三章 猟奇殺人

一 悲惨な遺体

 グリーゼ歴、二八一六年、九月二十三日、〇八〇九時。

 オリオン渦状腕外縁部、テレス星団フローラ星系、惑星ユング。

 ユング共和国、ダナル大陸、ダナル州、メガロポリス・アシュロン郊外、ノースイースト地区。



「緊急出動!ノースイースト地区一五〇N八三で変死体発見!

 緊急出動!ノースイースト地区一五〇N八三で変死体発見!」

 クラリスが緊急連絡した。


「了解」

 マリーとカールは、西側にアシュロンキャニオンを見おろす地下オフィスから、同層階の格納庫へ移動して、PVに搭乗した。他のコンバットも、PV三車両に搭乗している。

 PV四車両は垂直上昇して、上空のダイアフラムを抜け、テレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプの上空へ出た。

 PVは二分ほど水平飛行してノースイースト地区に降下した。ここはアシュロンから北東に十キロメートルに位置する市街地だ。



「被害者の死亡時刻はいつだ?発見したの誰だ?」

 ノースイースト支部のコンバット指揮官オリバー・ミン少尉にカールが訊いている。

 ベッドで死亡している二人はバリー・ロンドとミッシェル・ロンド。三十二歳と二十六歳の夫妻だ。

「死亡時刻は今日〇一二八時。発見したのは夫の妹ミカ、二十三歳です。〇六三五時に発見して通報しました。妹は被害者夫婦と同居してます」

「不審者が侵入した形跡は?」

「何もありません。妹は、不審な事はなかった、と言っています」


 マリーは、カールとオリバー・ミン少尉の話を聞きながら、被害者を確認した。

 二人とも後頭部の下部に穴が開いて内部が欠損しているが血が出ていなかった。

「セックス中に襲われたのか・・・」

 ベッドのふたりは全裸だ。ほぼ抱き合った体勢で後頭部下部に被害を受けている。夢中で愛し合い、侵入者に気づかなかったのだろうか?そんなことはあるはずがない。いくらセックスに夢中でも、侵入者には気づくだろう・・・。

「外科手術でも、こんなに綺麗に組織を抜きとれない・・・」

 コンバットの報告を聞き終えたカールがそう言って、被害者を確認した。


「クラリス。被害者の被害部位をスキャンしてくれ」

「了解・・・」

 マリーの指示に、エネルギーフィールドで構成されたアバターのクラリスが、ロドニュウム装甲のバトルアーマーから探査ビームを放って被害者の頭部をスキャンした。マリーの前に頭部被害部位の3D映像が現れた。

 いつものように、クラリスはコンバットの一員としてふるまっている。

 一般のコンバット(テレス連邦共和国軍警察重武装戦闘員)はクラリスを、総司令官マリー・ゴールド大佐直属の佐官だと思っている。


「どうなってる?」

 マリーは医学に精通していないが、無くなった脳組織が何かくらいはわかる。

「小脳と間脳が無い。切断部位はみごとに止血してる」

 クラリスは被害者の頭部被害部位のスキャン3D映像を示した。

「レーザーか?」とカール。

「高周波電流やレーザーパルス等が考えられる。波動残渣は無い。消去されてる・・・」 クラリスは波動残渣の消去を考えている。波動残渣を消去できるのは、時空間スキップを自由に行える者だけだ。


「脳内組織をスキップして抜きとった可能性はないか?」

 マリーは、侵入者がいなかったように感じてそう言った。 

「事前に組織を止血しなければ、直接スキップはできないわね。

 組織を防御エネルギーフィールドでシールドすれば、シールド部位は高周波の電磁波を浴びた状態になるから、スキップは可能になるわ。

 そうなると、頭部に穴をあける必要はなくなるわね・・・」

 クラリスは、他の可能性を考えている。


「方法は後で考えよう。目的は何だと思う」とカール。

「組織培養できるのに、組織を奪う必要があるか?」

 マリーは組織売買では無いと判断した。

「組織売買の線は無い・・・」

 マリーの言葉に、カールは納得した。


「クラリス。被害者に、何か変化はないか?」

 波動残渣が消えているなら、被害者から事件の手掛りを探るしか無い。

 マリーはクラリスに、被害者の全身を探査ビームでスキャンするよう指示した。

 クラリスはバトルアーマーの探査ビームを、被害者の全身に走査した。



 一分後、クラリスがスキャン結果を言う。

「特別な変化はないわ。興奮の絶頂で組織を抜かれた可能性が大きいわね」

「どういうことだ?」とカール。

「セックスで絶頂に達し、そして死亡した・・・」とクラリス。

「タイミングがたまたま一致したのか?それとも、その時を狙って組織を奪ったのか?」

 カールは、加害者が意図的にタイミングを計った気がした。

「今言えるのは、タイミングが一致した事だけよ」

 クラリスは事実だけを述べた。


「奪われた組織は移植が可能か?」

 レプリカンを培養できるのだから組織移植は必要はない。組織を抜かれた理由は他にあるはずだとマリーは考えた。

「不可能ではないが、現代医学では難しい。使うとすれば、実験だと思う・・・」

 そう言うクラリスは自分の言葉に懐疑的だ。


 カールは、遺体にまだ何かが残されている気がした。

「遺体を回収して、さらに調べた方がいいと思うが、どうする?」

「回収してくれ。ミカには、私が話しておく・・」

 マリーはカールにそう言って、クラリスとともに、バリー・ロンドの妹ミカ・ロンドが居る別室へ行った。

 カールはフォースバレーキャンプのコンバットたちに遺体の回収を指示し、ノースイースト支部のコンバットに、この家とノースイースト地区の厳重な警護監視を指示した。

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