第八〇話 突然の連絡
船台に近づくにつれ、魔物の出現頻度は多くなった。
まだ船台に入ったばかりだというのに、車を走らせて三分程度で魔物が出てくる状態だ。
出てくるのはレベル五~六のホブゴブリンやレベル六~七のバガブが主。
レベル四以下はほとんどいない。
「このペースで倒すと今日のノルマは何とかなりますね」
「ああ。この辺もあまり狩られていなかったんだろう」
今日の予定は船台の北東から入り、北側をぐるっと回るつもりだ。
シンヤさんから南側と中心部を回ると聞いたので、それ以外という事で。
昨日回った部分と半分くらい重なるけれど、出来るだけ違う道を通るように考えて回っている。
それでも……
◇◇◇
本日一八体目の魔物はバガブだった。
自衛隊基地近くで倒して車に乗った後、そう言えばこの道は昨日も通ったなと思い出す。
船台の中心部に近い東側は南北に突き抜ける太い道が少ない。
だからどうしても同じ道を通りやすいのだ。
「昨日回った場所と同じ道でも、魔物の出方や数は変わらない感じですね。レベルは少し上がっていますけれど」
「半日で数を補充出来る位には魔物が湧いているんだろう、きっと。もし魔物がいる場所にもう一匹湧いた場合は戦いになって、どちらかが生き残る。結果、数はそう変わらない。そんな感じじゃないか?」
なるほど。確かに充分に魔物が発生するなら上野台さんの言う通りだ。
「そうですね。同レベルの魔物一匹倒した位ではレベルが上がる事は無いですから。
ただ統率種がいると話が変わるかもしれないです」
西島さんの言う通り、統率種と同じ種類の魔物が発生した場合は倒すのでは無く部下にするという可能性がある。
そうすると魔物は減らない。増えたままになってしまう。
「そうだな。でもまだ船台は統率種はそういないだろうと思うんだ……今度はそこまで歪みは大きくないな。私はパスで」
上野台さんが話している間にスマホから警報が鳴ったのだ。
そう歪みが大きくないという事は、相手はゴブリンかバガブ。
「じゃあ今度は俺がやるよ」
そう言いつつブレーキを踏んで車を停める。
◇◇◇
そんな感じで船台の北側を走行中。
キンコーン。スマホの通知音が車内に響いた。
運転中なので画面を見ることが出来ない。なので後ろの二人に尋ねる。
「何かあったんですか」
「シンヤからだ。一〇体以上のゴブリンの集団に襲われて逃げたそうだ。場所は中心部、告分町付近」
えっ、何だって!
「シンヤ自身に怪我は無い。ただバイクは置いてきたそうだ。現在地は走って川を渡った川家町。今のところ追っ手は橋を渡ってくる様子はないと書いている」
船台の地図を思い出す。川家町というと此処からずっと南だ。
「迎えに行きましょうか」
とっさにそう言いつつ俺は思う。まずい事態だと。
俺達よりもシンヤさんの方が多分強い。
それすら逃走するしかない敵が出てしまったのだ。
「シンヤが拒否しなければ行った方がいい気がする。それに出来るならその敵、倒しておかないとまずいだろう。レベルが上がらないうちにさ。
とりあえず私がシンヤと連絡を取るから、車をそっちに向けてくれ。まずは次の交差点を右だ」
「右ですか?」
右だと北方向。シンヤさんのいる方向と反対になる気がする。
「シンヤが出会った魔物がどれくらいの範囲を縄張りにしているかがわからない。だから最低一キロは離れたルートを取ろうと思う。
ただそうすると距離が一〇キロ位になる。出てくる魔物に対処していれば一時間はかかるだろう。
という事でルート案内しながらシンヤと連絡を取るから。あと次の大きい交差点を左」
「わかりました」
なんて話しているとスマホから警報音。
「これは頼む」
上野台さんがそう言うという事は、そこまで強くない敵という事か。
「なら私が倒します」
急ブレーキにならないよう停める。
停まった車から西島さんが降りて、ライフルを構えた。
ライフルを選んだのは敵の位置が遠いからだろう。俺の魔法で感知した魔物の位置は前方やや右、八〇メートル位。
三秒くらい後、ドン、と重い発射音。反応が消える。出てきた瞬間を狙い撃ちしたようだ。
西島さんは弾倉を外しながら車に乗車。
「レベル七のバガブでした」
「そんなに急いで倒さなくても大丈夫だ。シンヤの方は怪我はないし追っ手もきていない様だからさ。
急いで倒しても普通に倒してもかかる時間はそう変わらない。一分稼げるかどうかだ。
だから特に急ぐ事はない。着実に倒しつつ行こう」
上野台さんはスマホを操作しながら更に続ける。
「シンヤ曰く『初めての敗北、逃走でバイクまで置いてきた事に落ち込んでいる』そうだ。
こっちが向かっている事については了解した。シンヤもあの敵は倒しておかないとまずいと考えているようだ。
合流は11時頃になるだろうとも伝えてある。
という事でもう少し行くと大きい交差点があるから、そこを左」
とりあえず俺は運転に集中する。大分慣れたけれどそれでも気を抜くとスムーズとは言い切れない運転をしてしまうからだ。
特にブレーキとアクセル、ペダル関係が難しい。ちょっと気を抜くと急発進、急ブレーキになってしまうから。
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