十四 墜落

「バスコッ!バスコッ!」

 スカウターからバルデス監視隊長の怒鳴り声が響くが、バスコは答えない。気を失っている。

「バスコ!マリー!だいじょうぶ?!」

 クピがバスコを揺りうごかした。

「・・・」

「ふたりとも!おきて!」

 こんどはマリーを揺りうごかした。マリーが目をあけた。

「うーん・・・、背中と頭が痛いっ・・・。どのくらい・・・・、気を失ってた?」

 クピが身体を多重位相反転シールドしてくれたから助かった・・・。

「ほんのチョットだよ。バスコ!おきて!」

「ウウッ・・・、いてててっ・・・、首と背中が・・・・。

 クピのシールドがなかったら潰れてたぞ・・・」

 飛行艇は多重位相反転シールドで守られて損傷はない。バスコとマリーは個別に多重位相反転シールドされて耐衝撃シートに座っていたが、対艦粒子ビームパルスを被弾した衝撃と墜落の衝撃波は激しい。なおも被弾の轟音と衝撃が続いている。


「バスコ!怪我はないか?だいじょうぶか?!」

 バスコの様子を気にしてバルデス監視隊長が怒鳴っている。

「打撲だけだ。なんとか生きてる・・・。

 隊長!アイネクの飛行艇がステルスで本部の真上に五機いた!

 全員を待避させろ!飛行艇は、俺たちが破壊する!

 隊長は、リストのヤツラを処分しろ!」

 監視隊長のスカウターに伝わるのバスコの声だけだ。


「了解した。この粒子ビームパルスの攻撃をなんとかしてくれ!」

「わかった!

 クピ!シールドを強化してアイネクの飛行艇の上へスキップだ!」

「スキップドライブが壊れてるよ!」

「レールガンを連射攻撃する。

 二十キログロブの弾丸を装填、真上の飛行艇をロックしろ!」

「ロック完了!」とマリー。

「クピ、シールド強化!粒子ビーム砲とレーザー砲を五機にロックしろ」

「ロック完了!」

「撃て!」

 バスコの声とともに、クピはロックオンした五機のアイネクのステルス飛行艇へ、対艦レーザー砲と対艦粒子ビーム砲を連射し、四門のレールガンから二十キログロブのロドニュウム弾丸を連射した。レールガンの高速弾は秒速一千キロレルグだ。

 一瞬に、大運動量を持つ高速弾がシールドごと五機の飛行艇内部にめり込み、飛行艇は金属プラズマ化して互いの飛行艇を巻きこんで大爆発昇華した。大衝撃波は周囲を襲い、五機のアイネクの飛行艇は完全に消滅した。

 バスコたちの飛行艇は多重位相反転シールドを強化していたが、大衝撃波を受けてレッドバルシティ監視監督本部の屋上から地上へ吹き飛ばされた。

 地上のヒューマは監視隊員の指示で堅牢な建物の陰に待避し被害を免れた。倒れているのは三本指の男たちと、その者たちに身を寄せていた管理官だった。


「バスコ!マリー!怪我はない?!」とクピ。

「だいじょうぶよ」

「こんどは気絶しなかったぞ!機体の損傷は?」とバスコ。

「機体は多重位相反転シールドで守られたよ!

 シールドも低温核融合ドライブも安定してるよ」

 飛行艇の低温核融合ドライブは壊れていない。飛行とシールド発生は可能だ。

 ボット、スキップドライブ装置は・・・」

 クピは修理ロボット・ボットにスキップドライブの修理を急がせた。


「バスコ!だいじょうぶか?!」

 スカウターからバルデス監視隊長の声が響いた。

 マリーとクピを見ながらバスコが応答する。

「だいじょうぶだ!そっちに怪我人はいるか?」

「軽傷者だけだ。三本指と周りにいた管理官がくたばってる・・・」

 スカウターにバルデス監視隊長と監視隊員の3D映像が現れた。送られたリストで、レッドバルシティ監視監督本部前の広場で死んでいる三本指の処理官とそのまわりで死んでいる管理官を確認している。

「今、監視隊員がリストを手がかりに、レッドバルシティの市施設とAliceの支社など通信機関の管理官と通信機器を処分してる」

 スカウターの3D映像が変った。クピがバルデス監視隊長に送ったリストにはレッドバルシティの公的機関の職員や特殊通信機器メーカー・Aliceの関連機関の職員がいる。監視隊員たちはリストを手がかりに、アイネクの管理官を探査している。

「バスコ。ここへのスキップ攻撃がなければ心配ない。

 こっちは我々にまかせてコンラッドシティ監視監督本部も救ってくれ!」

「了解した!」

 バスコはスカウターの通信を切った。


「クピ。コンラッドシティへスキップだ!多重位相反転シールドを強化してステルス飛行だ!」

 特殊通信機器メーカー・Aliceの所在地はニューコンラッドシティだ。ここから管理官や処理官、アイネクが、レッドバルシティ監視監督本部へむけて粒子ビームパルスをスキップ攻撃した。クピのスキップ攻撃で、Aliceのスキップドライブは壊滅したが、先ほど攻撃を受けたように、まだ壊滅しない飛行艇がありそうだ。

「スキップドライブがなおってないから、コンラッドシティ上空十キロレルグへ飛行するよ!」

 一瞬に身体がシートに押しつけられた。それがしばらくつづいた。そのあと身体の向きが変ったような感覚が現れ、身体がシートに押しつけられた。



 スカウターにコンラッドシティのテーブルマウンテンが現れた。

 バスコたちの飛行艇がコンラッドシティの上空十キロレルグに滞空している。

 クピの張った多重位相反転シールドでバスコたちの飛行艇はステルス状態だ。

「クピ。飛行艇はどこに何機いる?」

 クピがアイネクの飛行艇を4D探査してスカウターに3D映像化する。

「あたしたちの真下、地上から一キロレルグ上空に五機いるよ。

 Alice内で待機していた飛行艇は施設といっしょに破壊したから、コンラッドシティ監視監督本部を攻撃しようとしてるのは、Aliceから出ていた処理官とアイネクだよ。

 アイネクは、バスコとマリーとあたしが監視監督本部の監視官だと思って、コンラッドシティ監視監督本部を探査してるよ」

「Aliceの施設とスキップドライブを再建する様子はないか、探査してくれ」

「アイネクは、コンラッドシティ監視監督本部にバスコとマリーとあたしがいると思ってる。あたしたちを片づけるのを優先してるよ」

「俺たちの家は見つかっていないな?」

「うん、単なるテーブルマウンテンだと細工しといたよ。

 アアッ!たいへん!

 ボーマン艦長が飛行艇を指揮してる!話してた女王蜂だよ!」

 4D探査してクピがそう伝えた。


「クピ。Aliceが完全に壊滅してるか、アイネクの情報網を確認してくれ」

「ちょっと待ってね・・・」

 クピが各監視監督本部の管理電脳空間をハッキングして探査した。

「Aliceの機能は停止してるよ。でも、ケルタ・ボーマン艦長が乗りこんで復旧する気らしいよ」


 小惑星型宇宙船が壊滅した今、Aliceがアイネクの連絡拠点だ。施設その物を完全に破壊すべきだ・・・。

「Aliceを完全に破壊する!

 同時にコンラッドシティ監視監督本部上空の飛行艇も攻撃する!

 スキップドライブはなおったか?」

 バスコは興奮している。

「まだなおってないよ。

 レールガンとレーザー砲と粒子ビーム砲を連射するしかないよ」とクピ。

 バスコたちの飛行艇に残っているのは対艦粒子ビーム砲七門、対艦レーザー砲六門、対艦電磁パルス砲二門、レールガン四門、電磁パルスガン二門だ。

 ビームネット(多方向広角同時照射ビームパルス砲)は防衛専用で攻撃には使えない。


「五機をレールガンとレーザー砲、粒子ビーム砲と電磁パルス砲で連射攻撃する!」

「了解!弾丸装填完了!連射できるわ!」とマリー。

 ただちにクピは五機の飛行艇に、レールガンと対艦粒子ビーム砲と対艦レーザー砲、電磁パルス砲をロックした。

「撃て!」

 バスコたちの飛行艇はコンラッドシティ上空十キロレルグにステルス状態で滞空している。アイネクの飛行艇は本部の一キロレルグ上空にステルス状態で五機だ。バスコたちの飛行艇はアイネクの飛行艇に気づかれていない。


 粒子ビームパルスとレーザービームパルスと電磁パルスのエネルギーマスは五機の飛行艇のシールドで消滅した。

「位相反転シールドじゃない!多重位相反転シールドだ!」

 レールガン連射攻撃で飛行艇四機が壊滅したが、一機がレールガンの攻撃をかわし、バスコたちの飛行艇に粒子ビームパルスの大エネルギーマスをスキップ攻撃した。

 バスコたちの飛行艇は多重位相反転シールドで攻撃エネルギを消滅した。

 そのあいだに、アイネクの飛行艇が位置を変えて攻撃する。


 この飛行艇はこれまでの飛行艇とちがい動きが速い。早く撃墜しないとスキップして逃げられてしまう・・・。

 クピが4D探査して言う。

「あの飛行艇にボーマン艦長がいる!多重位相反転シールドしてる!」

「クピ!レールガンを速射だ!」

「了解!発射!」

 同時に飛行艇が消えた。標的を無くしたレールガンの高速弾はコンラッドシティの外れのテーブルマウンテンを壊滅した。

「艦長はどこへいった?」

 クピが4D探査して言う。

「もうすぐ夕方だから、夜へ逃げる気だよ」

「どういうことだ?」


「太陽が射さない夜の地方へスキップしたんだ」 

「飛行艇のデータがあるから、居所を探査できるだろう?」

「うん。ボーマン艦長の思考記憶探査もできるよ。

 だけど、頻繁に場所を変えてて、ロックできないよ」

「わかった。いったん家にもどろう。

 その前に、バルデス監視隊長と話せるようにしてほしい」

「了解・・・。話せるよ・・・」

 クピが監視隊の3D映像通信回線に割りこんだ。


「バスコ。どうした?」

 スカウターからトニオ・バルデス監視隊長の声がする。

「隊長。

 アイネクの小惑星型宇宙船の艦長ケルタ・ボーマンが飛行艇で惑星イオスの夜の地域へ逃げた。確認した飛行艇は一機だが、他にもいるかも知れない。

 飛行艇はスキップドライブで頻繁に位置を変えてる。広域追尾システムで飛行艇をロックし、スキップした先で撃墜してほしい」

「了解した。アイネクが夜の地域に逃げたのはなぜだ?」

「アイネクは光と熱を極度に嫌う。その他に考えられるのは産卵だ。卵を産む前に壊滅してほしい」

「産卵に関して情報は無いのか?」

「惑星イオスの春と秋が産卵に適していることくらいしかわからない」

「了解した。墜落機から飛行艇の情報を得た。広域追尾する。

 協力に感謝する。では、また」

 スカウターの通信がとだえた。


 スキップドライブを修理しているボットから、修理完了の連絡が入った。

「ボット!ありがとうね!」とクピ。

「ドウイタシマシテ」

「バスコ!マリー!スキップドライブがなおったから、Aliceを完全に破壊するね!」

「了解、レールガン四門、弾丸装填、ロック完了」とマリー。

「対艦粒子ビームパルス砲、対艦レーザーパルス砲、電磁パルス砲、全門ロック完了!」

「発射!」

 クピはニューコンラッドシティの特殊通信機器メーカー・Aliceを4D探査した。

「着弾確認!破壊完了!」

 バスコとマリーのスカウターに現れた特殊通信機器メーカー・Aliceは、地階から地上階まで、全前施設が跡形もなく消えていた。

「さあ、帰ろう。この飛行艇は格納庫に入らない。

 岩窟住居のテーブルマウンテン山頂に着陸して、多重位相反転シールドでテーブルマウンテンに偽装してくれ」

「わかったよ。マリー。ボット、帰ろうね!」

「さあ、帰りましょっ!」

「私ハ、ココデ、待機シテ、イロイロ学ンデイイデスカ?」

「いいよ。あたしもこの飛行艇の電脳空間にコピーを残したよ」

 クピのコピーが言う。

「いっしょに学ぼうね」

「ハイ」

 バトルアーマーのクピが言う。

「そしたら、スキップするよ!」

 飛行艇はコンラッドシティ上空からテーブルマウンテンの頂にスキップした。 


「クピ。こんどは俺たちを家へスキップだ」

「うん。家にいるクピに連絡するね」

 クピは、テーブルマウンテンの山頂に着陸した飛行艇から、岩窟住居のクピに連絡して多重位相反転シールドを一瞬だけ部分解除した。

 その瞬間、バスコとマリーは、飛行艇の電脳空間にいるクピのコピーによって、住居の寝室にスキップした。寝室というものの、暖炉はホワイトホールのゲートだ。非常時はここがバスコとマリーとクピの脱出口になる。今も、クピは岩窟住居の多重位相反転シールド外から岩窟住居内のクピに連絡する際、このホワイトホールを使っている。また、寝室は緊急時に備え、隣室にはコンバットに必要な装備全がそろえてある。兵器工場へは寝室からも行ける。


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