第一二三話 念のための確認

「敵に支配種がいたかな、これは。申し訳ない、私の予想が楽観的すぎたようだ」


 そういう事だろう。そう俺も思った時だった。


「いえ、相手は人間です。あの魔物を支配しているのは、人間でした」


「見えたのか?」


 上野台さんがそう尋ねる。

 いや、見えなかった筈だ。敵が視界に入るより早く西島さんは気づいたのだから。

 危険察知を持っている俺と同じ位のタイミングで。


「いえ、違います。異族支配魔法を持っている場合、人間も支配対象種族ですから、五〇〇メートル位の距離で把握出来ます。今回はそのせいで、気づかれたようです」


 西島さん、それを言ってもいいのだろうか。

 そう思ったのだけれど、当然そんな事を俺が言う訳にはいかない。

 

「わかった。そして敵の方が早く気付いたという事は、おそらくはレベルが咲良ちゃんより上なんだろう」


 確かに上野台さんの言う通りだろう。

 そして上野台さん、西島さんが異族支配魔法を持っているだろうという事はスルーした。

 でも確かにそれも正解だろうと思う。

 だから俺は何もつっこまない。


「戻る形になるけれどさ。先程魔物が戦っていたあたりを見てみてみたい。魔物同士の戦いでどんな手段を使ったのか、見てみればわかるかもしれないからさ。勿論わからないかもしれないけれど」


「わかりました。場所はわかりますか?」


「ああ、大丈夫だ。カーナビだとこの辺だな。国道氏の交差点」


 わかりやすそうな場所だ。ここからも行きやすい。


「わかりました。この先を左でいいですね」


 車を発進させ、次の交差点を左に曲がって、先程魔物がいたらしい街の中心部へ。

 少し走ると周囲から畑が消え、家や倉庫、店舗中心となった。

 高い建物がほとんどなく平坦な感じだ。


 そして。


「その交差点の手前で停めましょうか」


「ああ。此処だな」


 ガソリンスタンドとラーメン屋がある交差点だ。

 ガソリンスタンドの方は焼け焦げた車の残骸や、元は何だったのか、わからない燃えかすが散らばっている。


「多分ここを狙って火球魔法を放ったんだろうな。爆発して敵が巻き込まれることを期待して」


「でもガソリンが爆発した様な跡は無いですね。止まっていた車は燃えたようですけれど」


 車や他の備品が燃えた残骸が残っているし、窓ガラスも割れている。

 それでも大爆発が起きたという感じはないし、火事になっている様子も無い。


「ガソリンなんかのタンクは地下に埋まっているし、頑丈だから壊すのは難しい。それに他が燃えても燃え広がらないよう、それなりの安全構造になっているんだろう。だから爆発を狙って火球魔法を放っても、上にあったものが燃えたり壊れたりした程度で済んだ訳だ」


「狙ってやったんでしょうかね」


「狙ったと思う方が普通だと思うな。それじゃ車で移動、この交差点を左折して、300m位走ってくれないか」


 車に戻って、そして言われた通り走る。


「もうちょい、その弁当屋の前で止まってくれ。多分そこで待ち構えていたと思うんだ」


「わかりました。それにしてもよくそんな厳密な場所がわかりますね」


 家々があるから細かい場所まで見える筈はないのだ。


「歪みがあると見えた角度を覚えておいたんだ。それとこの道とをあわせれば、大体の場所はわかる。あとはあのガソリンスタンドへ火球魔法を打ち込める位置というのもあるしさ。

 さて、暑いけれど何かないか、見てみるか」


 車から降りて周囲を確認。


「確かにここからなら、ぎりぎりガソリンスタンドが見えますね」


「ああ。ここで待機しておいて、敵がやってきたら火球魔法を打ち込んだんだろう。勿論魔物を操っている奴はもっと安全な場所にいたんだろうとは思うけれどさ」


「確かに、ここで火球魔法の打ち合いになるといやですね。左右に逃げられはしますけれど」


 何せかなり先まで道がまっすぐだ。 そして道は二車線でそこまで広くはない。

 ここは両側に駐車場等があるから、逃げる事は可能だ。

 しかし前から火球魔法が飛んで来たらやっぱり嫌だろう。

 

「いえ、少なくとも人間がここから攻撃したみたいです。弾が残っています」


 西島さんがそういって真鍮色の薬莢を拾い上げた。大きさ的に警察拳銃では無く、ライフルのものだ。

 俺のライフル弾を収納から出して比べてみる。口径は同じ位で少し長い。


「三〇〇WinMag弾だ。西島さんの持っているうち、いつもは使わない強力な方。腕があれば六〇〇メートル位は狙える」


「これで狙撃して、敵が近づいてくれば火球で、という狙いだったのでしょうか」


「わからない。敵が火球魔法をガンガン撃ってくれば不利な気がする。でも火球魔法はレベルが高くないと一発しか撃てないって説明があったしさ。その辺の駆け引きがあるのかもしれない。

 取り敢えず車に戻ろう。暑い」


 確かに暑い。

 なのでエアコンが効いている車へと戻る。


「とりあえずシンヤに連絡しておいてやろう。人間がいて、ライフルを使って、部下も結構多い魔物の集団が粟原市の月館で出たって。ライフル弾でわかったと書けば、向こうも詮索してこないだろう」


 その上野台さんの言葉で確認する。

 西島さんが異種支配の魔法を持っているという事は、やはり他には言わないし、口には出さないようだと。


 さて、それはそれとして、次の問題だ。


「もしあの集団のどちらかでも壱関方向から来たのなら、この先は当分魔物は出ないですよね。どうしますか?」


 そう。この先ずと魔物に出逢えず経験値を稼げない可能性があるのだ。


「そうだな。ならちょっと戻って高速に乗って、平泉まで一気に移動しようか」


「でも下手したらその先、森岡まで魔物が出ない可能性があるんですよね。ならむしろ多崎に戻って、成子温泉経由で新城や坂田を目指してもいい気がします」


 確かに奥の細道的には正しいルートだ。

 平泉に行かないのはともかくとして、奥の細道での山越えはそのルートだった筈だから。


 ただ俺としては山越えルートは高速道路経由の方がいい。

 一般道で曲がりくねった道というのは、今の俺の腕ではあまり運転したくない。

 ならばだ。


「それなら宙尊寺だけ見て、あとは高速で一気に夜古手か飽田まで移動する方が俺は助かります。高速道路の方が運転しやすいし、ずっと高速を走ればサービスエリアもあるだろうと思いますから」

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