第六八話 高レベルの魔物と
大体七〇〇メートルくらいに一度、魔物が出てくる。ほとんどがホブゴブリンの、レベル四か五。一回だけバガブのレベル六。
全員が二回ずつ魔物と戦った後、車は橋を渡る。すぐにスマホから警報音。車を停めて周囲を確認。
魔物の反応は橋の先側。今回は俺の番なので車から出て走って接近。
右側から出てきたのは黒い毛むくじゃら、バガブ。やはり動きは速い。走る速さだけではなく、俺を認識して走り出すまでの動きも。
急速に距離が縮まる。一〇メートル位まで接近。
バガブの視線が俺と俺の左側を見ているような気がした。以前俺の攻撃を避けようとしたホブゴブリンの動きを思い出す。
ならばだ。最近使っている長い方の槍を出す。右脇に引いた感じで持ち、ある程度の範囲を振り回したり突いたり出来る様に。
案の上五メートル位先でバガブが左へ跳んだ。予想していたので槍を左へと突き出し前へ薙ぐ。
確かな手応え。バガブの左脇腹付近を切り裂いた。バガブはそれでも二歩程度動いて、そして倒れる。
察知魔法の反応が消えた。倒したようだ。
車に戻ろうとしたところでエンジン音が止まった。そして二人とも車を降りて扉を閉め、こっちへやってくる。
「ここからは歩いて行こうと思うんだ。駅まで二キロないし、魔物も増えるだろうから。少々暑いけれどさ、経験値稼ぎにはなると思うよ」
なるほど。ただ不安がない訳でもない。
「魔物の強さは大丈夫でしょうか」
「今朝のレポートでは魔物の最高レベルが一八だった。でもこれはおそらく首都圏とか京阪神とかの大都市中央付近の話じゃないかな。
船台市の人口は一〇八万だ。東北では一番の大都市だけれど、それでも地方の中核市五個分程度。だからまあ、レベル一〇位が出たら凄い位で考えていいと思うよ。
ただ念の為少しずつ近づいていこう。高レベル、レベル一〇前後の魔物が出たら街の外方向へ逃げるという方針で」
なるほど、それはありだなと思う。
「それにレベルが高くてもタンパク質とかそういった材質で出来ている限り、私の魔法は効く筈だからさ。レベル二〇未満の魔物なら問題無い筈だ」
でも魔法をキャンセルするような魔物はいないのだろうか。そう思ってスマホを確認。
『魔法無効・軽減能力を持つ魔物はレベル二〇以上です』
なるほど、レベル二〇とはそういう意味なのか。
道は片側だけで四車線から六車線と広い。更にそこそこ広めの歩道もある。
周囲は背の高いマンションが十数棟立っていて、あとは学校とかもっと低いビル。ただ並木のおかげか道路が広いおかげか都会という窮屈さは感じない。
「今日はあと何体くらい魔物を倒すつもりなんだい?」
「レベル一九くらいまでは上げたいです。なので経験値にして一人二〇〇位は倒せたらと思います」
「なら一人頭、一三体くらいという感じか。今出ている魔物のレベルは五くらいが平均だから」
「ええ」
「私は倒す手段が魔法しかないから、あと四体が限度かな。身体能力に自信がないし、銃も持っていないしさ」
「何なら貸しましょうか」
「やめておくよ。機械類に嫌われる体質なんだ。銃なんて持ち歩いたら間違いなくとんでもない事故を起こす」
なるほど。
「ならいざという時の為に身体を鍛えて、かつ近接兵器を持つしかないですね」
「本当はそうなんだけれど身体動かすのにもコンプレックスがあってさ。運動音痴で失敗体験ばかり積んでいるからだけれど。
高校時代の体育祭前日とか、気分は雨乞いだったからなあ。実際高一から高三まで三回のうち二回は天候不良で流れたけれどさ。雨天延期が三回重なって」
雨天延期が三回重なるか。晴れと雨の確率が同じでも八分の一、つまり一二・五パーセント。それが二回あったというのは結構な確率なのではないだろうか。
「ほとんど呪いの領域ですよね」
「そんな大した事じゃないさ。単なる雨乞い。それに私以外にも雨乞いしている奴はいただろうから」
そんな事を話しながら歩いているとまたスマホから警戒音。
「今度は私ですね」
西島さんが立ち止まって銃を構える。オートのライフルだ。
敵は一〇〇メートルギリギリくらいの右斜め前方。ゆっくりと左に動いている。
出てきた。灰色っぽい今までに見た事がない大型の魔物だ。
次の瞬間、西島さんの銃から轟音。魔物が後ろ向きに倒れる。察知魔法の反応が消えた。倒したようだ。
「今の魔物ははじめて見たな」
「レベル一〇のオークだそうです」
西島さんを銃の弾倉を取り出しながらスマホを横目で見て答える。
オークか。ファンタジー系でよく聞く魔物だよな。そう思いつつスマホを確認。
『オーク:歪みが大きめの場所に出る大型の魔物。体高二二〇センチメートル程度、重量一六〇キログラム程度。レベルは九から一二。動きは遅いが頑丈で腕力も強力。ハイオーク、オーガへと種族進化する』
「此処でレベル一〇か。船台駅まで地下鉄であと一駅なんだけれどなあ。撤退した方が無難かな」
「そうですね」
西島さん、そして俺は頷く。
レベルが高い魔物を放っておくと更に強くなる可能性がある。しかしだからと言って無理してやられたら元も子もない。
それに俺達が今、倒す必要はない。あと二〇日もしたら新規でレベル二六の魔物が出るのだ。
そうなると現在の最高レベルであるレベル一八の魔物でも、八レベルアップしない限り珍しくない程度の魔物となってしまう。
「私達が戦うにしても、もう少しレベルアップしてからですね」
「そういう事だね。じゃあ車の所まで戻ろうか」
「そうですね」
そう、俺が返答した時だった。西島さんがさっと道の先の方を見る。
「誰か戦っています。かなり遠いですけれど」
そう西島さんが言ったところで。
バン、バン、バン。バン、バン。バン、バン。
そんな音が合計七発聞こえた。
「……銃声だね、今のは」
「ええ。警察にある拳銃と同じ音です」
そこで言葉を止めて西島さんは目を瞑る
「……あと魔物は倒したようです。足音は人間、運動靴を履いている音ですから」
「わかるのかい」
「ええ。かなり遠くの音まで聞こえるんです」
「なるほど、そういう能力か」
上野台さんはスマホを見て頷く。説明を読んだ模様だ。
「それでどうする? 今の誰かに会いに行くかい?」
いや、これ以上強い魔物が出るとまずいだろう。
「やめときましょう。この先に進むのは危険な気がします」
「私もそう思います」
うんうんと上野台さんは頷いた。どうやら同意見らしい。
「なら素直に車に戻って別の場所に移動しようか」
「そうですね」
上野台さんの言葉に西島さんが頷く。勿論俺も同意見だ。
全員で車に向かって歩き始めたところで。後方からかすかに何か聞こえたような気がした。
「……バイクの音ですね。以前高速道路を通過していったあのバイクの音に似ている気がします」
「それって何だい?」
「昨日の午後、福縞を走っている時に聞こえたんです。高速道路を北に向かっていくバイクの音を」
確かにあのまま高速を走れば船台だ。この先で魔物相手に戦っていても不思議では無い。
「見た訳じゃないのか」
「ええ」
どういう人間なのだろう。そう思いつつ俺達は車の方へ歩いて行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます