十五 妊娠・養育保障

 二〇二五年、十二月十七日、水曜、十時。

「関係者の方は外でお待ちください」

 N市N市立病院産婦人科の女看護師が、N県検警特捜局N検警特捜部警護班の警護員に、待合室の椅子を示した。二人の男の警護員は、診察室のドアの横に立った。

「私は専属の医師だ」

 女の警護員は、省吾とともに診察室内に入った。


「超音波映像で確認しながら羊水採取して検査します。

 服装はそのままで横になってください。痛みはありません。一分ほどで終ります。

 ご主人は見ていていいですよ」

 女医が説明するあいだに、看護師は検査装置に理恵を寝かせ、身体を固定し、部分的に腹部が見えるようにした。

 装置からチューブ状のセンサーが伸びて先端が腹部に接し、内部映像が映った。センサーから極細の羊水採取針が腹部に侵入し、羊水を採取して分析している。

 看護師が装置から理恵を解放した。


 女医は、端末のディスプレイに現れた羊水検査のデータと、事前に検査した妊娠検査と尿検査、血液検査の数値を見ながらディスプレイのカルテのファイルに検査結果を保管し、身支度を調えた理恵にほほえんでいる。

「すべて正常です・・・。子供は二人です。

 妊娠証明が発行されます。受付けで受けとってください。今後行う事が書いてあります。よく読んで対応してください。大切な子孫です。国から養育保障されますよ・・・。

 最近、妊娠する人が少ないんです。子孫が増えないと社会が成り立たなくなるのに、誰も気づかないふりしてる・・・。これは余談でしたね・・・。

 次は一ヶ月後に検診を受けてくださいね。超音波検査と問診だけですよ」

「わかりました」

 椅子に座る理恵が省吾の手を握りしめている。


 ディスプレイを見ながら女医がいう。

「アレルギーはありませんでしたね」

「ありませんが、肉を食べれません」

「子供の要望で、食べ物の好みは変ります。

 事前に答えてもらった問診項目から、理想的食生活をしていると判断できます。

 塩分と脂肪を摂りすぎないよう、今後も今の食生活をつづけてください」

 女医はまた理恵にほほえんでいる。

「わかりました」と理惠。


「理想的な骨格をしてます。子供たちが骨盤にすっぽり収まってます。

 ご主人は、出産まで母子を守ってあげてください」

「わかりました。毎日、愛しあってもいいですか?」

 省吾の質問に、理恵が顔を伏せて苦笑している。

 女医は顔を赤らめた。

「まあ、いいでしょう。腹部を圧迫しないように、可愛い奥さんを大切にしてください」

「わかりました」

 省吾がそういうと理恵は礼を述べて診察室をでた。



 理恵と省吾が受付けへ歩いた。

 二人の後ろを歩いて、始終沈黙していた女警護員が口を開いた。

「今後、全員女の医療特別警護班が警護に加わる。専門は産婦人科だ。

 私は神尾法務大臣カミーオから、洋田評議委員長の指示を受けている。

 あなたたち二人は、未来を左右する重要人物だ。洋田評議委員長ヨーナからの警護指示だ。私は三島幸子ミーシャだ」

「ほんとうにミーシャなの?」

 理恵がそう訊いた。ヨーナはマリオンの父だ。カミーオもミーシャもヨーナの部下だ。


「私は三島幸子。法務省検警特捜庁検警特捜本局特務部、洋田評議委員長直属の特務司令官で、法務特捜官で、医師だ。

 今回、特別警護班の警護指揮官を兼務している・・・。

 今は、ネオテニーと完全に精神同化したといっていいだろう・・・。

 話はここまでだ」

 と三島幸子。


『思念波を使わないのは、クラリックに気づかれないためだね・・・』

 理恵が省吾に精神空間思考で伝えてきた。

『この警護員、ニオブ特有の複数人格を感じさせる気配がまったくないよ・・・。

 先生、これって精神空間思考みたいだよ・・・』

『うん、わかった・・・』

 受付けが近づいた。

 受付けで理恵は担当者の思考を読みとり、手際よく手続きをすませた。

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