三 FRSEAON 東南アジア・オセアニア国家連邦

 二〇二五年、十月三十一日、金曜、夕食後。

 N市W区の自宅で、省吾はキッチンからココアとコーヒーを運んで、居間の広い掘炬燵の天板に置いた。天板にはタブレットパソコン・モーザがある。

「熱いから、気をつけるんだ。寒くないか?」

「寒くないよ。ショールもあるけど、しなくていいよ」

 理恵はメガネ端末をはずして、炬燵と床を示した。日頃使っている座卓は、堀炬燵に変化している。炬燵は暖かい。床暖房もきいている。

 省吾は理恵の隣に座り、炬燵の中の理恵の手を握った。子供のように湿り気のある、いつもの暖かい手だ。何も違和感はない。理恵の体調は良さそうだ。



 十九時のテレビニュースで、南国サミットが緊急報道された。

《パラオ共和国で開催されている南国サミットで、

「東南アジア・オセアニア経済圏協定諸国」

 から成る

【東南アジア・オセアニア国家連邦、Federal Republic of South-East Asian and Oceanian Natins・FRSEAON】

 が成立しました。

 日本をモデルにした、直接民主制に基づく、真の民主国家連邦の成立です。東南アジア・オセアニア国家連邦政府の組織形態は、日本政府を基盤にしています。国家連邦政府はタイのバンコクに置かれる予定ですが、暫定的に、日本政府が東南アジア・オセアニア国家連邦政府として機能します。 



 地球温暖化防止会議を先導しながら、温暖化防止策を講じず、また、世界経済を困窮させた責任をとらなかった先進諸国は批判されました。

 市場経済と金融資本主義を国際的に根本から見なおし、地球温暖化を防止する新たな協力体制が強まり、

【東南アジア・オセアニア国家連邦】が成立しました。

 なお、韓国、北朝鮮、他国へ侵略している中国は、東南アジア・オセアニア国家連邦に加盟していません。


 南国サミットには、合衆国をはじめとする北米と南米諸国も参加しています。

【東南アジア・オセアニア国家連邦】は、

「世界の安定的存続を考慮し、北米諸国と南米諸国が、国家連邦を構成することを強く望む」

 と声明を発表しました。


 合衆国は東南アジア・オセアニア国家連邦の意見を支持し、合衆国を中心とする「北コロンビア国家連邦」と、南米諸国の「南コロンビア国家連邦」構想を提唱しました。

 サミットに参加している北米諸国と南米諸国は、他の南米北米諸国が、随時、国家連邦に加入できるよう、サミット参加北米南米諸国により、「北コロンビア国家連邦」と「南コロンビア国家連邦」成立の仮調印を行いました。

 事実上の

「北コロンビア国家連邦」

「南コロンビア国家連邦」

 の成立です。

 これは、東南アジア・オセアニア経済圏協定の拡大であり、合衆国を主軸にしたTPP(環太平洋経済協定)の崩壊です。中国、北朝鮮は東南アジア・オセアニア経済圏協定だけでなく、TPPにも加盟していません。韓国はTPPに加盟していますが、東南アジア・オセアニア経済圏協定には加盟していません。


 合衆国は、

「TPPは東南アジア・オセアニア経済圏協定と名を変えて、合衆国主導から東南アジア・オセアニア国家連邦主導で継続している。実質的になんら支障はない」

 と声明を発表しました。

 そして、

「今後、さらに日米安全保障条約を強固に維持し、集団的自衛権を強固に行使する、と国連安全保障理事会の常任理事国の合衆国として、このサミットの場で公式表明する。

 軍事力を増強して他国へ侵略している中国に備え、沖縄、ガァム、フィリピン等、合衆国と安全保障条約を締結している環太平洋諸国の各米軍基地それぞれに、最新鋭ロータージェット・ステルス・高速戦闘ヴィークル三十機ずつを配備し、これまでの日米安全保障条約と環太平洋諸国との安全保障条約を、東南アジア・オセアニア国家連邦との安全保障条約へ、さらに、環太平洋国家連邦諸国との安全保障条約へ、合衆国主導で拡大する」

 と環太平洋安全保障条約を提唱しました。



【東南アジア・オセアニア国家連邦】は、

「東南アジア・オセアニア国家連邦は、合衆国に依存しない、全地球規模の安全保障と成るべく軍事力を日本の地球防衛軍を基盤として組織した」

 と発表しました。


 暫定的に、東南アジア・オセアニア国家連邦の各国軍が、日本の地球防衛軍総司令官の指揮下に入りました。

 これにより、正式に世界最強の国家連邦防衛軍

【東南アジア・オセアニア国家連邦、地球防衛軍】

 が誕生しました。


 日本を含め、これまでの東南アジア・オセアニア諸国は、自国にとって圧倒的に不利な地位協定を合衆国と結んでいました。各国が、大国の権力をかざした合衆国軍の横暴と、駐留軍兵士の犯罪に苦しんできました。

 地球防衛軍の発足は、事実上の合衆国との安全保障条約と地位協定の破棄であり、合衆国の権威の失墜です。


【東南アジア・オセアニア国家連邦】は、

「東南アジア・オセアニア国家連邦に対するあらゆる攻撃に対し、地球防衛軍は反撃して殲滅する。現在、東南アジア・オセアニア国家連邦国内に進出して、領土を実効支配している国家を、侵略国家と見なし、領土奪回のために侵略地を空爆する」

 と国際社会に通達しました。


 緊急速報です・・・。

 中国が、海洋進出して実効支配している諸島の軍と中国人、チベットやベトナムなど、国境付近の各自治区に駐留している軍に、撤退命令をだしました。

 ロシアと韓国が、実効支配している諸島から、軍と国民を引きあげるよう指示しました。

 世界最大最強の防衛軍を保有する東南アジア・オセアニア国家連邦の情勢をかんがみ、世界各国に変化が生じています。

 東南アジア・オセアニアに自治領を有するEU(欧州連合)諸国は、これまで独立を望んできた、東南アジア・オセアニアの自治領の独立を、即時に承認しました。


 国連総会は、

「独立を望む各国自治領や自治区、現在、国連のオブザーバーとしてのみ国家承認されている自治区、その他国家の自治領と自治区の民族独立について、速やかに協議し、自治区と自治領の民族の独立を認め、自治区と自治領を独立国家の国土として正式承認する」

 と正式に決議発表しました。


 さらに、国連総会は、

「現在、国連のオブザーバーとしてのみ国家承認している地域、パレスチナとマルタ騎士団国(正式名称、ロードス及びマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会)等を、独立国家として承認する。

 パレスチナの自治区をパレスチナの国土として承認する。

 マルタ騎士団国が領土として主張するロードス島(ギリシャ共和国)とマルタ島(マルタ共和国)を国土として承認するが、現在、両地区はマルタ騎士団国の自治区ではないため、領土保有権と、居住するギリシャ、マルタ両国民の居住権について、国際裁判所にて裁定する。

 中国が実効支配するチベットや各諸島など、大国が軍事力で実効支配している領土と人民を、支配前の国土を有する独立国家として承認し、今後の大国による実効支配を認めない」

 と決議発表しました。


 国連安全保障理事会常任理事国は、国連総会決議の発表に対し、拒否権を発動して反対しています。

 合衆国とイスラエルは

「安保理決議でない」

 として、パレスチナの国家承認に反対しています。


 東南アジア・オセアニア国家連邦とEU、合衆国を除く北コロンビア国家連邦と南コロンビア連邦の仮調印諸国は、国連総会決議を支持し、パレスチナとマルタ騎士団国等、これまで自治領や自治区だった地域の民族独立を認め、国家承認しました。

 これまで多くの国連加盟国が、

「五ヶ国の安全保障理事会常任理事国が、正義に基づかない自国の利益のみを通して、国際連合を独占支配している」

 と批判的でした。



 国連総会は、世界最強の地球防衛軍を組織した東南アジア・オセアニア国家連邦の成立により、正式に次のことを発表しました。


「安全保障理事会制度を廃止する。

 国際連合を支配してきた、第二次世界大戦勝利国である安全保障理事会常任理事国、合衆国、イギリス、 中国、フランス、ロシアを罷免排斥し、安全保障理事会制度を廃止する。


【国家統合会議】を発足する。

 第二次大戦の勝利国である『連合国』の名称を使用してきた『国際連合』を廃止して、これまでの、国際連合安全保障理事会常任理事国を除く、かつての国際連合の全加盟国によって構成される、【国家統合会議】が発足する。

 世界の安全保障をはじめ、すべての決議を、国家統合会議総会の三分の二以上の議決によって決定する」


 EU加盟国の英仏は、ただちに、【国家統合会議】の決議に賛同しました。

 当然のように、合衆国とイスラエルは、この議決に反対しています。

 他国の領土を軍事力で実効支配している中国は、漢民族を上回る国内他民族独立やチベット独立、そして、領土問題を懸念して、反対しています。

 ロシアと韓国は、領土問題から反対しています。


 かつての安保理常任理事国が反対しても、多数の加盟国から成る【国家統合会議】の決議はくつがえりません。

 たった五ヶ国の自国の利害に絡む思想などによって、民族の独立を妨害できません。自国の欲に絡んだかつての常任理事国に、世界を正義へ導くなどできないのです。

 中東の、パレスチナとイスラエルの建国と領土問題は、パレスチナ人が居住する領土に、パレスチナ国家の建国とイスラエル国家の建国を認める二枚舌外交で、現在、常任理事国になっている連合国が、パレスチナ人とイスラエル人をドイツと戦わせた事に起因しています・・・》

 他のニュースに変った。



「先生、これで【未来のあるべき世界】までの時系列が埋まったね。

【未来のあるべき世界】はまだ実行されてないよ。

 日本の法律は国家連邦の統合政府を見すえた法律だから、そのまま利用できるよ」


「うん、そうする。これで安保理は廃止だ。常任理事国の権力は消える・・・」

 省吾はタブレットパソコン・モーザを起動して日記を書こうとして、【未来のあるべき世界】の文章前の、異変に気づいた。



【未来のあるべき世界】の最後部に書いた文章、

『二十世紀の人々は欲望のままに望む物を生産し、得たい物を手にいれ、不要と判断した時に廃棄した。彼らから見れば、ここに書いた二十一世紀は途方もなく制約だらけで経済的欲求の暗黒時代といえる。

 しかし、二十一世紀半ばには、産業は生産過程で廃棄物を産出せず、製品その物は自然分解可能か再利用可能な物になり、資源は再利用されるようになる。

 だが、どのように法律を整備しても、例外を認めてしまうのが人間だ。社会の裏で蠢く者が現れ、財界にも新たな経済理念を求める者たちか、国連政府の認める完璧な製品を見つけて、それらを創りだそうとするだろう・・・』

 が【未来のあるべき世界】の前に移動している。


 閃きで書いたこの文章は、再生医療の産業化を示している。まだ実行されていないはずだ・・・。

 連邦についてではないから、省吾はこの文章を消去しようとしたが、

『どのように法律を整備しても、例外を認めてしまうのが人間だ。社会の裏で蠢く者が現れ、財界にも新たな経済理念を求める者たちか、国連政府の認める完璧な製品を見つけて、それらを創りだそうとするだろう・・・』

 の文章が消えない。

 なぜだ?現実に行われてるのか?


 省吾は残った文章移動をためしたが、文章は三行移動しただけだった。

 実行されていない文章は、修正も移動も可能なはずなのに、この文章は、かってに移動した。なぜだ・・・。

 クラリックはバイオテクノロジーを使い、人や鳥のクローンのバイオロイドを作っていた。それも、有機組織の完全体だ。まだ、どこかで、有機体や有機組織を作っているのか・・・。

 しばらく考えたが、考えがまとまらない。

 とにかく【未来のあるべき世界】を書きあげよう・・・。



 省吾は【未来のあるべき世界】の「国際連合」と「国連」という言葉を【連邦統合】に書きなおし、連邦を統合した全地球の統合国家を【ガイア】とする、修正文章を作成した。


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