十三 小惑星型宇宙船爆発、スキップ攻撃
一二〇〇時が迫った。
「時間だよ。映すね・・・」
クピが四基のパラボーラと、惑星イオスの太陽・恒星リオネルをスカウターに3D映像化した。恒星リオネルを直接捕捉した映像ではない。陽光を遮ったフィルター後の3D映像だ。
「見ててね・・・」
集光のためパラボーラは四基とも巨大パラボラ反射鏡を恒星リオネルにむけたまま、集光したエネルギーをマイクロ波に変換していない。自己防衛システムが働いてレーザーパルスを発射するよう集光したエネルギーを一〇〇パーセント蓄えている。
そして、一二〇〇時。
四基のパラボーラが同時に恒星リオネルの方向へ巨大なレーザーパルスを放った。
突如、太陽の中心がスーパーノヴァのごとく大爆発した。
「ほら!爆発したよ!」
アイネクの宇宙船の爆発は激しく、恒星リオネルの光球外まで各種爆発エネルギー波を放出した。爆発は恒星リオネルの恒星爆発と思われ、惑星イオスの天文学者をあたふたさせたが、情報収集衛星の観測から太陽の手前にある小惑星が異常爆発したと判明し、天文学者のみならず惑星イオスの為政者を安心させた。
「宇宙船は壊滅したよ。イオスのヒューマは、アイネクの宇宙船が爆発したなんて、誰も気づいてないよ。
だけど、あたしたちに気づいた何匹かのアイネクが飛行艇で逃げ延びたよ」
クピは爆発したアイネクの宇宙船を4D探査して生命反応を確認した。小惑星型宇宙船の破片が飛びちった宇宙空間に生命反応はない。アイネクの脱出ポッドも、気密防護バトルスーツを着用した処理官も管理官も、アイネクの卵も、宇宙空間に存在していない。
マリーが言う。
「ヒューマ社会にまぎれてる管理官と処理官も、母船が壊滅したのを知ってる。管理官と処理官を抹殺しないとイオスに平和は訪れない・・・」
ヒューマ社会に紛れこんだ管理官と処理官とアイネクを、どうやって見つけたらいいのだろう・・・。通信機・ネックとアリスを起動すれば、アイネクの関係者の位置はわかるが、こっちの位置も知られてしまう・・・。
「ねえ、クピ。アイネクの社会は蟻や蜂のような社会だと言ったけど、アイネクが何匹かいたらアイネクは復活するの?」
「うん。一匹でも卵を産むのがいれば、そいつが女王蜂みたいになるよ。
今までの女王はケルタ・ボーマン艦長だったよ。
だから、早くアイネクを見つけて壊滅しようね」
そう言ってクピはバスコを見てつづける。
「ねえ、バスコ、アイネクの飛行艇があたしたちを探してるよ。
早くこの飛行艇にバスコの兵器を積んで戦闘態勢にしたいけど、この処理室と冷凍庫の中身をどうする?」
「全部でどれだけあるの?」とマリー。
「百五十一だよ」
飛行艇の冷凍庫には、三十四名の遺体がある。処理された者も含めると百百五十一名だ。このまま積んでいたら、バスコが作った兵器を搭載できない。遺体をどこかへ捨てるわけにもゆかない。どうしたらいいかバスコとマリーは見当がつかない。
飛行艇のディスプレイにレッドバルシティ監視監督本部が映った。次々に巨大粒子ビームパルスが現れ、レッドバルシティ監視監督本部を攻撃している。映像は、レッドバルシティ監視監督本部上空でステルス滞空しているアイネクの飛行艇が他の飛行艇に、レッドバルシティ監視監督本部攻撃に加わるよう要請したものだった。
「なんてことなの!」
「クソッ、先を越されたぞ!」
監視隊を救えばこの飛行艇がアイネクに知れてアイネクの施設から攻撃され、飛行艇で逃げたアイネクを取り逃がす!アイネクの施設と飛行艇の壊滅が先だ!
「攻撃は飛行艇からだけなの?」
マリーの問いに、クピはシールドの微細間隙を一瞬だけ開いて4D探査した。
「Aliceとステルスの飛行艇からだよ!」
「Aliceと飛行艇を同時に破壊できるか?」
「バスコの兵器があればできるけど、スキップする兵器がないよ」
「それなら、冷凍庫の中身を全て、レッドバルシティ監視監督本部上空にいる飛行艇へスキップするんだ。シールドされてもいい。急げ。
同時に家のシールドを一瞬開いて、兵器と修理ロボット・ボットをここにスキップする」
バスコたちの飛行艇はバスコの岩窟住居があるテーブルマウンテンの頂上にいる。
ここにスキップする時、攻撃されなかったから、アイネクの施設Aliceも飛行艇も、バスコたちの飛行艇に気づいていない。たとえ気づかれてもクピの多重位相反転シールドはアイネクのシールドより緻密だ。スキップ攻撃してくるレーザーパルスや粒子ビームパルスは多重位相反転シールドに吸収され、スキップしたミサイルは多重位相反転シールドで誘爆する。
「わかった!遺体をスキップするね!」
処理された者も含め、バスコたちの飛行艇にある百五十一の遺体が、レッドバルシティ監視監督本部を攻撃しているアイネクの飛行艇へスキップした。
同時にバスコの岩窟住居にある兵器全てと、修理ロボット・ボットが、バスコたちの飛行艇にスキップした。
なぜか、アイネクの飛行艇の位相反転シールドはクピの遺体スキップ転送を遮蔽できない。遺体は一機の飛行艇の冷凍庫とコクピットに圧縮転送され、コントロールを失った飛行艇はあっけなくレッドバルシティ監視監督本部のエアポートに墜落した。
墜落した飛行艇は位相反転シールドの光学迷彩が壊れ、全長五十レルグほどの、黒色で
平たい楕円体状船体をあらわにした。壊れた冷凍庫から、生皮を剥いだ遺体と処理された部位がエアーポートに飛びちり、長さ二十フィゲル(約二十センチメートル)ほどの太い腸詰めのような固まりが数十個散らばった。
コクピットからは遺体とともに、三本指の処理管二名と二匹のアイネクと、長さ二十フィゲルほどの太い腸詰めのような固まりが十個ほど転がりでた。
粒子ビームパルスをスキップ攻撃されているレッドバルシティ監視監督本部の監視隊員たちは、一瞬にしてロコ・ミロビフ監視隊員の供述が事実だと知ったが、遺体や処理された部位にまぎれた、長さ二十フィゲルほどの太い腸詰めのような固まり数十個を、単なる腸詰めだと思い、不思議に思う者はいなかった。
「飛行艇のシールドはスキップ攻撃を回避できない!
飛行艇は何機だ?Aliceのスキップドライブはいくつある?」
「うーんと、飛行艇が三十。Aliceに二つだよ。
全部、座標設定してロックしたよ!」
クピは、アイネクの小惑星型宇宙船の中央制御室で、ケルタ・ボーマン艦長のモニターからアイネクの施設と飛行艇を全て把握している。
「飛行艇三十機、Aliceのスキップドライブ二機を破壊する!
スキップに使える対艦ミサイルとヘッジホッグは合計で二十五発だ。
残りは四門のレールガンの弾丸をスキップ攻撃するしかない!
これで二十九を攻撃できる!
残り三つへ対艦レーザー砲と対艦粒子ビーム砲のエネルギーをスキップできるだろう?」
バスコの岩窟住居は地階の作業場と格納庫のあいだに、隠しドアハッチから入る地階から二階まで吹きぬけになった兵器工場がある。
ここから飛行艇にスキップした通常兵器は、対艦ミサイル、対艦レーザー砲、対艦粒子ビーム砲、対艦電磁パルス砲だ。
新兵器はレールガン、電磁パルスガン、電磁パルス魚雷、ヘッジホッグ(超小型多弾頭多方向ミサイル)、ビームネット(多方向広角同時照射ビームパルス砲)だ。
「うーんと、この飛行艇のもあわせると、対艦レーザー砲と対艦子ビーム砲の数が十三だから、一回に十三個のエネルギースキップできるよ」
スキップ攻撃はたとえるなら大砲と砲弾の関係だ。ミサイルという砲弾をスキップドライブという大砲で時空間転送する。
今のところ、レーザー砲などエネルギーマスを連射的にスキップできない。単発のレーザーパルスと粒子ビームパルスをスキップ(時空間転移)するだけだが、レーザーパルスと粒子ビームパルス、レールガンは第二波の攻撃に使える。
「レールガンに十キログロブ(約十キログラム)の弾丸を装填しろ」とバスコ。
「装填完了!」とマリー。
「Aliceのスキップドライブと施設を破壊するよ!電磁パルス魚雷も使うよ。そうすれば電子機器は使用不能だよ」とクピ。
「了解!」
「対艦ミサイルとヘッジホッグ、電磁パルス魚雷、対艦レーザーと対艦粒子ビーム、レールガン、ロック完了。
スキップ!」
飛行艇の多重位相反転シールドが、一瞬、部分解除して閉じた。その一瞬に、セットした兵器とレールガンの高速弾とエネルギーマスがアイネクの飛行艇とAliceの施設へスキップした。
スカウターにクピが4D探査した3D映像が現れた。
レッドバルシティ監視監督本部への巨大な粒子ビームパルス攻撃が止んだ。周囲へ、ステルス解除した何機もの飛行艇が墜落してゆく。
これでアイネクのスキップ攻撃の脅威は去ったとバスコとマリーは思った。
そう思ったのは一瞬だった。非難した監視隊員を市民が襲っている。市民の腕は甲殻類の甲羅におおわれ、その先に三本の指が粒子銃を握っている。処理官だ! 「何機、撃墜した?」
「二十六機だよ。まだ五機いるよ。追尾してる・・・」
「レッドバルシティ監視監督本部上空へスキップだ。アイネクの飛行艇がいるかも知れない。多重位相反転シールドは維持しろ!
マリー。通信機・ネックとアリスを起動してくれ!」
「了解した!」
「クピ。通信機の送信先を4D探査してアイネクと処理官と管理官の居所を探れ。
管理官と処理官を攻撃するんだ。
飛行艇とスキップドライブも完全に破壊するんだ!」
「はいよ」
一瞬、身体が浮いたような感覚が現れ、飛行艇がコンラッドシティのテーブルマウンテンからレッドバルシティ監視監督本部上空へスキップした。
スカウターにレッドバルシティ監視監督本部の3D映像が現れた。
「レッドバルシティ監視監督本部の一キロレルグ上空だよ」
スカウターの3D映像に、監視監督本部前の広場にいる群集のあいだに攻撃目標を示すマーカーがついている。処理官と管理官だ。
「処理官と管理官だよ。ロックして攻撃するよ。バスコとマリーも攻撃してね」
「了解!」
3D映像が拡大した。処理官の三本指の手が粒子銃を監視隊員にむけている。
クピは飛行艇の対艦レーザー砲をプログラムして、ビーム径を絞ったレーザーパルスを、ロックした処理官と管理官たちへ次々に放った。バスコとマリーもビーム径をしぼった粒子ビームパルスをロックした処理官と管理官に放った。
処理官と管理官は頭を撃ちぬかれて倒れた。処理官に狙われていた監視隊員は驚いて、誰が処理官と管理官を撃ったか、頭上を見あげている。
「クピ。バルデス監視隊長に連絡できるか?
「できるよ。監視隊員たちはパッチ通信機の代りにスカウターを使ってるよ」
「監視隊の通信回線に音だけで割りこんでくれ」
「はい・・・。割りこんだよ」
バスコは話した。
「バルデス監視隊長!俺はバスコ・コンラッドだ!
上空からステルス艇で、異星体・アイネクの処理官と管理官を攻撃してる。
スキップ攻撃していたAlicの施設と飛行艇を攻撃した。あと五機、飛行艇がいる。
ヒューマに化けたアイネクの管理官と三本指の処理官、二レルグのゴキブリ・アイネクがヒューマ社会にいる。こいつらと、アイネクの施設のリストを送る。
アイネクの処理官と管理官は全員抹殺しろ。そうしないとヒューマはアイネクの餌にされる。
クピ。処理官と管理官と潜伏してるアイネクと、施設のリストを送れ」
「送ったよ!」
クピはアイネクの小惑星型宇宙船を探査したとき、惑星イオスに潜入しているアイネクの処理官と管理官、アイネクの施設を4D探査で把握している。
バルデス監視隊長が応答する。
「リストを受けとった。アイネクは全て抹殺する!ヤツラの獰猛さは皮剥事件で理解してる。前レッドバルシティ本部長がヒューマに化けたアイネクの管理官だった。
太陽の手前で爆発した小惑星は、異星体の宇宙艦か?」
「そうだ」
その時、警報が鳴った。スカウターの3D座標にステルス状態の飛行艇が現れている。
「バスコ!真上に飛行艇が五機いる!上を攻撃する!
クピ!シールド強化して!」
マリーが叫ぶと同時に、バスコたちの飛行艇は対艦粒子ビームパルスを連続被弾した。大量のエネルギーマスを浴びて多重位相反転シールドはエネルギーを吸収できない。飛行艇は大衝撃と轟音に包まれていっきに落下した。
「墜落するぞ!マリー!身体を固定しろ!
クピ!マリーと俺の身体を多重位相反転シールドしてくれ!」
「シールドしたよ!衝撃に備えてね!」
クピがそう叫んでいるあいだに、飛行艇は対艦粒子ビームパルスを被弾し続け、轟音と大衝撃に包まれた。
「ウワッッッーー!」
飛行艇はレッドバルシティ監視監督本部の屋上に轟音をたてて墜落した。
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