまプラス、ブラックペッパー風味クリームチーズ追加」


「そしてこっちはハムとカマンベールのピザか。残り全部追加」


 凶悪なトッピングのピザが三種類、出来あがった。

 確かに美味しそうだが、カロリーボンバーという気がする。

 この世界は残り1ヶ月ないから、気にする必要はないのだろうけれど。


「ピザにはやっぱりコーラだよな」


「私はアイスコーヒーにしておきます」


 俺はウーロン茶にしておく。

 凶暴なカロリーの前に怖じ気づいているからではない。これくらいにしないと口の中がギタギタになりそうだからだ。


「それじゃ、いただきます」 


「いただきます」

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